2020年03月06日 18:12 弁護士ドットコム
新型コロナウイルス感染拡大の対策として、新型インフルエンザ特措法の対象に新型コロナを加える法整備が進められています。しかしこれには異論も噴出しています。
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その1人、内山宙弁護士は、新型インフルエンザ等緊急事態宣言をする前に国会承認を必要とするようにする、説明責任を負わせる等の改正が必要ではないかと弁護士ドットコムニュースの記事にて指摘しました。
そんな中、与野党の協議の中で、国対委員長間で既に落としどころが決まってしまっているのではないかという情報が出てきています。
緊急事態宣言に事前の国会の承認を必要とするのではなく、宣言後「速やかに国会報告」をすることとされています。つまり、国会にてあるべき修正がされない可能性が出てきたのです。法案修正をするのではなく「速やかな事後報告」という附帯決議だけが付けられて終わりになる可能性もあります。
附帯決議にどんな問題があるのか。改めて内山弁護士に意見を聞きました。
ーー「附帯決議」とは何ですか。
「国会の衆参両院の委員会が採決する際に、その委員会の意思を表明するために付けられる決議ですが、法的拘束力はありません。
どのような使われ方をするかですが、例えば、批判の強かったIR法案では、法案自体には反対していた国民民主党が、最終段階で附帯決議を付けることを条件に、法案に賛成することになりました。
賛成したこと自体への批判がある一方、何もないよりましということで評価する声もありました」
ーー附帯決議に違反したらどうなるのですか。
「附帯決議には法的拘束力はないので、違反しても違法になることはありません。
例えば、天皇が代替わりした皇位継承の際の退位特例法の附帯決議に、『皇位の安定的継承と女性宮家について速やかに検討する』との規定があったのですが、結局、この間に政府が動いていないのはご存知のとおりです。
実は、元々、新型インフルエンザ特措法が成立した時にも19項に渡る附帯決議が付けられていました。
その中には、新型インフル緊急事態宣言の決定に至る記録については会議録等の経過記録や科学的根拠などを完全に保存し、国民への説明責任を果たすとともに、次代への教訓とすること(2項)、施設の利用制限要請をする際には、消毒液の設置、人数制限などのより人権制約の度合いの小さい措置が可能であることを明示すること(13項)、施行後3年以内を目途に新型インフルエンザ対策にかかる不服申し立てや訴訟などの権利救済制度について検討を加え、必要な時には措置すること(17項)などが定められていました。
しかし、権利救済制度については、結局、現在まで何の手当もされていない状況なので、附帯決議違反ということになります。それでも特段、違法とされていないのは、権利救済制度の創設が法律の条文に入っていないからなのです」
ーー特措法改正にあたって附帯決議を付けることに意味はあるのでしょうか
「国対委員長間で合意したと思われる文書では、速やかに国会に事後報告するというものがあり、これを附帯決議にすることが考えられます。しかし、これはある意味、法律そのままなので、この程度の附帯決議であれば入れる意味はほとんどありません。
新型インフル緊急事態宣言に民主的コントロールを及ぼしたいのであれば、附帯決議ではなく、『対策本部長である内閣総理大臣が緊急事態だと認めたら宣言でき、国会へは事後報告でよい』という要件を改め、『事前の国会承認を要する』という法律の改正が必要となります。
また既に、2012年の成立時に多数の附帯決議が付けられているのに、重ねて附帯決議を付ける意味はほとんどありません。そうすると、今回の採決に当たって、附帯決議を取るために賛成に回るというIR法案の時の国民民主党のような対応をする意味もないわけです。
民主党政権の時にできた法律なので野党が反対しにくいとか、コロナ対策に消極的だとみられたくないという思惑があるのかもしれません。
しかし、権限を与え、人権規制を可能とすること、そしてバランスの取れた民主的コントロールを及ぼすというあるべき法改正を対案として出して、きちんと国会で議論することの方が、国民に別の選択肢を示すことになり、有益なのではないでしょうか」