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月川翔監督が語る、『連続ドラマW そして、生きる』で得た変化 「余分なものを撮らなくなった」

2020年03月17日 12:01  リアルサウンド

リアルサウンド

『連続ドラマW そして、生きる』(c)2019 WOWOW INC.

 有村架純と坂口健太郎が共演した『連続ドラマW そして、生きる』のDVDが3月20日よりTSUTAYA先行レンタル開始、DVD-BOXが3月25日に発売される。


参考:有村架純が語る、『ひよっこ』ヒロインを演じて得たもの 「みね子は守りたい大切な存在」


 2019年8月から9月にかけてWOWOWで放送された本作は、NHK連続テレビ小説『ひよっこ』で有村とタッグを組んだ岡田惠和のオリジナル脚本作。2011年に東北で出会った瞳子と清隆の2人が、運命に翻弄されながらも強く美しく生き抜く姿を描いたヒューマンラブストーリーだ。


 監督を務めたのは、『君の膵臓をたべたい』や『君は月夜に光り輝く』の月川翔。本作で初の連続ドラマWの演出を担当した。今回リアルサウンド映画部では、DVDのリリースを記念して月川監督にメールインタビューを行い、改めて本作について振り返ってもらいつつ、この作品で得た変化について語ってもらった。


ーー脚本家・岡田惠和さんのオリジナル作となった本作の監督オファーがあった際、率直にどのように感じましたか?


月川翔(以下、月川):以前からご一緒させていただきたいと思っていた脚本家さんだったので、絶好の機会に恵まれたと思いました。岡田さんの作品には、人生の様々な局面をエモーショナルに描く方というイメージを持っていました。時に厳しい現実を描きながら、人間の根っこにある善を信じている作品というイメージです。


ーータイトルにも「生きる」とある通り、本作の根幹には“生と死”という大きく深いテーマがあります。このような作品は月川監督にとっても新境地だったのではないかと思うのですが、作品を作っていく上で心がけていたこと、大事にしたこと、意識したことなどがあれば教えてください。


月川:本作には実際の出来事や実在の人物をモデルにしたキャラクターも登場するので、あまり作りものめいたものじゃなく、生々しさを大事に撮影していこうと意識しました。俳優たちにも事前に「あまりテストで固めすぎずテイクも重ねず、新鮮な芝居を撮っていきたい」とお伝えして、彼らが喋りながら考えたり言い淀んだり、相手の言動にリアルに反応するさまを逃さずに撮影するよう心がけました。


ーー本作では、まだ多くの人々にとって“つい最近の出来事”として記憶に残る「東日本大震災」が描かれます。描き方については難しさもあったのではないかと思うのですが、実際のところどうでしたか?


月川:台本が出来上がる前に物語の舞台となる土地を訪れ、そこに息づく人たちととにかく会話をしました。最初は物語を描く上で何か得るものはないだろうかと考えていたのですが、次第に、そこに息づくその人たちそのものを描きたいと思い至りました。同時に、勝手に深刻な顔をして震災を捉えるのも違うと感じました。それで、その土地で今生きている人を当たり前に描く、という見せ方を目指しました。


ーー東京、気仙沼、盛岡、フィリピンと、日本国内はもちろん海外での撮影も行われています。月川監督にとって印象に残っているシーン、大変だったシーンがあれば教えてください。


月川:最も印象に残っているのはラストシーンです。パーフェクトだと思えるショットが撮れました。撮影現場で行ったことはとてもシンプルで、お芝居の段取りを決め、カメラがどう観客の視線を誘導すべきかを吟味し、しかるべき天候を待って撮影する、というだけのことなんですが、その瞬間にしか撮れないものが確実に撮れました。今後すべての場面をこう撮れたらいいのに、と思うほどの成功体験になりました。体力的に大変だったのはフィリピンロケ。言語の壁と気候の厳しさがありましたが、現地キャストやスタッフとのコミュニケーションを含め、坂口健太郎くんが力を発揮してくれました。感情的に大変だったのは病院の場面。感情の振り幅が大きい場面を短期間に撮影したので、特に有村架純さんの負担が大きかったと思います。


ーー本作が初めてのタッグとなった有村さんの印象や演技について、感じたことを教えてください。


月川:自分の根っこから感情を湧き出させる人だと思います。決して技術でこなすのではなく、実際にそのキャラクターを生きずにはいられないような。本作では約十年間の様々な局面を演じ、過酷な人生を生きる日々も多かったから本当に大変だったはず。1日のうちに喜びから絶望まで感情の振り幅が激しい日もありましたし。それでも何とか切り替えて、嘘のない感情を絞り出してくれました。現場で撮影していて何度も感動させられました。


ーー坂口健太郎さんとは過去に『君と100回目の恋』でもお仕事をされていますが、当時と変わったところ、変わらないところ含め、成長を感じることはありましたか?


月川:佇まいの良さは当時から変わっていませんでした。当時より柔軟に相手の芝居を受けるようになったと思います。そのおかげで相手によって見え方が変化し、例えば頼りない甘ったれな息子にも見えるし、ボランティアを仕切る頼れる学生にも見える。これは実生活ではとてもリアルなことだと思うんです。それに加えて、フィリピンでの病院の場面のように、一人芝居ではガッと感情が溢れ出したりもして、驚かされました。


ーー放送後、嬉しかった反響や意外な声などはありましたか?


月川:同業者からの熱烈な感想が多かったです。しばらく疎遠になっていた方からも感想をいただけたりもして、強く刺さる作品だったんだなと感じました。劇場版の時には黒沢清監督からも感想をいただけて、いくつかのショット演出を褒めてくださり、やっぱり嬉しかったです。


ーーそんな黒沢清さんをはじめ、瀬々敬久さん、犬童一心さん、青山真治さんなど、名だたる映画監督たちが演出として参加してきた「連続ドラマW」には今回初参加となりましたが、これまで手がけられきた地上派ドラマと違いを感じることはありましたか?


月川:地上波ドラマよりも制約が少ないのは確かですが、そこはWOWOWだからというような“枠”の話ではなく、今回の岡野(真紀子)プロデューサーの判断力によるものが大きかったと思います。岡野プロデューサーはとにかくクオリティ優先で、妙なしがらみもなく、現場で咄嗟の変更を提案しても、上司に確認するというようなタイムラグが起こらず、「念のため別パターンも」というような要求もなく、とにかく風通し良くジャッジをくださるのでありがたかったです。


ーー本作は、劇場版として劇場公開もされたように、映画に近い印象を受けました。月川監督は、映画もテレビドラマも手がけられていますが、演出する際にフォーマットによって何か手法を変えたり、技術的に意識されたりしていることはありますか?


月川:作品のジャンルやトーン、狙いによって演出手法は変えています。映画かテレビかというフォーマットによる違いはプロデューサーの要求によって変わることが多く、例えば地上波ドラマの時は「画面を明るくして」とか「もっと寄ったサイズで」とか「もっとカットを割って」などと説明的な表現を要求されることが多いです。でも今回は、じっくり一連で芝居を見せたい、といった意図にプロデューサーも賛同してくれていたので、(スクリーンで観られることを前提とした)映画に近い印象を受けられたのかもしれません。少なくとも“ながら視聴”を前提とした作り方ではありませんでした。


ーー先述したように、月川監督にとってこの作品は、新たな一歩を踏み出す“代表作”のひとつになったと思いました。監督にとって、この作品を撮ったことによって変わったことはありますか? 


月川:これまでは映像的なケレン味で自己主張することもありましたが、複雑な場面でも、より単純に見えるように腐心するようになりました。先述したお気に入りのラストシーンのように、物語と芝居とスタッフワークが合致すれば、シンプルな見せ方でエモーショナルな表現になると掴めたので。このところ現場でも余分なものを撮らなくなったと思います。


ーー今回ソフト化されるということで、放送や劇場版とはまた違う楽しみ方ができると思います。何度も観てほしいシーンや注目してほしいポイントなど、月川監督が思うパッケージならではの楽しみ方を教えてください。


月川:本作は観ていただく方に想像してもらえる余白を多く残してあります。岡田惠和さんのシナリオには「……」と書かれた部分が多いのですが、俳優たちの息遣いや、わずかな表情の変化など、繊細な表現から汲み取っていただける豊かさがこの作品にはあると思います。ぜひとも、繰り返し視聴していただけると嬉しいです。(取材・文=宮川翔)