トップへ

スパイダーマンの“乳首とお尻を作った人”が明かす制作秘話

2020年03月12日 07:21  リアルサウンド

リアルサウンド

写真

 アニメやゲームのキャラクターが、話の流れで裸になることがありますよね。もちろん、乳首やお尻があらわになります。あるべきものがなかったら、話題になってしまいますから。で、絵やモデルである限り、誰かがそのパーツをデザインしているわけです。一体どうやって? どんな人が? 今日は、普段ならあまり気にかけない「キャラクターの秘部」をデザインする人たちのお話を掘り下げてみましょう。


(参考:『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』、なぜスーパーテクノロジーを“魔法”のように用いた?


・乳首のデザインを真剣に議論
 Plygonによると、ある日、ゲーム『スパイダーマン』の背景アーティストのRyan BennoさんがTwitterにこんなことを呟いたそうです。


「ゲーム作りは最高だよ。だって、今この瞬間にも会議室でキャラクターに乳首は必要かどうかを真剣に議論しているんだから。乳首があるとしたら、どんな乳首なのか、乳首の範囲は、色は、そんなことが喧々諤々と語られるんだ」


 このスレッドに反応したのが、元InsomniacでキャラクターアーティストだったXavier Coelho-Kostolnyさん。Polygonによると、どうやら彼はスパイダーマンの乳首を作った張本人であり、胸毛の責任者でもあるみたい。


・デザインは全てMarvelのアプルーブルを得ている
 Coelho-Kostolnyさんによれば、デザインは衣装を含めて全てMarvelからアプルーブルを得る必要があったそうです。そして、スパイダーマンのデザインに関して明確な指針があり、驚くほど詳細なフィードバックが送られてきたのだとか。ただ、ピーター・パーカーの裸体に関してだけはノータッチで、筋肉のディテールや肌の質感、解剖学的構造の詳細は自分で決めることができたと言います。


 しかし、ピーター・パーカーの乳首を適切なものにするために、コエルホ・コストルニーはファンバイトに、鏡に映った自分自身を見ることさえ含めて、上半身裸の資料をたくさん使わなければならなかったと話した。Coelho-Kostolny氏はPolygonの取材に対し、Peter Parker氏のパンツについても慎重に考えなければならないと付け加えた。


 例えば、下着がスパイダーマンのヒップにどのくらいの高さで乗っているか、ブリーフにしわやフラップがあるかどうかを判断しなければならなかったり。


・答えのない秘部のデザイン
 乳首やお尻への明確な指示がなかったのは、Marvel側も何が正解なのか分からなかったからかもしれません。意図せずピーター・パーカーの大切な部分の責任を背負うことになってしまったCoelho-Kostolnyさんは、とにかく参考資料を集めたそう。その中には当然、自分の乳首も含まれます。


 同時に、下着とその中のことも考える必要がありました。ブリーフにシワはよっているのか、お尻の高さはどれくらいなのか……。そして最終的に出来上がったのが、下腹部のV字と腰の括れを際立たせる“シワなしローライズトランクブリーフ”と、少し大きめな“膨らみ”だったのだとか。


・人型キャラクターの秘部にこだわる理由
 一見どうでもいいように感じることにこだわる理由は、フィードバックをうけることがあるからだそうです。例えば、2008年にリリースされたゲーム『The Incredible Hulk』は、エドワード・ノートン主演の映画をベースにしたハルクを登場させていたそうですが、その時に映画制作者側から、ブルース・バナーの乳首に関してエドワード・ノートンが「気にしているらしい」という連絡が入ったそうなのです。


 デザインの元となる人がいる場合、その人のイメージに関わってくるため、可能な限り対応するそう。この件についてPolygonに話した匿名のアニメーターによると、ノートンの「心配」に対して、開発者たちはカメラのアングルを変えたりしたようです。


・必要ないのに見せてバッシングされる場合も
 コンテンツにおける乳首がとても気を付けてデザインされているのはわかりましたが、過去には不必要にも関わらず、あえて乳首をつけて非難されたこともありました。それが、ジョエル・シュマッカー監督の『バットマン フォーエヴァー』(1995年)と『バットマン&ロビン Mr.フリーズの逆襲』(1997年)。2作にわたってバットスーツに乳首をつけたことでファンを幻滅させただけでなく、ジョージ・クルーニーにまで居心地の悪い思いをさせてしまったのです。のちのViceのインタビューで、シュマッカー監督は「ファンをガッカリさせてしまってゴメン」と謝罪までしています。では何故、スーツに乳首をつけたのでしょう。Esquireに取り上げられていた当時のインタビューを抜粋して紹介します。


「『バットマン』と『バットマン リターンズ』の頃と比較して、『バットマン フォーエバー』のときは技術が進んでいたんです。マイケル・キートンが初めて着用したスーツを見ると、とても大きいことに気づくと思います。あの頃はそれが精一杯でした。しかし時の経過とともに技術が発展して、ゴムをつかって複雑なことができるようになりました。そこで私は、解剖学的に正しく、ギリシャ彫刻や医療の教科書に載っているようなスーツを作ろうと言いました。これを受けて、造形師のホセ・フェルナンデスが乳首をつけてくれたのです。あれをみたとき、自分はイケてる、と思いました」


 技術の進歩でやれることが増えると、どうしても色々チャレンジしたくなるのが人の性。でも、ある程度技術が成熟すると、「できること」をひけらかすより、「配慮すること」が求められてくるのでしょうね。


(中川真知子)