2020年03月10日 10:11 弁護士ドットコム
東京都・豊島区議会の沓沢(くつざわ)亮治議員のツイートが物議をかもしている。
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沓沢議員は3月7日、ツイッター上で「とあるサーバー管理者さんからご連絡 安倍やめろ ツイデモ発信は東京一極だったが細かく追跡した結果、そのほとんどが次の3つのIPアドレスからだった」として、3つの組織名をあげた。
さらに、次の投稿で「この3つに何十人何百人の書き込み要員が常駐していると思えないので、全国の工作員がここをVTN(踏み台)にしている可能性がある」という意見も紹介しているのだ。
このような投稿に対して、ツイッター上では「(ツイッター社ではない)とあるサーバー管理者には知り得ないはずだ」という内容のツッコミがされている。また、2ちゃんねるの開設者・西村博之さんも「どういう手段で開示請求したのか?」と問いただしている。
インターネット上の投稿者を特定する「発信者情報開示」について詳しい中澤佑一弁護士に聞いた。
「そもそも、ツイッター社(Twitter,Inc)は、個別のツイートに関するIPアドレスは記録しておらず、アカウントへのログイン通信のIPアドレスを記録しています。
この点はおくとしても、ツイッターでの発言に関して、ログイン通信のIPアドレスを取得しようとすれば、運営者であるにツイッター社に開示をしてもらうしかありません。
なお、ツイッターへのログインの際に、自分が管理するサーバーを経由してもらって、そのサーバーからIPアドレスを取得する方法も考えられます。しかし、それはツイートをしている人物と何らかの関係がある場合でないとできず、わざわざサーバーを経由させる意味もないので考慮しなくてよいでしょう。
また、ツイッターのアクセスログが記録されているサーバーにハッキングして情報を盗んだり、ツイッター社の社員から不正に入手したりするという方法もありますが、現実的ではありません」
「ツイッター社にIPアドレスの開示をしてもらう方法としては、わが国においては、プロバイダ責任制限法に基づく『発信者情報開示請求権』を裁判手続きで行使するのが一般的です。
裁判手続きにおいて要件が厳しく審査されますので、明確な権利侵害がない限りは情報開示を得られないのが現状です。
また、最近、アメリカ国内の『ディスカバリー』(discovery)の手続きを使って、IPアドレスを取得する方法も徐々に広まってきましたが、ツイッター社は米国裁判所からの命令にも簡単には応じていません。異議申し立てまでおこなうケースもあり、米国の手続きを取ってもかなりハードルが高いといえます。
いずれにしても、法的な権利を行使して情報開示をおこなうため、当該ツイートで誹謗中傷されている被害者などではない、対象のツイートにまったく関係性のない第三者がそのIPアドレスを入手することは不可能です」
「また、IPアドレスがわかったとしても、IPアドレスだけで具体的な個人や組織の特定に至るためには、そのIPアドレスが『固定IPアドレス』として用いられるもので、IPアドレスの管理者情報として公開されている『WHOIS情報』に、その使用者の具体的な名称が登録されていることが必要です。
法人・組織などでは、通信会社と特別な契約を締結して固定IPアドレスを使用しているケースはありますが、組織的に情報を流すような組織が、自分の固定IPアドレスを生のまま使用することはないでしょう。
なお、IPアドレスだけからは、具体的な個人特定に至らないことが通常です。この場合は、そのIPアドレスを投稿者に使用させていたプロバイダに対して、プロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示請求権を行使して、住所や氏名を開示してもらうことになります。
プロバイダにとっては、自己の顧客情報を開示することになりますので、プロバイダが情報開示訴訟で敗訴して、この開示命令が確定しない限りは開示しないという慎重な態度を取っているところが大半です」
【取材協力弁護士】
中澤 佑一(なかざわ・ゆういち)弁護士
発信者情報開示請求や削除請求などインターネット上で発生する権利侵害への対処を多く取り扱う。2013年に『インターネットにおける誹謗中傷法的対策マニュアル(中央経済社)』を出版。弁護士業務の傍らGoogleなどの資格証明書の取得代行を行う「海外法人登記取得代行センター Online」<https://touki.world/web-shop/>も運営。
事務所名:弁護士法人戸田総合法律事務所
事務所URL:http://todasogo.jp