2020年03月28日 09:11 弁護士ドットコム
就職するにあたって、家族に「保証人になって」とお願いし、会社に提出する書類にサインしてもらったことはないだろうか。その書類を「身元保証書」という。
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身元保証書には、新入社員の出身・経歴などに誤りがないことを確認するための「人物保証」の意味があるともいわれるが、法的には、従業員の行為で会社が損害を被った際、サインした人が連帯して賠償することを約束する契約書だ。
ところが、これまで身元保証人の賠償額についての定めがなく、想定外の賠償額を支払わなければならないおそれがあった。
2020年4月1日に施行される改正民法では、「保証」に関する規定が見直され、身元保証人の連帯責任については限度額の設定が必要となった。
身元保証契約は、期間を設定しなかった場合は3年、設定した場合でも最長5年と決められており(身元保証法1・2条)、基本的には自動更新はできないなど、保証責任に対する一定の制限がある。
一方、身元保証法には保証の限度額についての定めがない。会社側は単に「損害額を賠償する」「賠償の責任を負う」などと記載し、限度額を定めていない身元保証書のひな型を作成することが一般的だ。
身元保証は「根保証(ねほしょう)」の一種とされている。根保証とは、将来発生する不特定の債務の保証である。
たとえば、保証人となる時点では、現実にどれだけの債務が発生するのかがはっきりしないなど、どれだけの金額の債務を保証するのかが分からないのが根保証だ。
根保証は民法で規制されており、「貸金等債務に関する根保証」に限り、限度額(極度額)を定めなければならないルールはあるものの、身元保証は「貸金等債務に関する根保証」ではないため、そのルールが適用されていなかった。
今回の改正では、すべての根保証に限度額の設定を義務づけることとなった。これにより、身元保証契約でも限度額を定めることが必要となり、定めていない場合は身元保証契約が無効となる。ただし、2020年4月1日以前に締結された身元保証契約には、このルールは適用されない。
限度額の設定は、会社側にとって悩ましい問題かもしれない。
高額にすれば身元保証人のなり手が見つからないということになりかねず、一方であまりに低額ではわざわざ身元保証書を作成する意義がなくなりかねない。
また、身元保証人の賠償額は、最終的には裁判所が会社側の過失や保証するに至った経緯などから判断されることから(身元保証法5条)、そもそも契約時に具体的な金額を定めること自体が難しいともいえる。
今回の民法改正により、「身元保証制度」のあり方そのものが問われているといえるだろう。