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伊藤健太郎、『スカーレット』は紛れもない代表作に 光る“真面目さ”で主役街道へ

2020年03月28日 06:01  リアルサウンド

リアルサウンド

伊藤健太郎 『スカーレット』(写真提供=NHK)

 俳優・伊藤健太郎がまさに飛ぶ鳥を落とす勢いだ。映画では『のぼる小寺さん』『とんかつDJアゲ太郎』『今日から俺は!!劇場版』『弱虫ペダル』などの公開作を控え、TVドラマでも『ピーナッツバターサンドウィッチ』(MBS)、『東京ラブストーリー』(FOD/AmazonPrimeVideo)の放送がまもなく始まり、現在、連続テレビ小説『スカーレット』(NHK総合)では主人公の喜美子(戸田恵梨香)の息子である武志役を好演し、作品のファンを魅了している。キー局のテレビや、全国ロードショーの映画だけではなく、配信ドラマやCM、舞台など活躍の場も広い伊藤は、どんな仕事も実直にこなす“真面目さ”が光る。


【写真】家族との時間を過ごす武志


 伊藤は『アシガール』(NHK総合)で若君と呼ばれるヒロインの相手役で注目を集め、その後『今日から俺は!!』(日本テレビ系)で本格的にブレイク。以降は、『必殺仕事人2019』(テレビ朝日系)、映画『惡の華』(2019年)、そして『スカーレット』での武志役を射止めた。武志は主人公夫婦を結ぶ大切な役でありながら、後半の『スカーレット』を引っ張る影の立役者でもある。


 伊藤が演じる武志は、子供らしいピュアな愛らしさと、父親である八郎(松下洸平)を彷彿とさせる寡黙で穏やかな姿で、まさに“川原家の一人息子”を体現した。喜美子を「お母ちゃん」と呼び、とりわけ反抗的でもなく、かつ飾り気のない姿で当たり前の日々を淡々と過ごす様子は、非常にリアルな息子像でもあるだろう。


 “息子”という存在は、しばしば素直でなく描かれることが多い。幼なじみの竜也(福崎那由他)などのように、母を困らせることで関心を引く姿は母子を描く上でよくある構図だろう。しかし、武志はそうした反抗的な姿は見せない。それどころか、喜美子に対する感謝や愛情表現は素直で、決してマザコンには見えないが、良好な母子関係を築いていることを示している。この絶妙に人懐こい息子像を演じるのは、実は簡単なことではないだろう。武志という役は、分かりやすい衝突がないまま、喜美子と八郎に復縁してほしいと願い、陶芸の道で陶芸家の両親を持つプレッシャーなど、計り知れない感情を抱いている。さらにこうした想いを言葉にしない姿は、まさに父である八郎とよく似た、見守り型の愛であることを感じさせる。父親の姿を踏襲し、“武志”であることを意識させる子の在り方を演じる中で、伊藤は静かな中にも含みのある芝居を魅せた。


 さらに武志は、『スカーレット』の後半戦を大きく引っ張る大役でもあった。喜美子と八郎を繋ぐ“かすがい”を担い、2人を再度引き合わせた後に、白血病を患い喜美子や八郎にとっての“試練”へと変容する。これは川原家を描く上での非常に重要なポイントとなり、喜美子と八郎の価値観を引き出すための役周りともなる。武志を演じる上での器用な立ち振る舞いは、伊藤が長きにわたり“影から支える”役を多くこなしてきた経歴も関係しているだろう。ヒロインを支え、主役を支え、作品を支える。今までの伊藤はまさに、俳優としてそんなポジションが多い。


 その一方で、2020年からは主演作が増える。今までは誰かを輝かせることで自身も輝く芝居に徹してきた伊藤が、自らの力で切り拓き前に進まなくてはならなくなる。これから公開される作品では、そんな伊藤の一面がより色濃く出るだろう。終盤では、顔も一回り小さくなり胸板も薄くなった伊藤だが、彼がプロ根性で乗り越えた『スカーレット』は紛れもない彼の代表作となったと言えるだろう。


(Nana Numoto)