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『いきマリ』から『さよプロ』へーー結婚リアリティーショー2作品を基に“恋愛と結婚の違い”を考える

2020年03月27日 10:11  リアルサウンド

リアルサウンド

『さよならプロポーズ シーズン2』(c)AbemaTV

 若者を中心に恋愛リアリティーショー(以下、恋リア)が人気を集めている。AbemaTVでは数多くのオリジナル恋リアが配信されており、中には『いきなりマリッジ』(以下、『いきマリ』)や『さよならプロポーズ』(以下、『さよプロ』)といった“結婚”をテーマにした作品も登場した。


(関連:『いきなりマリッジ3』最終話ーー出会って30日目、婚姻届の行方は? “最後の初夜”が鍵に


 『いきマリ』では、初対面で結婚式を挙げ、30日間の新婚生活を送って婚姻届を提出するかを決断する。一方、『さよプロ』では、結婚するタイミングを見失ったカップルが、恋人として最後の旅に出て、“結婚するか/別れるか”のどちらかを選択しなければならない。どちらの作品も、永遠のテーマの一つである “恋愛と結婚の違い”を浮き彫りにする。


 恋リアブームを作ったきっかけの一つであり、現在Netflixで配信されている『あいのり』シリーズや、才色兼備な独身男性をめぐって20人の女性が過酷なバトルを繰り広げる『バチェラー』シリーズ(Amazon Prime Video)、AbemaTVで絶大な人気を誇る『オオカミ』シリーズなど、恋リアというジャンルには数多くの人気タイトルがあるが、これらの基本的な構成は男女が出会い、恋人になるまでを映し出す。対して『いきマリ』と『さよプロ』は恋人になるまでの過程は描かれず、将来の伴侶になるための選択を迫られる。二人で過ごす中で、「好き」という思いではどうにもならない壁に直面し、“結婚”へ至るまでのそれぞれの葛藤のリアルさが魅力なのだ。


 『いきマリ』の面白さは、初対面の見ず知らずの男女がとことん“結婚”に向き合うところ。参加者が複数人いる番組とは異なり、相手を選ぶことができない。初対面同士、一対一で30日間の共同生活を送るという設定はなかなか刺激的だ。しかし、「結婚したい」という強い思いから番組に応募した参加者は、制約があるからこそお互いに全力で歩み寄る。価値観の違いでぶつかったり、アプローチの仕方に悩んだり、時には自分自身を見つめ直したり……。二人の間に起こる事件は、視聴者の心をハラハラさせるが、同時に“気持ちだけでは前へ進めない”という恋愛と結婚の違いを客観的に示してくれる。


 また『さよプロ』は、出会いを提供するのではなく、前にも後ろにも進めないカップルに今後を決断せざるを得ない状況を与える、ある意味とても残酷な番組だ。しかし、“人生の決断”を迫られるカップルの姿を通して、「結婚できない理由は何なのか」「結婚に不安を抱くのはなぜか」「決断に踏み切れない本当の理由は何か」など、多くの人が抱えつつも、目には見えない心の奥底の部分に触れることができる。どちらの選択をするにせよ、彼(女)らからは、相手の存在の大きさを痛いほど感じる。本作から視聴者は、結婚への答えの一つを知ることができるのではないだろうか。 


 「恋愛と結婚は別」とはよく聞く話だが、一般的な恋リアと『いきマリ』『さよプロ』を比較すると、その差をよりリアルに感じる。恋愛は相手だけと向き合い、“いま”を楽しむ要素が強いように思う。しかし結婚の場合、相手のいまだけでなく過去と未来、そして家族までとも向き合わなければならない。端的に言えば、恋愛は“他人”のままだが、結婚は“家族”になるのだ。


 多様な結婚観がある現代では、婚姻届を提出しない“事実婚”や意識的に子どもを持たない“DINKs”などの形態もあるが、それでも『いきマリ』や『さよプロ』では“いま好きな人”ではなく“一生涯のパートナー”として相手と向き合うことになる。番組では、価値観の違いやどうしても許せなかったり譲れなかったりする部分が生じてぶつかり、険悪な雰囲気になる場面も。それをどう乗り越えるか、どうやってお互いの価値観をすり合わせていくかが、二人が“他人(恋愛)”から“家族(結婚)”になれるかを大きく左右している。


 もちろん、結婚する条件として、恋愛感情が最も重要という人もいる。『いきマリ』では、相手へのときめきが足りなかったことを理由に別れを選んだカップルもいた。だが、それもお互いにじっくり向き合ったからこその決断であり、刹那的に別れる恋愛とは少し違う。


 なお、出演者のリアルな恋愛模様に感情移入するあまり、視聴者は「二人にはうまくいってほしい」「結婚してほしい」とついつい期待してしまうものだが、たとえ望む結末に至らなくても、番組が魅力的なまますっきりと終わるのだから不思議だ。それは、結婚か別れかという一大決心を前にした参加者の嘘のない思いが映し出されているからに違いない。悩んだ末に下した“別れ”は決して悪いものではない。別れは、自分に足りなかったものや相手に求めているものを明確にするからだ。参加者が何かに吹っ切れて、次の一歩へ踏み出す姿を見ることができるのは、“結婚”をテーマにしたリアリティーショーならではと言えるのではないだろうか。(文=片山香帆)