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『恋つづ』と『テセウスの船』が示した今後のドラマ界トレンド 不安な世の中を忘れさせる清涼剤に

2020年03月28日 06:01  リアルサウンド

リアルサウンド

『恋はつづくよどこまでも』(c)円城寺マキ・小学館/TBS スパークル・TBS

■時代に求められた『恋つづ』と『テセウスの船』


 冬クールドラマは医療ドラマや刑事ドラマのシリーズモノばかりで民放のプライムタイム(19~23時)のドラマに関しては新味が感じられる作品が少なかった。


【写真】黒縁メガネをかけた佐藤健のまなざし


 もちろん医療ドラマの中にも『アライブ がん専門医のカルテ』(フジテレビ系)や『心の傷を癒すということ』(NHK総合)のような意欲作もあったのだが、新型コロナウイルスをめぐる状況が世界中で刻一刻と変化しており、いつ日本でも医療崩壊のようなことが起きてもおかしくないという渦中にいると、あまり積極的に観たいとは思えなかった。


 それは連続テレビ小説『スカーレット』(NHK総合)終盤でヒロインの息子が慢性骨髄性白血病に侵されるという場面にしても同様で、フィクションの中で病院が描かれると、どうしてもコロナのことを連想してしまう。


 そんな中『恋はつづくよどこまでも』(TBS系、以下『恋つづ』)は例外的に安心して最後まで楽しめた医療ドラマだったが、本作は医療モノというよりは病院を舞台にしたラブコメだったから多くの人に受け入れられたのだろう。魔王と呼ばれるドS医師・天童浬(佐藤健)と勇者と呼ばれる看護師の佐倉七瀬(上白石萌音)の、今どきこんなのありかと思うようなベタベタの甘い展開の連続で、観ていてついついニンマリとしてしまう。不安な世の中を忘れさせてくれる、一服の清涼剤として楽しめた。


 一方、『テセウスの船』(TBS系)は、昨年ヒットした『あなたの番です』(日本テレビ系)の「考察ブーム」をうまく取り込むことで話題となった。原作漫画の結末を変えて真犯人を用意したことが最大の勝因だ。『恋つづ』も『テセウスの船』もダークホース的な作品だったが、こういう時代に求められるものは明るいラブコメと、考察を刺激するパズル的なミステリードラマなのだという今後のトレンドを指し示したと言えよう。


■どこから傑作が生まれるかわからない状況


 対して深夜ドラマは意欲作が多かった。個人的にもっともハマったのは、女子高生がキャンプする姿を楽しく描いた『ゆるキャン△』(テレビ東京ほか)。


 福原遥や大原優乃といった女優の使い方がとてもうまく、先に制作されたアニメ版の完コピをするという大胆な演出に最初は驚かされたが、何よりソロキャン(一人キャンプ)をする志摩リン(福原遥)と各務原なでしこ(大原優乃)たち野外活動サークルのメンバーの絶妙な距離感がとても心地よく、新型コロナウイルスのニュースでささくれ立っていた心が癒やされる思いだった。


 その意味で『恋つづ』にも通じる安心感があり、アイドルドラマの理想を見せてもらったように感じた。


 一方、野木亜紀子脚本、山下敦弘監督の『コタキ兄弟と四苦八苦』(テレビ東京系)はレンタルおやじとして働く、古滝兄弟の奮闘を描いた1話完結のドラマ。野木と山下の個性がうまく融合したオフビートでビターな仕上がりとなっており、必要以上に盛り上げない雰囲気がコロナ騒動で激しく揺れ動く世の中にうんざりしている身としては緊急避難するシェルターのような役割となってくれたように感じた。


 NHKのよるドラ枠で放送された『伝説のお母さん』は、もっとも今の空気を反映していたのかもしれない。RPGの世界を用いた社会風刺コメディと言える本作は、観ていると背筋が寒くなる瞬間が何度もあり「子育てを後回しにした人類の負けですね。おとなしく滅びましょう」という台詞は何かある度に思い出す。


 MBS(毎日放送)制作の変態教師の女子生徒へのいびつな愛情を描いた学園ドラマ『ホームルーム』やTVO(テレビ大阪)制作の46歳の中年男性が過去にタイムスリップして高校生活をやり直す姿を描いた80年代ノスタルジーに満ちた学園ドラマ『ハイポジ 1986年、二度目の青春。』など、地方局制作の深夜ドラマの奮闘も目立った。


 前クールに放送されたメ~テレ(名古屋テレビ)制作の『本気のしるし』の時にも思ったことだが、今は地方局だろうと深夜枠だろうと、力のある映画監督に任せることでハイクオリティの作品が生まれることが当たり前の状況になってきている。配信ドラマも含めると、どこから傑作が生まれるかわからない状況で、地上波の外に目を向けると意外と豊作だったのかもしれない。


■アフターコロナの時代をどう描く?


 新型コロナウイルスの影響は世界中に及んでおり、新作映画の公開延期はもちろんのこと、長編映画や海外ドラマの制作中断が多数発表されている。


 国内ドラマは、次クールの作品は東京オリンピックの影響で、前倒しで撮影されたこともあって大きな影響はなさそうだが、オリンピック延期によって空いた放送枠を埋めないといけないことも含め、夏クールには大きな影響があるのではないかと思う。 


 感染拡大に備えて、東京を中心とした都道府県が外出の自粛要請が出ている状況が今後どうなるのかわからないが、こういう時こそ、じっくりとドラマを鑑賞したい。


 『ゆるキャン△』のような癒やしもありがたいが、アフターコロナの時代の生き方を示すような新しいドラマが続々と作られることを期待している。


(成馬零一)