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国内外で相次ぐ新型コロナウイルスによる映画の公開延期 今後も広がる興行への影響を考える

2020年03月14日 08:01  リアルサウンド

リアルサウンド

『2分の1の魔法』(c)2019 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

 連日、ニュースで取り上げられ続ける新型コロナウイルス感染症。政府による大規模イベントの自粛要請に伴い、春休み映画の公開延期が続々と決定している。


参考:春休み興行に影を落とすコロナウイルスへの懸念 注目される『映画ドラえもん』の成り行き


 映画は、連休や長期休暇に合わせて大作が公開される傾向にある。仕事や学校が休みで、時間に余裕があるタイミングで公開することで、大きな売り上げが期待できるからだ。その中でも春休み興行、ゴールデンウィーク興行、そして夏休み興行は、それに合わせ各配給会社も大作を送り込む重要な時期である。3月13日20時現在、15本以上の作品が公開延期となり、未曾有の事態となっている状況に関して、映画ライターの杉本穂高氏に話を聞いた。


「主に延期になっているタイトルを見てみると、子ども向けやファミリー層向けの作品が多いですね。これは、3月が春休みということで、もともとそういった作品が多いのと、学校が休校になっているので、子どもたちが出歩かないようにという配慮があると思います。実際にTOHOシネマズでは、『臨時休校期間中の小中高校生のご利用はご遠慮いただく場合があります』とメッセージを出しています。なので、少なくとも学校が開けない限り、子ども向けの映画は上映が難しいのだと思います」


 『映画ドラえもん のび太の新恐竜』や、『2分の1の魔法』といった子どもから大人まで幅広く楽しめる作品が公開延期に。そこで発生する興行的影響は計り知れない。杉本氏は続けて答えた。


「子ども向けの作品は、毎年安定してヒットを出せるフランチャイズ作品が多いです。筆頭が『映画ドラえもん』だと思いますが、近年毎作品50億円くらい稼いでいるタイトルなので、上映できないのはとにかく大打撃です。『2分の1の魔法』に関していうと、2年前に同じくピクサー映画『リメンバー・ミー』が同時期に公開されていて、これも50億円くらい稼いでいます。なので、この2本で、ポテンシャルとしては100億円くらいの売り上げが期待できたのですが、それが丸々消えてしまったということになります」


 では、延期となった作品は、いつ公開されることになるのだろうか。


「興行の山でいうと、次はゴールデンウィークが盛り上がりのタイミングですが、まずその時期に今回の騒ぎが収束しているのかまだ不透明です。4月~5月のラインナップを見ると、例年通り『名探偵コナン 緋色の弾丸』と『映画クレヨンしんちゃん 激突!ラクガキングダム』が公開されますが、その2作は『映画ドラえもん』や『2分の1の魔法』と客層がある程度かぶる作品なので、そこにも判断が求められています。仮に、通常通り公開する場合、この2作品にスクリーンを割かなければいけないため、今度は『映画ドラえもん』の行き場がなくなってしまいます。比較的、公開作品に余裕があるのは6月だと思いますが、配給会社もこれだけの数の話題作が上映延期になる状況に陥ったことがないので、どう対応すべきか初めての問題に直面しているのが正直なところじゃないかと思います」


 複数の作品を複数のスクリーンで上映するシネマコンプレックスでは、毎週上映スケジュールが更新される。スクリーンの数や上映時間により、1日に上映できる回数には限界があるため、もし『名探偵コナン』と『映画ドラえもん』がほぼ同時に公開されるとなると、スクリーンのキャパシティがパンクしてしまい、映画館は混乱を極めそうだ。


 さらに、今後長期的に公開延期作品は増える可能性がある。杉本氏は続ける。


「これからの問題として予想されるのが、アメリカ本国で新型コロナウイルスの感染拡大が進んでいるので、『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』『クワイエット・プレイス PARTII』『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』のように、アメリカでの公開延期作品が今後も増えること。それに引っ張られて日本での公開も遅れてくるというケースが起きてきます。アメリカでは、現時点では興行成績全体への影響はそこまで出ていません。しかし、『2分の1の魔法』は、作品のポテンシャルなのか、新型コロナウイルスの影響なのかまだ断定できませんが、アメリカで通常通り公開した結果、ピクサー作品の歴代オープニング興行成績で下から3番目の成績となりました。非常事態宣言が発令されたニューヨークの先週末の興行成績が、前週比で13%ほど落ちているという話もあるので、こういった数字を見ながらハリウッドのメジャースタジオが、延期を決断する可能性は大いにあり得ます」


 仮に日本で収束したとしても、世界各国の作品を日本で公開する以上、世界的な潮流に翻弄されることは避けられない。最後に杉本氏は締めくくる。


「日本映画製作者連盟が今年の2月発表した、2019年の映画業界全体の興行成績は2611.8億円でした。しかし、内訳を見てみると、昨年公開された1278本の映画のうち、上位65本で全体の80%にあたる2008億円を稼いでいるんです。このように映画の興行は、上位数%の作品で全体を稼ぐという構造になっているのですが、現在延期が決まっている16本の作品の中に、その上位数%に入る作品がいくつもあると思うんです。そういったポテンシャルの作品が軒並み倒れてしまうと、それだけで何百億円の損失になるか計り知れません。もともと2020年は昨年と比較して、映画興行的によくない年だろうという予測はありました。新型コロナウイルス感染症の影響も加わり、これまでに見たこともない下げ幅を記録する可能性があります」


(文=安田周平)