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新iPad Pro先行レビュー “ARM版Mac”の具現化ともいえる期待の佳作

2020年03月24日 21:32  マイナビニュース

マイナビニュース

画像提供:マイナビニュース
iPad Pro (Early 2020)のレビューをお届けする。今回のテスト機は、12.9インチのWi-Fi+Cellularモデル、1TB。95%を「#iPadOnly」(iPadだけで仕事をこなす)の生活を送っている筆者の目線で、今回のiPad Proの進化について迫る。

かねてから噂されてきた「ARMベースのMac」とは違うが、触れれば触れるほど、Macでなくても十分、『ARMベースの未来のコンピュータ』と呼んでよい存在へと進化した。
○最大の目玉は、AR時代の「目と感覚」

今回のiPad Proの目玉は、なんといってもLiDARスキャナの搭載だ。LiDARとは、Light Detection and Rangingの略で、光検出と測距を意味する。

iPhone 11シリーズのように四角くなったカメラモジュールに埋め込まれたセンサーは、光を放ち、物体に跳ね返って帰ってくるまでの時間をナノ秒単位で計測し、正確な距離を割り出す仕組みだ。

これによって、iPad Proは空間把握能力が格段に高まり、平面を瞬時に割り出し、目標の物体までの距離を正確に知ることができるようになった。つまり、ARコンテンツの消費に加え、「ARオーサリング」における空間デザインのためのツールとして、特別な存在となった。

AndroidスマートフォンにはToFセンサーという名前で採用され始めているが、これをiPadに持ち込んだ理由は、やはりARオーサリングを意識したものだと考えられる。Appleは、iPadOS 13.4に搭載されるARKit 3.5でLiDARスキャナを活用できるようにしており、2つに増えたカメラやモーションセンサーをフル動員してAR体験をサポートする。

ARKit 3で、現実世界にある人がAR空間の物体の手前にいる場合、人を避けて描画するPeople Occlusionという手法をサポートしたが、LiDARスキャナはこうした表現をより正確に素早く処理できるようにしてくれる。

とはいえ、現状ARKit 3.5やiPad ProのLiDARスキャナを前提としたアプリが存在していない。標準アプリである「計測」では、空間把握のためにカメラを起動した状態でデバイスを左右に振る動作なしに、いきなり計測を開始することができるようになった。それだけでも、ARアプリの手軽さが際立つ。
○新プロセッサの実力は測れなかった

2020年モデルのiPad Proには、2018年モデルのA12X Bionicチップを強化した「A12Z Bionic」チップが採用された。

Geekbench 4で手元のデバイスを計測すると、CPUは平均してシングルコア5000、マルチコア18000。グラフィックス性能を測るComputeは45400ほどのスコアだった。これらの数字は、2018年モデルに搭載されたA12X Bionicと同じであり、ベンチーマーク上では差を認めることはできなかった。

A12Z Bionicチップは、グラフィックスが7コアから8コアに強化されたことに加え、熱設計を見直したことが主な変更点だ。熱設計の見直しは、長時間にわたる高負荷処理に対応するためのものだという。

3Dグラフィックスを扱うアプリや、4Kビデオを編集するアプリなど、高負荷になるアプリをいくつか試したが、劇的なパフォーマンス向上を体験することはなかった。2018年モデルも2020年モデルも、どちらも同じように動作した。

しかし、この点が試せないのもそのはずで、現在配布されているアプリはプロセッサが性能を発揮し続けられる最適な負荷を前提に作られているはずだ。そのため、今現在のアプリで、A12X BionicとA12Z Bionicの差を見つけることは難しいのではないか、と思った。

今まで、モバイル向けARM系プロセッサを搭載するiPhoneやiPadより、Intelプロセッサを採用するMacの方が優位とされてきた。どの程度追いつくのか、あるいは上回るようになるのか、Appleとしてもあまり言いたがらないポイントかもしれない。

A12Z Bionicの熱設計の改善は、例えばApple製品でいえば、Final Cut ProやLogicといったプロ向けアプリケーションがiPad向けに登場でもしなければ、真価を発揮しないのではないだろうか。それだけに、iPad Pro用のProアプリケーションの登場に期待を寄せてしまう。
○レガシーなインターフェイスにフル対応

iPad Proには、キーボード付きカバーである「Smart Keyboard Folio」が用意されていた。今回、2020年モデルのiPad Proでも使えるようにすべく、デザインが少し変更された。

まず大きな変化が、背面カメラの開口部が四角く大きくなったこと。さらに、キーボードを開いて使う際に、背面のAppleロゴが正体になるよう配置された。

これで「なんだか分からない灰色の板」から、「iPad Proのケース」であることが分かるようになった。なお、新しいSmart Keyboard Folioは2018年モデルのiPad Proでも利用できる。つまり、iPad Proの背面マグネットの設計は、2018年モデルと2020年モデルで変化していない、ということだ。

そしてもう一つ、注目のアクセサリがMagic Keyboardだ。

2019年モデルのMacBook Pro 16インチで、従来のバタフライキーボードからシザー方式のMagic Keyboardに置き換えられ、今回iPad Proとともに登場したMacBook AirにもMagic Keyboardが採用された。

そしてiPad Proにも、Magic Keyboardを採用するケースが用意された。バックライト付きでまったく同じメカニズムを持つシザー方式のキーボードと、MacBook Airに比べると幾分小ぶりなトラックパッドが用意され、2つのヒンジでiPad Proを宙に浮かせて固定する仕組みだ。こちらも2018年モデルのiPad Proで利用できる。

さらに、これまでアクセシビリティ機能として対応してきたマウスやトラックパッドを、iPadOS 13.4で正式にサポートした。2本指、3本指のジェスチャーはiPadのタッチスクリーンと同様に利用でき、アイコンやボタン、テキスト、表計算のセルなどに合わせてマウスカーソルが変化する「賢いカーソル」が実装された。

タッチ操作との共存はしないが、Macのマウスカーソルよりも操作したい対象に吸い付くような感覚が非常に心地良い。地味ではあるが、1984年にMacintoshにマウスが実装されて以来使われ続けてきたマウスカーソルが、ここに来て再発明された印象を受ける。

まだMagic Keyboardが世に出ていないため、筆者はMagic MouseやMagic Trackpad 2をiPad ProとBluetooth接続したが、純正品以外でもBluetooth接続やUSB接続のマウスの多くをサポートするという。

○未来のコンピュータ像

iPadは、2016年に「PCの代替」というマーケティングゴールを掲げたが、アプリのラインアップ、Lightningポートしかなく拡張性に乏しいこと、外部ストレージが使えないこと、キーボードやマウスがない、といった問題点を指摘され続けてきた。

同時に、タブレットデバイス自体が縮小し、ChromebookやSurfaceシリーズに代表されるタッチ操作可能なWindowsのモバイルPCの台頭を許してきた。

iPadは、ソフトウェアの面で外部ストレージを利用できるようにし、今回マウスカーソルを発展させてマウスやトラックパッドをサポートした。ハードウェアの面では、別売のApple PencilやMagic Keyboardに対応でき、インターフェイス面での死角はなくなった。

そのうえで、iPad ProにはLiDARスキャナによる空間把握能力の向上、広角に加え超広角カメラが追加され、ともに4Kビデオが撮影できるカメラ、顔認証や顔へのAR装飾に利用可能なTureDepthカメラを備え、5.9mmの薄いボディに詰め込んだ。

確かにこれはMacではないが、ARMベースの未来のコンピュータとして完成された姿に近づいたのではないだろうか。今後アプリの対応により、2020年モデルのiPad Proはより高いパフォーマンスを発揮し、拡がる可能性を見せてくれるはずだ。今後、一層の期待を抱かせるアップデートになった。(松村太郎)