2020年03月06日 10:12 弁護士ドットコム
警察に「職務質問(職質)」され、拒否したら警察署まで連れて行くと言われ、渋々応じましたーー。弁護士ドットコムにこのような相談が寄せられている。
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相談者は仕事で工具を使うため、日常的にバッグに工具を入れているという。いつものようにカッター、ニッパー、ドライバーなどの工具をバッグに入れ、仕事から帰宅している途中に職質されたようだ。
相談者は職質に応じ、工具や仕事の依頼人からのメールを警察に見せた。ところが、「銃刀法違反の可能性がある。ほかに危険物がないか確認したいので、バッグの中身を見せてほしい」と言われたという。
「仕方ないので見せましたが、工具以外の荷物を調べられたくなかったです」と相談者は不快感を感じている。
バッグの中身を見せたり、警察署まで行ったりすることを拒否することはできるのだろうか。坂口靖弁護士に聞いた。
ーー相談者のように職質された場合、拒否することはできるのだろうか
「法律的にはできますが、実際上はなかなか難しいことが多いように思われます。
職務質問は『異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して』『何等かの犯罪を犯し、若しくは犯罪が行われようとしていることについて知っていると認められる』場合に質問することが認められる(警察官職務執行法2条1項)というものです。
これは、あくまで『任意捜査』の限度で質問や所持品検査を実施できるというものになります。したがって、そもそもかかる要件を備えていない職務質問や、所持品検査等を拒絶しても法律上は何の問題もありません。
また、仮に要件を満たす職務質問であっても、あくまで『任意捜査』の限度で認められるものでしかありませんので、質問を無視しつづけ、警察署への同行も拒否し、そのまま帰宅してしまうことも可能ではあります。
よって、バッグの中身を見せることを拒絶したり、警察署に行くことを拒否することも法律上は可能です」
ーー法律的には拒否できるにも関わらず、なぜ実際上は難しいのだろうか
「『異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して』との要件は、非常に緩やかに解釈されることが多く、警察が把握していた事前情報(たとえば、近隣で窃盗事件があったなど)や相談者が警察官を目撃し、足早に立ち去ろうとしたなどの一切の事情を考慮して判断されることとなります。そのため、職務質問が適法とされるケースが少なくありません。
そして、適法に職務質問を実施できる場合には、必要性、緊急性、相当性の認められる範囲において、進路をふさぐなどの『有形力の行使』も認められる場合もあります。そのため、その限度で警察官らに執拗に停止を求められ、質問に回答するように食い下がってくることも十分に想定されます。
このような場合には、警察官らは、肩に手をかけ停止するように説得してきたり、前に立ちふさがったりしてくることが想定されます。それらを強引に払いのけたりすると、公務執行妨害等によって現行犯逮捕などをされかねないというリスクも生じてきます」
ーーこのような警察官の対応やリスクを考慮すると、急いでいる時はさっさと見せたほうが無難なのかもしれない
「そうですね。急いでいるときなどは、バッグの中身等をさっさと見せてしまったほうが早く終わることが多いようにも思われます。
もし、職務質問に応じない対応をとる場合は、裁判において自身の正当性を担保するために携帯電話などで動画や音声を撮影、録音しておくべきです。
裁判で職務質問時における『真実の状況』を明らかにするためには、動画などが不可欠です。逆に、動画などがない場合は『真実の状況』を明らかにすることは不可能に近く、警察官らの証言をうのみにされてしまうおそれもあります」
ーー相談者は職質を拒否した際に、警察から「受忍義務がある」と言われたようだ
「職務質問に関する『受忍義務』は存在しないように思われます。
警察官は説得し、任意に質問や検査を実施したいと考えています。そのため、このようによくよくわからない発言をし、職務質問に任意に応じるように執拗に説得してくることがありますので、注意が必要です」
ーー相談者は警察に「拒否したら警察署まで連れて行く」と言われたそうだ。このような警察官の発言は許されるものなのだろうか
「職務質問は、一定の要件の下、あくまで警察署への同行を『求めることができる』とされているに過ぎず、やはり任意同行を求めることができるものに過ぎません。
『拒否したら警察署まで連れて行く』との発言は、あたかも強制であるかのように受け取れる発言です。そのため、不相当で許されない発言であると考えられ、仮にこのまま警察署に連行されたとしたら、違法な身体拘束との評価を受ける可能性も高いものといえます。
ただし、刑事裁判では、警察官らは言った言わないの水かけ論に持ち込むことが散見されます。よって、前述のように、職務質問を受けた際は、手続きの一部始終をスマホで録音または録画しておくことが重要であると思います」
【取材協力弁護士】
坂口 靖(さかぐち・やすし)弁護士
大学を卒業後、東京FM「やまだひさしのラジアンリミテッド」等のラジオ番組制作業務に従事。その後、28歳の時に突如弁護士を志し、全くの初学者から3年の期間を経て旧司法試験に合格。弁護士となった後、1年目から年間100件を超える刑事事件の弁護を担当。以後弁護士としての数多くの刑事事件に携わり、現在に至る。
事務所名:佐野総合法律事務所
事務所URL:http://www.sanosogo.com/