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進む音楽制作の裏方支援 Spotifyが新機能“ソングライターページ”とプレイリストを公開

2020年03月09日 07:31  リアルサウンド

リアルサウンド

https://artists.spotify.com/blog/songwriter-pages

 音楽ストリーミングサービスのSpotifyが2月12日に新機能として「ソングライターページ」を実装。それに伴い、「Written By」というプレイリストも公開された。


(参考:Spotifyが配信から制作までを担う音楽プラットフォームへ! 進化の鍵を握る「Spotify for Artits」の今


 「ソングライターページ」とは、ソングライターとして楽曲制作にクレジットされるアーティストがこれまでに関わった楽曲作品やコラボアーティストを紹介するもので、現在はβ版として運用中の新機能だ。


 同機能のスタート時点で第1弾として登場したのは、 Meghan Trainor、Fraser T Smith、Missy Elliott、Teddy Geiger、Ben Billions、Justin Tranterなど一部アーティストのページだったが、現時点ではパブリッシャーとSpotifyがソングライターと連携してページを公開することが可能だ。公開を希望するソングライターは専用のオンラインフォームからプログラムへの参加を申請でき、所定のステップに沿って申請を進めていく形になっている。


 この申請が受理されると、これまでSpotifyが公開しているオプション機能の「楽曲クレジットの表示」内にあるソングライター部分の該当するクレジットがPCならクリック、スマホならタップ可能になり、Spotifyのアーティスト向けサービス「Spotify for Artists」内にあるソングライターページが開き、そこでそのソングライターが関わった楽曲一覧を確認することができる。


 また同ページではそのソングライターとよくコラボするアーティストも表示され、コラボ相手がソングライティングに関わった作品もチェックできる仕組みになっている(現時点では現時点ではソングライターページ申請が行われていない場合は、エラー表示される。今後、各ソングライターの申請が進むとこの機能から数珠繋ぎ的にソングライターとしての関連作品をチェックできるようになると思われる)。


 また「ソングライターページ」に付随する「Written By」プレイリストは、先述のソングライターページで紹介される関連楽曲をプレイリスト化したもので、ユーザーが従来のプレイリストを楽しむ感覚でソングライターの関連作品を聴きながらチェックできるようになっている。


 Spotifyの発表によると、すべてのユーザーのアプリのホームタブに「Written By」プレイリストが表示されるとあるが、日本語版アプリではデスクトップ、スマホアプリともに現時点では表示されていない。しかしながら、プレイリスト自体は存在しており、「ソングライターページ」も持つソングライターのプレイリスト自体には日本からもアクセスすることが可能だ。


 ちなみに日本語版アプリで「Written By」プレイリストを表示させる場合、検索タブに”Written By”と入力すると、すでに第1弾として発表されたアーティスト以外にも多くのプレイリストが存在していることが確認できる。その中には現行ポップスシーンにおいて、多くのヒットソングに関わるプロデューサー/アーティスト/ソングライターのMark RonsonやラッパーのMeek Millらのものも含まれている。


 現代の音楽シーンでは、ひとつの楽曲に複数のソングライターが関わるコライティングが主流になっており、例えばポップスターであるAriana GrandeのSpotify上で最も人気がある「7rings」には、本人を含めて実に10名ものソングライターがクレジットされている(そのうちのTayla ParxとVictoria Monétはソングライターページをすでに所有)。またソングライターとして関わるケースはメロディを提供するトップライナーやトラック制作以外にも、ラッパーのコラボ楽曲などでも共同ソングライターとしてクレジットされるケースも多い。


 さらに記憶に新しいところではAviciiが坂本九「上を向いて歩こう」をサンプリングした「Freak」、Tyler, The Creatorが山下達郎をサンプリングした「GONE, GONE / THANK YOU」のソングライタークレジットには、元ネタのソングライターたちもクレジットされている。


 こういったソングライターのクレジットは、かつてのCD、レコードなどのフィジカルメディアだとライナーノーツにしっかりと記載されていたが、音楽の流通がデジタルに移行した今となっては、アプリのスクリーンを一見しただけではわかりにくい状況だ。


 また、Techcrunchによると、Spotifyはこれまでに複数のソングライターとストリーミング収益に関わる訴訟問題を起こしており、2018年には多額の和解金を支払うなど、デジタル化によるソングライタークレジットの抜け落ちが原因となったトラブルも問題になってきた。しかしながらSpotifyは、2018年に楽曲のクレジットの表示を始めて以降、レーベルやディストリビューターの新曲リリース時には、ソングライターをクレジットする頻度が60%増加したと発表している。


 今回のページ開設によるソングライター側のメリットは、ページを通してファンに自分が関わった作品を発見してもらいやすくなるだけでなく、レーベルやパブリッシャー、音楽監督、アーティストがソングライターを見つけやすくなるとTechcrunchは指摘している。ソングライターは、そういった発見によるストリーミングロイヤリティだけでなく、次の仕事につながる可能性を得るという恩恵を受けられるようになるかもしれない。


 実際にSpotifyは、昨年、音楽制作マーケットプレイスのSoundBetterを買収しており、今後、SoundBetterを「Spotify for Artists」にダイレクトに取り組む可能性も予想されるだけに、このタイミングで音楽制作を支える裏方であるソングライターフレンドリーな施策を打ち出してもなんら不思議はないのではないだろうか?


 その点で考えると、”音楽ストリーミングサービス”から”制作から配信まで”をワンストップで関わることを目指す(と思われる)Spotifyにとって、今回の「ソングライターページ」と「Written By」プレイリストは、金銭面でのトラブルやクレジット表示開始初期の信頼性が低いという批判など、これまで少なからずネガティヴなイメージを与えてきた音楽の作り手であるソングライターからの信頼を獲得するための布石に思える。


 実際にSpotifyは、『Spotify — For the Record』で今年1月、ラッパーの21 Savageのグラミー賞ノミネートアルバム『I Am > I Was』の制作の裏側に迫る特集記事も公開。アルバム収録曲のプロデューサーやソングライターとして参加したDJ Dahi、Nija Charles、J Whiteといった3組の裏方にインタビューを行い、Spotifyが彼らのキャリアにどのような影響を与えたかにも迫っている。そのようなことからも、Spotifyが競合他社とは別軸の営業戦略として、音楽制作の裏方支援を次の一手として打ち出しているような印象を受ける。


 果たして今回の新機能は今後、どのようにソングライターに受け入れらていくのだろうか? 今後の動向に注目していきたい。


〈Source〉
https://artists.spotify.com/blog/songwriter-pages
https://spotifyresearch.typeform.com/to/oS0jfp


Meet the Behind-the-Scenes Talent Behind 21 Savage’s Grammy-Nominated Album ‘I Am > I Was’



Spotify is giving songwriters their own pages and playlists



画像:https://artists.spotify.com/blog/songwriter-pages


(Jun Fukunaga)