2020年03月23日 10:31 弁護士ドットコム
都内のIT企業で働く入社4年目の女性ユミコさん。この3月に有給休暇の一部が失効してしまうことに気づいたそうです。
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失効する有給休暇があると判明したのは、3月に入ってからのこと。上司から雑談中に「有給休暇は2年経つと、3月末でなくなるから使いな」と言われ、慌ててチェックしたところ、入社3年目に付与された12日のうち、未消化の6日間が3月末で失効することがわかりました。
上司からは「もったいないね~」と慰められたそうですが、ユミコさんは「従業員が有給休暇を使っていなかった場合、会社は失効する前に知らせてほしい。悲しいです」と訴えます。
労働基準法では、労働者が働き始めて半年が経過し、全労働日の8割以上出勤していれば、年次有給休暇が付与されることとされています。付与される日数は、継続勤務年数によって以下のように変わります(フルタイム勤務の場合)。
そして、有給休暇の時効は2年とされています(労働基準法第115条)。そのため、会社が例外的に取得を認めてくれるような場合を除き、付与日から2年が経過すると、未消化であっても消滅してしまいます。
ただ、有給休暇が付与される「基準日」や「起算日」を、入社の次年度から変更する会社もあるので気をつけなければなりません。
新卒は4月入社がオーソドックスですが、会社には中途で入社する人もいるでしょう。そうなると、入社日がバラバラになるため、労働者それぞれ「基準日」がずれることになります。それでは会社として管理しにくいため、全社的に起算日を合わせるところもあります。
冒頭のユミコさんが働く会社も起算日を合わせており、入社の翌年度以降は、全員4月1日に有給休暇を付与されていました。
ユミコさんは今回の有給休暇失効について「会社が教えてくれればいいのに」と嘆いていましたが、会社が有給休暇の日数を通知することについては、法律上の義務とまではなっていません。
そのため、自分の有給休暇がいつ付与され、いつ失効するのかは、自分で把握しておく必要があります。
企業側で労働問題に対応している藥師寺正典弁護士は「使用者側も取得を促進するために有給休暇の残り日数に関して情報提供をおこなうことは有用」と話します。
有給休暇の取得を促すために、給与明細に残日数を記載したり、社内ポータルで自分の残日数を確認できる環境を整えていたりする会社が多いそうです。
また、労基法改正により、2019年4月から、全ての使用者に対して「年5日の年次有給休暇の確実な取得」が義務付けられました(労基法39条7項)。時季指定に当たっては、労働者の意見を聴取しなければなりません(労基則24条の6)。
藥師寺弁護士は「実務上は、使用者側が意見聴取の際に残日数も含めて労働者に情報提供することが望ましい」と話します。
「有給休暇の失効について、労基法の内容を労働契約上も明確にする趣旨で、有給休暇は次年度に限り繰り越せるといった繰越規定を就業規則に定めている企業も一定数あります。そのような企業であれば、労働者は就業規則を確認することにより失効を防ぐことができるでしょう」(藥師寺弁護士)
【取材協力弁護士】
藥師寺 正典(やくしじ・まさのり)弁護士
中央大学法科大学院修了後、2013年弁護士登録
主に、使用者側の人事労務(採用から契約終了までの労務相談全般、団体交渉、問題社員対応、就業規則対応、訴訟対応、労基署対応、労務DD等)、中小企業法務、M&A等の商事案件に対応。
事務所名:弁護士法人第一法律事務所(東京事務所)