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ITZY、数ある“ガールクラッシュ”コンセプトの中での特異性 ストレートなメッセージやハウス取り入れたサウンドが軸に

2020年03月22日 12:01  リアルサウンド

リアルサウンド

ITZY『IT'z ME』

 成功するポップスターの作品には、必ずと言っていいほど、アーティストを特徴付けるクオリティの高い楽曲はもちろん、その時代の若者へのポジティブなメッセージのある歌詞やコンセプトが兼ね備えられている。


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「2NE1のパワフルさとBTSの『LOVE YOURSELF』のような他者へのメッセージ性」
「歌詞が異性や恋愛の話をしてないのもいい」


 これらの言葉は筆者の友人の韓国人女性がそれぞれ話してくれた、5人組ガールグループ、ITZYへの印象だ。ITZYは昨年デビューしたグループの中でも最も大きな成功を手にした。デビュー曲「DALLA DALLA」は韓国の年間シングルチャート11位にランクイン、多くのアワードで新人賞を受賞。ITZYには確かに“何か他とは違う”部分があるのだ。今回は、3月10日に発表されたミニアルバム『IT’z ME』も紹介しながら、ITZYのコンセプトや楽曲面から、何が彼女たちの作品をITZYたらしめるのか、その魅力について紐解いてみたい。


 事務所が同じJYPエンターテインメントなだけあって、ITZYには“TWICEの妹分”という謳い文句が度々使われるが、歌詞やMVを見てみればTWICEとは異なる印象を受ける人が多いはずだ。前述の筆者の友人の言葉も一つの例といえる。


 彼女たちはデビュー曲「DALLA DALLA」から歌詞が強烈でストレートだった。いくつかラインを引用すると“恋愛なんかに頼らない 世界には面白いものがもっとたくさんある”、“あなたの基準に私を合わせようとしないで 私は今の私が好き 自分は自分だから”……。こんなふうに強い自己肯定を表すフレーズが連発されるのだ。MVを見ても彼女達の表情や振る舞いは「自信満々」という言葉が似合うシーンばかり。連想されるイメージはTWICEのようなキュートさや身近さではないし、楽曲のハードな雰囲気も相まって、確かに2NE1のような「ガールクラッシュ」という言葉がぴったりだ。


 この度発表された『IT’z ME』でも“あえて何かになろうとする必要はない 私はそのままの私でいる時が完璧だから”というラインが印象的なリード曲「WANNA BE」を始めITZYの「自己肯定」を掲げるメッセージは強化されている。7曲入りの作品で扱う主題自体は広くなっているものの、「TING TING TING」や「THAT’S A NO NO」など他の曲でも“自分のやり方を邪魔させない”といった強気さを聴かせる。


 実際、こうした「自己肯定」のメッセージ自体はとりわけ「ガールクラッシュ」と括られるグループ達の間では珍しくはないし、「自分を愛そう」というメッセージも冒頭の筆者の友人の言葉通り『LOVE YOURSELF』シリーズの時のBTSの歌詞とも共通する。ボディポジティブをテーマにしたリゾを始め、昨今の欧米の音楽シーンでも共通されるテーマなだけに世界的にも共感されやすいだろう。では、ITZYは何が特別なのか? それは彼女達の一貫性とメッセージのストレートさにあろう。


 例えば、似たテーマでもBTSはメンバー達の実体験も混ぜながらメンタルヘルス等のテーマを扱うことで、リアルに、時に複雑に訴えかけたのが印象的。対して、ITZYの歌詞に共通するのは、“自分に自信を持つ時に、他人の視線や意見は関係ない。自分にはこんなところがあるから、なんていう根拠も必要ない。あるがままでいる自分が最高なんだ!”と強く言い切る爽快さだ。こうしたわかりやすくストレートな部分がITZYらしさであり、今の世代からの支持を受け、新人グループが群雄割拠するシーンでスターダムへと一直線に駆け上がっている理由の一つだろう。


 ITZYの音楽性にも特徴的な部分がある。EDM的な曲展開、曲中に挟まれるラップパートなど他のグループ達と共通する部分は多いものの、筆者は以前から特にハウスミュージックの要素の強さを印象的に感じている。楽曲のテンポ感もBPM120台の軽快なビートが多く、メンバー達が自信満々に駆け抜けていくイメージにぴったりだ。イギリスの雑誌『Dazed』のデジタル版に掲載されたリスト「The 20 best K-pop songs of 2019」でも、「DALLA DALLA」について1999年のフレンチエレクトロのヒット曲であるミスター・オワゾの「Flat Beat」を想起させると評していた(参考:Dazed)。ITZYの楽曲は、ビートにだけ集中してみれば、ハウスミュージック系のクラブでかかっていても違和感のないような楽曲が多いと感じる。


 最新作『IT’z ME』ではもちろん収録曲が増えた分だけ、取り入れられるジャンルも多様化した。ハードなギターサウンドを前面に出した「NOBODY LIKE YOU」はとりわけ新鮮だった。しかしそれでも印象的なのはクラブミュージック方面のサウンドで、フューチャーハウスの代表的人物、オリヴァー・ヘルデンス(「TING TING TING」)や、イギリスの実験的なエレクトロミュージックのレーベル、<PCミュージック>のソフィー(「24HRS」)といった面々の参加は示唆に富む。ITZYほどの人気グループが世界的な著名プロデューサーとコラボするといっても、ポップ系の作家ではなく、この2組を起用したことは、彼女たちが音楽性の面では現在進行形かつグローバルなクラブミュージックシーンの要素を一つの核としていくということを、今後に向けても強く印象付けたと思うのだ。


 若者を鼓舞するストレートなメッセージ性に加え、作品を重ねながら自分たちの核であるダンスミュージックのサウンドも深く追求したITZY。デビュー2年目の最初の作品『IT’z ME』で彼女たちは着実な進化を見せてくれた。この作品が世界的にどれだけ支持を得るのかがポイントだ。(山本大地)