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コスプレ撮影で人と差をつけるにはどうすればいい? 中国凄腕カメラマン「自分だけのスタイルを確立すべし」

2020年03月08日 11:03  アニメ!アニメ!

アニメ!アニメ!

コスプレ撮影で人と差をつけるにはどうすればいい? 中国凄腕カメラマン「自分だけのスタイルを確立すべし」
コスプレイヤーを上手に撮るにはどうしたら良いんだろう?

現在は「コミックマーケット」や「池袋ハロウィンコスプレフェス」など、コスプレイヤーを撮影可能なイベントが多くあります。
しかし、コスプレイヤーに写真を送った際に、写真を気に入ってもらいSNSに投稿してもらえるかは全く別の話。他のカメラマンと差別化した写真を撮らないと選んでもらうことも難しいです。



どうしたらイベント撮影でコスプレイヤーに選んでもらえる写真が撮れるのか。その答えは、凄腕カメラマンが多く、イベント撮影とは思えないクオリティの写真が多く生まれる中国にあると思いました。

そこで、中国で3本の指に入るイベントカメラマンのkuma桑熊さんに聞きました。彼は2019年12月21日・22日の2日間開催された、“中国版コミケ”と呼ばれる中国最大級の同人イベント「Comicup25」では、人気ゲームアプリ『アークナイツ』などの公式カメラマンとして活躍しています。

今回、特別に「Comicup25」の撮影現場に密着させてもらい、その撮影技術の秘密に迫りました。



■環境に適応する
イベント会場は必ずしも作品にロケーションが合うわけではなく、撮影機材の使用制限が厳しいことも少なくありません。比べると、スタジオは好みのロケーションを選べますし、機材制限が緩いです(ロケは場所によりけりです)。当然、イベント会場では、なかなかイメージ通りの撮影をすることは難しくなります。

だからこそ、まずはイベントの撮影条件に合わせた撮り方を身に付ける必要があります。例えば、屋外ならば人物を明るくしつつも空を暗く青く撮るハイスピードシンクロ、屋内の暗所であるならばストロボを使った演出を凝らせて撮るなど、イベントに合った撮り方を知って、それを基本軸にすることがスタートラインです。

■自身の撮影スタイルを確立する
そこから、自分だけの撮影スタイルを確立することが出来たら、過程で技術は伸びますし、結果的にコスプレイヤーが写真を見てくれたときに与える印象も強くなります。
kuma桑熊さんの場合は、大きな中国の動漫イベント(アニメや漫画、ゲーム、同人誌即売会など)が屋外・屋内どちらでも十分な広さで撮影できる環境下なので、屋内撮影に特化したスタイルを確立しました。つまり、従来のストロボを大きく活用した撮り方の一歩先です。



コスプレ撮影は非現実な世界観を表現するケースが多いので、ストロボと相性が非常に良く、赤や青といった光を使うことで印象深い写真を撮ることができます。当然ながら、暗い屋内のほうがストロボの光は映りやすいので、屋外では表現することが難しい撮影手法になります。

kuma桑熊さんもライトスタンドやソフトボックス など撮影機材制限があれば、ストロボの数を減らすことがありますが、ストロボを活用した撮り方は変えません。日本のコミックマーケットに参加した際も、日陰のある場所で撮影をしていました。



当然、ストロボを使って撮るカメラマンは多くいます。基本的には被写体の顔に1灯を当てて、2灯目以降はアクセントとして使うのが一般的です。つまり、被写体に後ろから光を当てて輪郭をつける、被写体の一部に光を当てる、壁があれば背景の色づけで光を当てるといった使い方です。
kuma桑熊さんの撮り方の特徴は、色をつけたストロボ光を被写体の顔や体全体に当てるなど、アクセントに留まりません。ストロボ光がストーリー性の演出に大きな働きをしているのです。

■アニメやゲームのシーンを再現する

ストーリー性のある写真に仕上げられるもう一つの要因が、135mmレンズで撮影をしていることです。レンズは数字が小さいほど被写体と近い距離で全身を撮ることができます。
なので、混雑するイベントでは35mmまたは50mmなどのレンズが主に使われています。135mmの場合は被写体の全身を撮るなら身長にもよりますが、10m近く離れないといけません。日本のイベント会場だと大変混雑していることが多く、被写体から離れて撮ることが難しいので、使いやすいレンズではありません。基本的にはロケで背景を大きく撮る時などに使われます。

しかし、セオリーは、あくまでも先例が少ない意味ではあっても絶対ではあり得ません。kuma桑熊さんは135mm(望遠レンズ)の特徴である圧縮、ボケの美しさを活かし、被写体をアップで撮ります。
ストロボの強い広範囲の光、人物のアップ、ボケや圧縮が掛け合わされる写真はアニメやゲームの1シーンをイメージさせます。



ここで最も重要なのが画角と構図です。この2つは筆者がkuma桑熊さんと同じレンズ、ストロボの設定で撮っても再現できることではありません。

例えば、武器を持ったキャラクターが攻撃しているような演出で撮りたい時、被写体に立ってもらうか、座ってもらうか、縦で撮るか横で撮るか、どの角度にするか、被写体や武器は全て写すか、一部分で切り取るか、ストロボをどう使うかなどの選択肢は無数にあります。
そこで瞬時に自分が撮りたい構図が思い付くことができ、被写体に的確な指示を出し、ストロボを設置できるのは、キャラクターへの理解度、モデルの良さを引き出す眼力によるところが大きいです。そうやって積み上げていくことで、撮影センスは磨かれていきます。

次ページ:kuma桑熊さんの『アークナイツ』公式コスプレイヤー撮影現場に密着

■実際の撮影現場を直撃
「Comicup25」では、kuma桑熊さんによる『アークナイツ』公式コスプレイヤーの宣材写真撮影現場を直撃しました。中国内で人気ゲームアプリとあって、知名度が高いコスプレイヤーが多く起用されていました。


同イベント会場はスペースの余裕を持たせて複数のホールが使用されていました。基本的には、屋内であれば人がいない箇所、また屋外でならどこでも撮影して良いため、明確なNGはありません。

そんな中でkumaさんが撮影場所に選んだのは、一般参加者が近づくことがないとあるホール2階の一室。中国では公式カメラマンの撮影であっても、一般来場者が撮影に割って入るため、静かに撮影できる環境を見つけることが必須です。
日本でもコスプレイヤーさんの信頼を得られるならば、撮影イメージを実現しやすい場所に移動して撮影をするべきでしょう。



撮影中、撮影アシスタントが数人いました。基本的にはウィッグや衣服をひらめかせる役割です。動きがあるだけで写真の見栄えが大きく変わります。こういったチームプレイは最近、日本でも良く見られるようになりました。


kuma桑熊さんは様々な小道具を用意していましたが、基本的にはストロボ2灯と被写体の顔にLEDライトを当てて撮影に臨んでいました。前面にストロボを使わないのは、拡散させたい後ろのストロボ光を打ち消してしまうのを避けるためです。


今回、kuma桑熊さんは赤と青のカラーフィルターを使用しました。一般的なカラーフィルターよりもずっと大きいサイズを使ったのは、色がついた光の拡散量を増やす狙いです。kuma桑熊さんの写真は、ストロボの光が、画面全体に広がっていたり、背景全てを強く覆っていたりすることが特徴。そうした写真を撮りたい時にカラーフィルターは最適なアイテムのようです。




撮影中は被写体が再現できる動きに合わせて色んな角度から撮り、修正や追加でポーズの指示を出していました。
また、被写体に撮りたい写真のイメージを事前に伝え、撮った写真を見せて理解してもらうことを徹底していたのも印象的でした。

とりあえず筆者も少しでも理解しようと、kuma桑熊さんにほぼゼロ距離で密着して同じ目線と方向を追いかけました。形から入るのは大事ですが、イベント現場で同じようなことを他のカメラマンにしたら、確実に邪魔になるのでやめましょう。

■上達するのに大切なもう一つのこと
中国ではコスプレカメラマンの競争が日本以上に激しいのですが、kuma桑熊さんは2016年末くらいからコスプレ撮影を始め、常に撮り方を工夫してきたことで急成長しました。自らの経験を踏まえた上で、「信じたスタイルで撮ることが大事。ひたすら練習を繰り返して」と語っています。

kuma桑熊さんの言う通り、ここで伝えたいのは、kuma桑熊さんの撮影スタイルは選択の一つであり、絶対の正解ではないことです。

実際に撮影現場を目撃し、完成した写真を見た後は「おおおっ!」となりました。しかし、これはkuma桑熊さんの頭の中にある絵を現実に取り出している手法なので、同じように撮ろうとしても上手くいくとは限りませんし、応用は難しいです。





練習を繰り返す上では数をこなすだけでは良くないとのアドバイスも。「自分のスタイルを確立する上でも、良いと思った撮り方をしているカメラマンから学ぶ」ことが重要になります。

ただし、教えてもらうのではなく、そのカメラマンが撮った写真を分析して、自分の中に落とし込んでいく試行錯誤の過程で新しい技術も身につきます。インスパイアして、練り上げることで自分ならではの独創性が生まれていくという考えです。コスプレ撮影の道は険しいですね。

コスプレイヤー撮影:kuma桑熊
kuma桑熊撮影:乃木章