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ファミリーカーと侮るな! 試乗で変わったホンダ「フィット」の印象

2020年03月18日 11:32  マイナビニュース

マイナビニュース

画像提供:マイナビニュース
発売から1カ月で約3万1,000万台を受注するなど好調な滑り出しを見せているホンダの新型「フィット」。愛らしい見た目や視界の良さ、シンプルなインテリアなどが話題だが、肝心の走りはどうなのか。実際に乗ってみると、侮れない実力を備えていることが分かった。

○基本的には2つの選択肢がある新型フィット

新型フィットには「BASIC」(ベーシック)、「HOME」(ホーム)、「NESS」(ネス)、「CROSSTAR」(クロスター)、「LUXE」(リュクス)の5つのタイプがある。これにより、既存モデルよりもグレード構成は豊かになった印象だが、ガソリンエンジン搭載車の排気量が1.3Lに集約されたので、実質的にはハイブリッド(e:HEV)車かガソリン車かの2択になった。もちろん、全タイプで両方のパワーユニットが選択可能だ。駆動方式は2WDと4WDから選べる。

つまり、どのタイプのフィットを選んでも、パワーユニットと駆動方式は好みの組み合わせに仕上げられる。グレード毎に装備や装飾は異なるものの、メカニズムは共通なので、中身は「ハイブリッド」か「ガソリン」かの違いにとどまると考えてもらえばよい。

今回の試乗車はガソリン車が「HOME」、ハイブリッド車が「e:HEV LUXE」だった。

○愛らしさと機能性を両立させたスタイル

新型フィットがこれまでと異なるのは、ハイブリッドとガソリン車で見た目にほぼ違いがないことだ。先代までのフィットでは、ハイブリッド仕様のグリルやエンブレムなどが専用デザインとなっていたが、新型の見た目は基本的に同じ。ハイブリッド仕様を見分けるには、前後のホンダエンブレムの控えめなブルーの差し色か、テールゲートの「e:HEV」エンブレムを確認しなくてはならない。電動車の拡大普及を宣言しているホンダとしては、「もう、ハイブリッドは特別なものではない」とのメッセージを伝えたいのかもしれない。

最近のホンダ車は押し出しの強いデザインを多用しているが、新型フィットではその印象が一変。親しみやすいフロントマスクは、フレンチブルドックなどの“ブサカワ犬”を彷彿させる。

ボリューム感のあったボディは新型でシャープなスタイルに。これにより、クルマ自体もコンパクトになったのではと思ったのだが、調べてみるとボディサイズはほぼ同等で、全長はむしろ伸びていた。前後共にドア開口部が大きく、乗降性に優れる点も好印象だ。
○シンプルイズベストなインテリア

見た目の変化をより感じられるのはインテリアだ。フロントガラスエリアが拡大したことにより視界は広がり、車内は明るくなった。メーターパネルや操作系統は極めてシンプル。すっきりとしたインテリアはまるで、SF映画に出てくる小型宇宙船のコックピットの様だ。前席の乗員とフロントガラスとの距離がしっかりと確保されている上、ダッシュボードの位置も低くなっているので、車内の広さも感じられる。

メーターはシンプルだが分かりやすく、機能面で不足は感じなかった。よく作り込んであると思う。7インチの画面は表示内容が切り替え可能で、ほぼ全ての車両情報が確認できる。例えば速度中心のシンプルな表示としたり、「ACC」など先進機能の作動状況を表示させたりといった使い方が可能だ。

新型フィットのシフトレバーは、ハイブリッドを含め標準的なフロアシフトタイプになった。ハイブリッド専用シフトが扱いにくいと感じていた筆者としては、通常のAT車と同じデザインとなったことを歓迎したい。また、純正ナビとエアコンがスイッチ式に戻ったことも大いに評価できる。これにより、手探りでの操作がしやすくなるからだ。もちろん、ナビ画面はタッチスクリーン式である。

シートの座り心地も前後とも良好だ。特に後席は、ソファーのような包み込まれた感覚があり、快適度が大幅に向上している。質感が高まった後席だが、機能性はしっかりキープ。折り畳みはワンタッチで、シートの座面を跳ね上げる「チップアップ機構」も継承している。チップアップ機構を使えば後席座面を跳ね上げ、フロア上に荷物を置けるようになる。

ラゲッジスペースは容量が数値で公表されていないのが残念だが、先代同等の実用性を維持しているという。テールゲートの開口部は拡大しているので、荷物の積み下ろしは楽になるだろう。基本的にはワゴンボディのままなので、後席を倒せばいろいろな物が載せられるし、ある程度の高さがある荷物でも、後席をチップアップさせれば飲み込んでくれるはずだ。

○1.3Lでも侮れないガソリン車の走り

さて、ここからは実際に乗った印象を報告したい。先に試乗したのは1.3Lのガソリン車「HOME」だった。

正直にいえば、先に1.3Lを選んだのは、ハイブリッドとの差にがっかりしないためであった。しかし、その予想は、良い意味で裏切られることになる。愛らしい見た目とは裏腹に、かなりキビキビとしたスポーティーな走りを見せてくれたからだ。

1.3Lエンジンの性能は最高出力98ps、最大トルク118Nmと標準的なスペックだが、スムーズな回転フィールを持ち、高回転まで回しても雑味がない。新型フィットを作っているのが、かつては「エンジンのホンダ」と称えられたメーカーであることを思い出させるほど、良好な感触なのだ。パワフルさはないが、新開発のCVTとの相乗効果により、しっかりとエンジンの実力を引き出しているようだ。

ボディ剛性は高く、足回りもしっかりしている。強いていえば、やや足が硬めとも思えるが、そこもホンダらしいシャキッとした走りにもつながっているのだろう。もちろん、しっかりとショックをいなしてくれるので不快な硬さではない。タイトな峠道や一般道、高速道路まで走ってみたが、全体を通して、不満を感じるシーンは特になかった。むしろ、エンジンをしっかり使い切って走ることに喜びが感じられるクルマだと思う。

走行中の快適さは、先代をはるかにしのぐ。風切り音が抑えられ、全域で静粛性が高まっている。高速域を含め、エンジン音がうるさいと感じるシーンも特になかった。
○ほぼモーターで走る新しいハイブリッド

次に乗ったのは、新しいハイブリッドシステム「e:HEV」を搭載する「LUXE」だ。

「e:HEV」は2つのモーターを内蔵するハイブリッドシステムだ。基本的にはエンジンで発電し、その電気で走行する。エンジンを直結できる機構を備えていることが大きな特徴で、高速巡行時など、エンジン走行の方が効率に優れるシーンではエンジン走行に切り替えられる。ただ、ほとんどがモーター走行なので、電気自動車(EV)感覚で乗れるハイブリッド車だと考えていいだろう。

新型フィットのハイブリッド車はシフトレバーが通常のATタイプとなり、運転操作がガソリン車と同じになった。やはりシフト操作は、こちらの方が扱いやすい。走行に合わせて変化するハイブリッドシステムの作動状況は、メーターパネル内に表示させて把握することができる。

電動走行がメインなので、性能はモーターのスペックに依存する。フィットのモーターは最高出力109ps、最大トルク253Nm。ガソリン車との違いは最大トルクの大きさだ。これにより、発進や加速はかなり力強く、高速道路で必要な加速も瞬時に得られる。小さいボディに力強いモーターを組み合わせた新型フィットのハイブリッドは、スポーツグレード「RS」が不在となった今、その隙間を埋めてくれる存在となりそうだ。

ハイブリッド車の車両重量はガソリン車よりも100キロ前後重いが、この差がさらなる低重心化につながっているようで、クルマの動きはハイブリッド車の方が落ち着いているように感じた。上質な走りを求めるなら、走行音もより静かなハイブリッドの方をオススメしたい。試乗車は本革シートまで備える「LUXE」だったが、このクルマであれば「小さな高級車」のような上質さも味わえるだろう。

○あふれるホンダらしさ

このクルマと共にある生活に喜びを感じてもらいたい。4代目フィットの開発でホンダが目指したのは、そんなクルマだったのだろう。質感の高さをはじめ、先代フィットでは実現できなかった領域にも、ホンダは大きく踏み込んでいる。運転の不安を軽減してくれる視界の良さや快適な後席は、特に評価したいポイントだ。

今回の試乗では、新型フィットのスポーティーな走りからも好感触を得た。この部分は、往年のホンダの魅力が光る部分でもある。基本的には快適で運転しやすいクルマでありながら、そこに操る楽しさがトッピングされているといった印象だ。

また、シートの見直しや走行中の静粛性向上により、乗る人全員が快適さを感じられるクルマとなっているのも嬉しいところ。まだまだ増えそうなダウンサイザーには、ぜひ注目してほしい1台だ。

購入時には試乗して比較してもらいたいが、無理にハイブリッド「e:HEV」を選ぶ必要はないと思う。このクルマの進化は、ガソリン車でも十分に感じられるからだ。個人的には、ガソリンの「HOME」でも満足度は高いと感じた。もちろん、ロングドライブで多用するなら、ハイブリッドの力強さと効率の高さが光る。

優れたファミリーカーだが、1人でふらりと気分転換のドライブにも出かけたくなる。そんなフィットは、アクティブな若いパパ・ママにも最高の相棒となるかもしれない。

○著者情報:大音安弘(オオト・ヤスヒロ)
1980年生まれ。埼玉県出身。クルマ好きが高じて、エンジニアから自動車雑誌編集者に。現在はフリーランスの自動車ライターとして、自動車雑誌やWEBを中心に執筆を行う。主な活動媒体に『webCG』『ベストカーWEB』『オートカージャパン』『日経スタイル』『グーマガジン』『モーターファン.jp』など。歴代の愛車は全てMT車という大のMT好き。(大音安弘)