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聖火リレー動画「SNSに投稿禁止」からOKに 公道の撮影ルール、福井健策弁護士に聞いた

2020年03月07日 09:21  弁護士ドットコム

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一般人が公道で撮影した聖火リレーの動画はSNSに投稿することを禁止する—。そんな方針を東京五輪・パラリンピック大会組織委員会が公表して批判を集めた。


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しかし、その直後に組織委員会は「理解が不正確で事実と異なっていた」として謝罪して撤回。国際オリンピック委員会(IOC)も個人のSNS利用には問題ないことを強調、次のようにコメントした。



「個人がオリンピック聖火リレーでの経験を個々人のソーシャルメディアアカウントに投稿することができないというのは正確ではありません。過去同様、商用・販促利用を除き、IOCは個人が聖火リレーでの経験を個人使用の目的で撮影し共有することを積極的に推進しています」(’経験'には、映像・音声も含みます。)



しかし、「聖火ランナーの肖像権」「著作物の映り込み」など気になることはある。また、そもそも、IOCは公道での聖火リレーの撮影を禁止することは可能なのだろうか。知的財産権にくわしい福井健策弁護士に聞いた。



●公道での公開イベントは肖像権侵害の可能性は低くなる

通常、「公道で見たお祭りやイベントを撮影して動画をSNSにアップする」場合など、法的に問題になることはありますか?



「人の庭などに無断で立ち入って撮らない限り、単に公道で動画を撮影して投稿することを規制する法律は、当然ながらありません。問題は何が映されたか、となります。



お祭りやイベントを撮影投稿する場合、一番には肖像権の問題となるでしょう。これは、判例で認められた権利で、『肖像権法』という法律はありませんから、判例の基準を参考にして判断されることになります。よくある誤解は、『人の姿が映っていれば全て肖像権侵害』というものですが、裁判所はそんなことは言っていません。



有名なのは2005年の最高裁の基準で、被写体の社会的地位、撮影された活動、撮影場所、撮影の態様、目的や必要性を総合考慮して、その撮影や公表が一般人の受忍限度を超えれば違法、というものです。それはそうだろうという穏当な基準とも言えますが、総合考慮ですからかなり個別の判断となります。



一般論としては、撮影場所が公道で、撮影された活動がお祭りや公的行事といった公開イベントの場合、肖像権侵害の可能性はそれだけ減るでしょう。特に神輿を担いでいる人など積極的な参加者と呼べる場合、個人をアップで追いかけるような形態でない限りは肖像権の問題は少ないと考えて良いのではないでしょうか。



他方、沿道の一般観客の場合、それよりは基準は厳しくなるでしょうが、ある程度の人数が群衆として映されている限りは許容範囲と言える場合が多いように思います。



ただし、例えば露出度の高い服装をしている方や、酔態、喧嘩の様子など、一般に公衆の目に触れたくないと本人が思うかもしれない姿を撮影公開される際には、一段慎重な考慮が必要でしょう」



●肖像権、OKかNGか判断するには?

では、聖火リレーのランナーも撮影して問題はないのでしょうか。



「聖火リレーの場合も、肖像権はあくまで被写体となる人物の『人格的利益』を保護するもので、放送局のビジネスを保護するものではありません。そのため、テレビ局が放送権を持っているからといって肖像権侵害にあたりやすくなるということは考えにくいでしょう。



むしろ聖火ランナーの方々は自分の姿が繰り返しテレビ放送されることは十分承知の上でランナーになったと思えますから、特にランナーの姿の撮影公表が肖像権侵害になる可能性はやや低いように思います。



肖像権は、このように多くのファクターの総合考慮とされ、著作権法のように明文の例外規定も保護期間の定めもありません。そのため、大量の写真や映像を扱う現場では公開OKかNGかの個別判断は頭の痛い問題です。



そこで私も加わるデジタルアーカイブ学会の法制度部会では、諸要素の総合考慮をポイント制によって考えやすくする、『肖像権ガイドライン案』を実験的に公表しています。あくまで議論のための叩き台の案に過ぎませんが、ご参考になさって頂ければ幸いです」



●動画撮影で気になる「映り込み」は?

ほかに気をつけることはありますか?



「そのほか、動画に街中の映画ポスターや著名キャラクターの看板が映り込む、あるいは沿道のお店のBGMが入り込む場合、著作権も問題にはなります。



もっとも、著作権法には30条の2(付随的利用)という例外規定があり、聖火リレーの様子という対象を映す上で軽微に否応なく他人の著作物が映り込む/入り込むことは許容されます。



同様に、商標登録された会社名やブランドロゴが映り込むことで商標権侵害を懸念される方もいるようですが、動画への映り込み程度であればさほど心配することはないでしょう」



●IOCは聖火を自らの知的財産に位置付け

そもそも、IOCは公道で行われる聖火リレーについて撮影を禁止できる権利があったのでしょうか。



「競技施設内などで動画を撮影・投稿する場合、組織委員会は『チケット購入・利用規約』でかなり厳格な撮影公開ルールを設けており、なんと一般人が撮影した動画の著作権は自動的にIOCのものになってしまうくらいです。



詳しくはこちらを参照:  https://www.bengo4.com/c_23/n_9633/



他方、公道で一般人が撮影する場合、こうした規約は恐らく適用されませんから(同規約1条(1)、33条3項ほか)、IOCが禁止・規制する法的根拠は希薄でしょう。



IOCは聖火を自らの知的財産と位置付けており( https://gtimg.tokyo2020.org/image/upload/production/z7bmx8mwb130ohlpctm7.pdf:6頁)、放送権者や公式スポンサーへの配慮からその使用を厳しくコントロールしようとする傾向がありますが、少なくとも公道での撮影動画の投稿を規制できるほど強い権利が聖火のイメージだけで生じるとは思えません(日本ではそういったオリパラだけの特別法も、特に制定されてはいません)。



そうしたこともあって、IOCは撮影した動画の投稿を禁止するのではなく、『個人使用の目的で撮影し共有することを積極的に推進』しているのではないでしょうか」




【取材協力弁護士】
福井 健策(ふくい・けんさく)弁護士
弁護士・ニューヨーク州弁護士。日本大学芸術学部・神戸大学大学院 客員教授。デジタルアーカイブ学会理事ほか。「18歳の著作権入門」(ちくま新書)、「誰が『知』を独占するのか」(集英社新書)、など知的財産権・コンテンツビジネスに関する著書多数。「改訂版 著作権とは何か」(集英社新書)、「インターネットビジネスの著作権とルール(第2版)」(編著・CRIC)を3月刊行。Twitter:@fukuikensaku
事務所名:骨董通り法律事務所
事務所URL:http://www.kottolaw.com