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「熱っぽくても休めますか?」 新型コロナ対策で考える「病気休暇」の必要性

2020年03月11日 10:11  弁護士ドットコム

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かぜの症状があるときは、会社を休んでくださいーー。新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、政府がHPなどで呼びかけを続けている。


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そもそも新型コロナに限らず、病気のまま出社すると、本人の生産性も低いし、ほかの社員にうつしてしまうリスクもある。ネットでは、体調が悪くても仕事を休めない風潮を問題視する声があがっている。



ただし、すべての原因が企業にあるわけではないだろう。たとえば、労働者側にも多少体調が悪いくらいでは、有給休暇を使いたくないという意識がある。



●有給の「病気休暇」が制度化されている国も

欧州などには、病気になったとき有給休暇を使うのではなく、法律で決まった有給の「病気休暇」がとれる国がある。



たとえば、ドイツやデンマークでは、病欠の場合でも一定期間100%の給与保障をすることが使用者に対して法律上義務付けられているという。



日本にも労働基準法を改正して、海外のような有給の病気休暇制度をつくるべきという意見がある。



すでに有給休暇制度があるのに、なぜ病気休暇が必要なのか。労働問題にくわしい大久保修一弁護士とその必要性を考えてみたい。



●有給休暇じゃダメなの?

ーー日本では企業が病気休暇制度を導入するのは義務ではない?



労働基準法上は、病気休暇制度を導入することが義務付けられてはいません。ですが、就業規則等で病気休暇制度を整えて、導入することは可能です。



実際に導入している企業は統計上、4分の1程度とされています(厚生労働省の平成31年就労条件総合調査の概況)。



制度を導入するか、どの程度の期間とするか、有給とするかは、基本的には企業の判断によることになります。



しかし、企業にとっても、福利厚生を保障することで、従業員の生産性を高めることにつながるため、メリットがある制度です。



ーーすでに法律上、有給休暇制度はありますよね。なぜ、病気休暇が求められているんでしょうか?



一言でいえば、病気休暇制度を導入することで、有給休暇の取得促進が期待できるからです。



厚生労働省の就労条件総合調査によると、2018年に企業が付与した年次有給休暇の日数は繰越日数を除いて、1人平均18.0日のところ、実際の取得日数は平均9.4日でした。半分程度しか消化できていません。



有給休暇制度については、従来から、その取得を促進するため計画年休の制度があり、2019年4月からは、10日以上の有休が付与される労働者に対して、年5日の年休を取得させることが法律上、義務化されています。



政府は、2020年までに有休の取得率を70%にするという目標をあげていますが、年5日の年休を取得させれば、法律上の義務を果たしたことになるのだから、政府目標を達成するには、義務を設定するだけでは不十分です。年休を取りやすい環境を整備することが重要です。



有休を取得しない理由は、「同僚の迷惑になる」や「仕事量が多すぎる」といった人手不足の問題もありますが、「病気や急な用事のために残しておく必要があるから」という理由も多いのが現状です。



病気休暇制度が法律上義務付けられて、どの企業でも病気休暇のために有休を残しておかなくてもよいという状況になれば、労働者は病気を気にせず、より有休をとりやすくなるでしょう。



●従業員の生産性も高めるツール

ーー企業側の負担は増えませんか?



当たり前のことですが労働者はロボットではありません。体調を崩すことだってあります。



人手が足りず、病欠が出れば、仕事が回らないという職場であれば、そもそも、慢性的な人手不足を解消するなど、経営のあり方を見直さなければならないと思います。



病気休暇制度は生産性を高めるツールにもなり得るものです。積極的な導入を進めるためにも、法律で制度設計を考えることは大事なことといえるでしょう。




【取材協力弁護士】
大久保 修一(おおくぼ・しゅういち)弁護士
2014年弁護士登録(第二東京弁護士会)。旬報法律事務所所属(弁護士27名)。ブラック企業被害対策弁護団副事務局長。日本労働弁護団東京支部事務局。著書に「まんがでゼロからわかる ブラック企業とのたたかい方」(共著佐々木亮、まんが重松延寿、旬報社)がある。
事務所名:旬報法律事務所
事務所URL:http://junpo.org/