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lynch.が“野郎共”と本気で暴れ倒した激烈ライブ 新宿BLAZE『MEN’S ONLY』公演を振り返る

2020年03月10日 18:12  リアルサウンド

リアルサウンド

lynch.

 coldrainやSiMといった重厚なサウンドを放つバンドを愛する者達の間で、今注目度が爆上がりしているバンド・lynch.。彼らは対バンイベントでステージに上がる度Twitterのトレンド入りを果たし、フェスに出演するとフードコートの人まで煽り倒し、ジャンルという概念を超えてバンドの規模を拡大し続けている。


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 そんなlynch.の「15th ANNIVERSARY PROJECT」の中でいろいろな意味で注目度の高かった2月8日新宿BLAZEにて行われた『[XV]act:3 -MEN’S ONLY-』の様子をお届けする。男性限定イベントということで当日参戦出来なかった女性ファン達のためにも、本来であれば一言一句違わず当日の模様をお伝えしたいところだが、あまりにも下ネタが多すぎるため伏せざるを得ない表現があることをご了承いただきたい。


 開演5分前。前説が本公演の注意事項を伝える度に野太い歓声が返る。今日という日を待ちきれなかった野郎共は開演前からすでに滾りまくっている。客電が落ちSEが流れ出すと同時に夥しい数の怒号が飛び交う。今日は本気で暴れ倒してやるぞ、という気合の篭ったクラップは手拍子というより破裂音に近い。楽器隊メンバーがステージに現れるとフロアからは猛々しい雄叫びが上がり、まだ曲も始まっていないのにフライングした者達がダイブし始める。葉月(Vo)が登場し「lynch.です! よろしくお願いします!」の一声と共に「GALLOWS」のイントロが弾けた瞬間、檻から解き放たれた獣達が一斉に暴れ出し、バンドの演奏が聴こえなくなるほど大きく「Are you ready?」と叫ぶとフロア中央に巨大なサークルピットを生成。1曲目が始まってからここまでわずか20秒。爆発的なフロアのテンションに対し、メンバーは締まったタイトな重低音と劈くようなシャウトで応戦していく。


 葉月が「歌ってくれ!」とマイクを向けると、一丸となった男達の歌声がステージ目掛けて響いていく。普段のlynch.のライブに比べて明らかにタガが外れている野郎共の様を目にし、葉月の顔にも思わず笑みが浮かぶ。「めちゃくちゃやってくれ!」と「EVIDENCE」「EXIST」を繰り出し、獣達の飢えを満たすような極上のコースが続いていく。飛んだり叫んだり回ったり大忙しのフロアに「ケガだけするなよ、後は自由だ! 好きにやってくれー!」と告げて「CREATURE」が放たれる。先刻よりも格段に大きいクラップやシンガロングが会場を占領。途中葉月がいつもは「アレ」と伏せて歌うところを歌詞カードの文字通りに叫ぶと、フロアから極悪な嬌声が上がり、さらにヒートアップ。もはや淫語一つに大歓喜するほど、会場全体がハイになっている。


 続くMCで葉月が「あっちーよ! 昨日と温度が全然違う!」と前日の女性限定ライブとの比較を述べると、さらに温度を上げてやろうと言わんばかりの怒号が返る。葉月は「うるせーな!」と笑いながら言葉を繋いでいく。前回5年前に開催した男性限定ライブと比べて4倍以上の動員が出来たこと。昨日の女性限定ライブで、男性がいないと臭くない! と言われ、男性ファンを庇ったこと。実際この日のフロアは臭かったこと。普段皆が紳士だから女の子に気を遣ってセーブしてくれている優しさのおかげでlynch.がここまでやってこれたこと。一言述べる度に野次が飛ぶフロア目掛けて感謝を告げたのも束の間、「でも今日はバカみたいな男しかいないので遠慮なくやっちゃってください! 多少のことではケガしないので! 今日はお前らを殺すためだけに曲並べたからな!」と煽り、「THE TRUTH IS INSIDE」を皮切りに「THE FATAL HOUR HAS COME」「ALL THIS I’LL GIVE YOU」「INFERIORITY COMPLEX」と爆速の殺人的楽曲を連投する。剥き出しの殺意にフロアは臆するどころかより勢いを増していく。テンポの速いセクションに突入する度、瞬時にサークルピットが生成され、先刻までピットで走っていた人間がサビにはダイブしている。ウォールオブデスが起きたかと思えば、ダイバーが同時に何人もステージに向かって男の海を泳いでいく。


 文字で見るとただ暴れたいだけの男達が集まっただけのイベント、という風に感じるかもしれないが、実際は全く違う。会場にいる全員が楽曲の全てを把握しており、歌えない、歌詞がわからない、曲の構成をわかっていない、なんて者が一人もいないのではと思うほどの完璧な一体感。男しかいない空間でlynch.の楽曲を最大限楽しもうとした結果、思いやりに溢れた最高の暴動が生まれているのだ。


 そんなフロアの熱量をその身で受け止めるかのように「UNELMA」「BE STRONG」とメロウな楽曲を紡いでいく。いわゆる歌モノゾーンだが、フロアの空気は冷めることなく、柔らかな暖かさを纏っていく。「D.A.R.K.」では鍛え上げられた重低音とピアノの旋律が、蛇のように会場を這っていき、暖かだったフロアを再び地獄へ誘う。続くMCで「でっかい穴空けろ!」とフロアの温度を急上昇させると、「BLØOD」のアッパーなイントロでフロアは見事に一刀両断。ウォールオブデスが巻き起こり、この人たちはいつもどこに隠れているのだろうと疑問に抱くほど大量のバイオレンスハードコアモッシャーがピットを席巻。特大のシンガロングとカオスすぎるフロアを前に、葉月は「クッソ最高です!」と親指を立て、笑って見せた。終盤に向けて「THE OUTRAGE SEXUALITY」「FAITH」と攻撃的な楽曲でフロアの体力を削っていく。


 すると突如「メンバー紹介していいですかー!」とメンバー紹介を始める葉月。だが明徳(Ba)の名前が上がらないまま先へ進もうとする。葉月の元へ駆け寄る明徳だが、その様子を尻目に「誰だこいつは! 教えてくれ!」とフロアに投げかける葉月。フロアから厳つい明徳コールが飛び交うと、「そう、こいつは、on BASS! 明徳!」と叫び「INVADER」が炸裂。鋭いスラップを喰らうと体力が回復する身体の構造なのか、フロアは一層エネルギーを増して暴れ出す。もはやゾーン状態に突入したフロアに不敵な笑みを浮かべながら葉月が口を開く。「男に言うのは気が引けるけど……SEXは好きかー! 俺とヤリたいかー! しょうがない……それじゃあ……全員でSEXしようぜー!」と恒例の「pulse_」へ。ステージに立つ5人の男へ向かって”ヤリたい”という数百人の男の咆哮。ステージ上ではメンバーが淫猥なモーションを繰り広げ、フロアでは腰を振り出す者までいる始末。そんな唯一無二のフロアに向かって葉月は「次はもっとでっかいところでやろう! もう1曲聴いてくれるか! いや、違うな。もう1曲暴れられるか!」と最後の曲「OBVIOUS」を放つ。もう17曲目だというのにこんな会場じゃ暴れるスペースが足りない、と言わんばかりに応えていくフロア。会場の熱気と臭いが最高潮に達したところで、メンバーはステージを後にした。


 本編終了後、フロアでは暴れ足りない飢えた獣達がもっとよこせと叫び出す。途中「セックス! セックス! セックスオンザビーチ!」や「やーらせろ!」コールが会場全体から沸き起こり、治安が最悪になったところで「やーらせろ、はやめようぜ(笑)」とメンバーが登場。MCで葉月は自身のジャンル分け文化への思いを話し、「ここでこれしよう、とかここでこれやっちゃダメ、とかそういうの嫌いなんで好きにやってください!」と告げ、その言葉に応えるかのように淫語や怒号が飛ぶ。そしてMC決めジャンケンで2日連続選出された悠介(Gt)が缶チューハイ片手に「やっちゃってよ!」と煽り、「BEAST」「INVINCIBLE」「TIAMAT」と畳み掛け、アンコールの間に回復したフロアを瀕死まで追いやっていく。「絶対またやろうなー!」と「LIGHTNING」でアンコールを締めくくった。


 再びメンバーが去ったステージに向かってさらなるおかわりを要求する底無しの男達。熱いコールに応えて再度メンバーが登場。正真正銘のラスト「MIRRORS」へ。フロア全体を巻き込むこの日一番のサークルピットに向かって「どこへ行こう、お前ら”バカ”を連れてー!」と叫ぶ葉月。この日一番の野太い歓声が上がり、全22曲、内9割が暴れ曲という守りに入る気ゼロの常軌を逸したライブは幕を閉じた。


 あれだけ飢えていた野郎共を見事に満足させたlynch.。彼らにはどんなに飢えていても俺達が絶対に満足させてやる、という頼れる兄貴的な空気感があり、男から見ても男らしく、この人達に着いていけば確実に最高の景色を見せてくれると思わせるような力があると思う。これこそlynch.が女性ファンはもちろん、多くの男性ファンを獲得する所以なのではないだろうか。などと考えながら私は激烈に熱くて臭いフロアを後にした。


 この日の余韻に浸り続けたい気持ちも山々だが、lynch.の「15th ANNIVERSARY PROJECT」はまだ折り返しもしていないし、ニューアルバムの発売とそれに伴う全国ツアーも控えている。このプロジェクトで兄貴達がさらなる唯一無二を見せてくれる時を楽しみにしたい。”かつてない、何者でもない何か”になる、その時を。(タンタンメン)