2020年03月19日 09:41 弁護士ドットコム
新型コロナウイルスの感染拡大を受け、加藤勝信厚生労働大臣は3月17日の記者会見で、マスクや消毒液などの製造業者が増産態勢を組めるよう、労働基準法で定められた労働時間規制の例外規定について周知する考えを明らかにした。
【関連記事:旅行で「車中泊」、運転席でエンジンかけて酒を飲んだら「飲酒運転」になる?】
厚労省は同日、企業から労働時間に関する相談があった場合は、例外規定を踏まえて応じるよう各地の労働局に通知したという。
労働基準法で定められた労働時間規制の例外規定とはどのような内容なのか。労働法制に詳しい今井俊裕弁護士に聞いた。
ーー労働時間は法律でどのように規制されていますか
「労働時間や休日の定め方については、労働基準法で規制されています。法定労働時間は、特別な事業所を除き、労働時間は『1週間40時間かつ1日8時間以内』です。
法定労働時間を超えて働かせるためには、延長限度時間などを記入したいわゆる『36協定』を締結し、さらに労働基準監督署へ届け出ておかなければなりません」
ーー法定労働時間を超えて働かせるためには「36協定」は必須でしょうか
好ましいことではありませんが、中小零細企業では36協定を締結していない事業所もあります。しかし、そのような事業所でも、災害その他の事情から、法定労働時間を超えて働かせる高度の必要性がある状況もあります。
また、特定の種類の事業者、たとえば、今回のようなマスクや消毒薬の製造販売業などは、未曾有の突発的な繁忙状況となりますが、円滑な増産態勢を確保するため、法定労働時間を超えて働いてもらうことが一般社会に有益なこともあります。
そのような状況に備え、たとえ36協定を締結していない事業所でも、法定労働時間を超えて労働させることを適法に認めるのが労基法33条です」
ーー労基法33条による時間外労働をさせるためにはどのような手続きが必要ですか
「原則として、残業させる前に監督署に許可を求めることが要件です。
もっとも、災害などの場合は、諸般の事情から事前の許可申請をする余裕がないこともあるかもしれません。そのときは、事後の届出をする必要があります」
ーーどのような場合に時間外労働をさせることができるのでしょうか
「労基法33条の適用が認められるのは、『災害その他避けることのできない事由によって、臨時の必要がある場合』です。
今回のように、新型コロナウイルス対策としてマスク等を増産する場合のほか、震災被害後の対策としてライフラインの復旧作業をする場合なども、適用される可能性があるでしょう。
ただし、必要に応じて残業させることができるだけであり、災害その他の事由による必要性もないのに過重な残業をさせることはできません。事前の申請を出しても許可してくれないでしょう。もちろん、必要ないのに残業させて事後に届出すればいい、という考えも違法です。
なお、労基法33条による場合でも、時間外労働・休日労働や深夜労働についての割増賃金の支払いは必要です」
【取材協力弁護士】
今井 俊裕(いまい・としひろ)弁護士
1999年弁護士登録。労働(使用者側)、会社法、不動産関連事件の取扱い多数。具体的かつ戦略的な方針提示がモットー。行政における、開発審査会の委員、感染症診査協議会の委員を歴任。
事務所名:今井法律事務所
事務所URL:http://www.imai-lawoffice.jp/index.html