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コロナで物流パニック「トイペが消えた!」はなぜ起きた? 元トラック運転手が明かすウラ側

2020年03月25日 10:02  弁護士ドットコム

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日本経済を支えるトラックドライバーだが、道路上では何かと邪魔者扱いや、白い眼で見られがちだ。さらに近年は、「送料無料」「時間帯指定」「再配達」という消費者ニーズによって疲弊している。物流業界で働くドライバーを取材し、彼らの本音や業界の問題点をわかりやすく紹介した『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書)が話題だ。


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著者の橋本愛喜さんは20代から都合10年間、自動車工場で使う金型を運ぶ中・長距離ドライバーとして長いときは1日800~1000キロも走ってきた。その経験から、物流を担い日本経済を支えているにもかかわらず、邪魔者扱いされている大型トラックとドライバーの悲しい現状を見聞きしてきた。



橋本さんは「好きで嫌われているわけではなく、それには理由があるんです」と訴えかける。橋本さんによれば、新型コロナウイルスの感染拡大は物流業界にも大きな影響を与えている。何が起こっているのか、詳しく聞いた。





●物流業界の新型コロナパニック

ーー新型コロナウイルス感染拡大が物流業界やトラックドライバーに及ぼした影響について教えてください。



「モノが手に入る」ことが当たり前だった消費者は、今回の騒動で初めて、マスクやトイレットペーパーが店に並ぶことが当たり前のことではないと痛感したのではないでしょうか。



トイレットペーパーの工場、問屋には在庫があるんです。でも、小売店には物がなくて消費者が困っている。ではなぜ、ドライバーが運んでいるのに品薄になるかというと、ドライバーが足りていないんです。



トラックドライバーも本当は運びたいけど、運ぶ人がいないから、物流が需要に追いつかずパンクして品薄になったという瞬間があったんです。需要とトラックドライバーの人数が全く合っていない状況です。





一般的にトラックの輸送ルートや便数は定期で決まっていることが多く、消費者が突然大量購入して品薄になっても、早急にはなかなか対応できない。



便を増やすことイコール人手を増やすことです。一度に運べる量(積載量)も決まっている。「足りないからもっとちょうだい」と言ってトラックをすぐに増やすわけにはいかないんです。



物流業界の問題のひとつにドライバー不足があります。今、日本には約83万人のドライバーがいます。アメリカの調査会社のデータによれば、2027年までに約96万人の需要が予想されています。目標まで10数万人も不足している状況なので、トラックの台数があってもドライバーが足りないという物流業者さんが多いです。



日本はただでさえ少子高齢化という課題がありますから、今後ドライバー不足の問題はより深刻になるのではないかと考えています。



●コロナで「仕事がない」ドライバーも

ーーコロナの感染拡大を受け、ドライバーは仕事が増えすぎて大変なんですね



いいえ。仕事がなくなってしまったドライバーもいます。コロナ騒動後、イベント系の機材を運ぶドライバーが私のSNSにDMをくれたんです。「平日の週2日が休みになるほど仕事がない」。政府の自粛要請で全国的にライブやイベントが中止になったことが原因です。



海外からの「海上コンテナ」を積むトレーラー(けん引車)の人たちにも影響がだいぶありました。中国で問題が発生した早い段階で中国から物が届かなくなり、1月後半ころからお休みする日が増えています。



大型トラックドライバーは「日給月給」(日給・歩合給・残業代・諸手当の合算を毎月1回まとめて支払う給与体系)で働く人が多く、働いた日数分に応じて対価を得るので、仕事がなくなればモロに給料に反映されるんです。そのため、彼らの中には今後本格的に生活が ひっ迫する人も出てくるんじゃないでしょうか。



運送業界には小さな会社も多く、物流が安定しだしても、体力のない会社は倒産してしまうところもあるでしょう。コロナによって観光用のバス会社が倒産しましたが、それと同じ構図です。



●「物流は人から人へのリレー」

ーーこのような状況は過去にもありましたか。



2011年の東日本大震災以来だと思います。震災当時の物流について、清涼飲料水を運ぶドライバーはこう言っていました。



「清涼飲料水の工場は被災しても、なんとか稼働していた。でも、商品にはならなかった。清涼飲料水を入れる紙パックの工場が大きく被災したからだ。物があっても売れないから、メーカーも物流も大損害を被った」



物流って人から人へのリレーでできていて、繊細なんです。牛乳があっても、瓶がなければ消費者の元に届けられません。



ーーコロナの感染への懸念から、消費者による宅配サービス需要も増加していますが、何か影響は出ていますか?



アマゾンなどの配送は本当に大変だと思います。アマゾンの配送員にも取材しましたが、水、米、レトルト食品などの備蓄関係と、体を動かすための屋内用ジム用品が売れているそうです。



元々遅配に対してドライバーに厳しい人も多い。さらには「17:00から19:00」の時間帯指定のお宅に17時01分に行っても「早いだろうが。17時から19時なら、普通は18時に来るもんだろ」とキレられることもあるんです。



私はアメリカに住んでいたこともありましたが、海外の宅配サービスは「宅配ごっこ」です。段ボールの8つ角すべてが無事に潰れていないことはありませんでした。日本人にも、再配達、時間指定など高品質なサービスを無料で受けられることが当たり前だと思わないでほしいです。



●「物流においては労働環境に法律がフィットしていない」

ーートラックドライバーはノロノロ運転で邪魔者扱いされたり、路上駐車を白い目で見られたりします。しかし、それにも理由があると本で主張されていますね



2006年の道交法改正により、集荷・集配業務のための路上駐車も違反になり、取り締まりが強化されました。



「みどりのおじさん」(駐車監視員)が作業するのはだいたい5分。物流業界では「5分なら大丈夫」という暗黙の了解がある。それで5分以内に車から降りて荷物を届けて戻ってきます。こうした短い時間での戦いのもと、彼らは毎度車を降りて荷物を届けに行っているのです。



指定時間よりも「早く着いてもいけない」という荷主からの要請や、「4時間走ったら30分休憩」する原則、通称「430」(自動車運転者の労働時間等の改善のための基準)による義務付けられた休憩を守るため、路駐せざるをえないんです。



法律違反をしながら働いている罪悪感を持っています。邪魔だと言われている事実もわかっています。でも、タコメーターで会社から勤務状況を監視されているので、休憩を取らないと減給される会社もあります。路駐しないか、給料を守るか。ドライバーだって減給されるのはイヤですよ。



物流においては労働環境に法律がフィットしていないと感じます。



ーー足をハンドルに上げて休憩する「足上げ」の理由も本の中で解説しています。座り続けた脚のむくみを解消するとともに、不自然な姿勢による体の痛みで目が覚める効果があるそうですね。



眠ってしまって、時間までに届けられなければ損害賠償も発生することがあります。たとえば、精密機械を運べなくて工場のラインをストップさせた損害賠償請求もあるんです。





高いときは1000万円もの賠償金をドライバーが退職金で弁償するという話もあります。下品だと白い目で見られる足上げですが、ドライバーだって好きなときに横になって休みたいのが本音です



●チャゲアス『SAY YES』は「聞きたくない」

ーー本の中で、ドラマ「101回目のプロポーズ」の名場面(武田鉄矢さんの「僕は死にましぇん」)について言及されたところは失礼ながら笑ってしまいました。走行中のトラックの前に飛び出した武田さんの鼻先で車は停まりました。運転手が「馬鹿野郎こら! 死にてえのか」と怒鳴るシーンです。トラックドライバーにとって同作の主題歌となったCHAGE and ASKAの「SAY YES」は聞きたくない曲でしょうか。



そうでしょうね。あの場面を見たら「SAY YES」は聞きたくないよなと思いますよ。武田さんが轢かれなかったのは、愛の強さでも運の良さでもなく、ドライバーの腕の良さ以外の何ものでもありません。



「僕は死にましぇん」って、いやいや、死にます。荷物を満載して、あのスピードで突っ込まれたら普通は死にます。あの作品のNG集を見たことがあります。何度も車を走っては停めさせるテイクを重ねていました。適切なギリギリの位置で停まるのは難しいですよ。



ーートラックドライバーを増やすためには何が必要となりますか



トラックドライバー自身の意識を変えることです。「どうせ俺たちドライバーだから」と言う人もときどきいます。



でも、仕事を探している人にとって、働いている人の口から「どうせ」なんて聞きたくないですよね。強さや格好よさが必要です。トラックドライバーがプライドを持って「インフラを支えてるんだ」という団結した強さを持つことです。



消費者の需要と物流の問題は地続きです。「届いて当たり前」から、「届けてくれてありがとう」に消費者も意識を変化させてほしい。仕事の負担は仕方ありません、犠牲が伴うサービスはもはやサービスではないと思います。



【取材協力】橋本 愛喜(はしもと あいき)さん 大阪府生まれ。元工場経営者、元日本語教師。現フリーライター。大型免許取得後、トラックで200社以上のモノづくりの現場を訪問。ブルーカラーの労働環境問題、ジェンダー、災害対策、文化差異等、幅広く執筆。