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稲垣吾郎、約30年ぶりの朝ドラ出演への思いを語る「新たな地図を広げていくことができたら」

2020年03月06日 08:21  リアルサウンド

リアルサウンド

稲垣吾郎(撮影=服部健太郎)

 いよいよ最終回まで約1カ月を切ったNHK連続テレビ小説『スカーレット』。喜美子(戸田恵梨香)が八郎(松下洸平)と新たな関係を築き、また幸せな日々が待っているかと思った矢先に、武志(伊藤健太郎)の身体を病魔が襲う。そんな険しい闘病生活の中で、喜美子と武志の支えとなっていくのが、第129話で登場した医師・大崎茂義だ。


 物語の最終幕を支える人物として、最重要とも言える大崎を演じるのは、『青春家族』(第42作・1989年前期)以来の連続テレビ小説出演となる稲垣吾郎。「新しい地図」として取り巻く環境が変化し、自身も年齢を重ねる中で、大崎医師にどんな思いを稲垣は込めたのか。内田ゆき制作統括の言葉による最後のテーマ「生きること」を稲垣はどんな形で担ったのか。これからの本格登場を前に話を聞いた。


参考:【写真多数】稲垣吾郎インタビュー撮り下ろしカット


●脚本・水橋文美江の「稲垣吾郎像」


ーー脚本を手がける水橋文美江さんの作品へは本作が初出演となります。台本を読んだとき、どんな印象を持ちましたか?


稲垣吾郎(以下、稲垣):水橋先生の作品には参加したことはなかったのですが、実は昔から面識があるんです。僕たちのコンサートにもよく足を運んでくださっていて、僕のこともよく知ってくれていました。だから、台本を読んでいても、大崎先生の中に僕の歴史を感じる部分があるというか、水橋先生の「稲垣吾郎像」が反映されているなと強く感じました。なので、演じるのもすごく楽しいですね。


ーー具体的にはどんなシーンで「稲垣吾郎像」を感じたのでしょうか?


稲垣:大崎先生の人間味が出るシーンですね。後々、喜美子が先生に陶器をプレゼントをするシーンがあるんですが、「どんな模様や色のお皿がほしいですか」と尋ねられます。その時大崎先生が返す言葉が「稲垣吾郎」のようですので、お楽しみに(笑)。確かに僕も言いそうだなと(笑)。ほかにも、先生なのに白衣を着たがらないところだったり、いろいろと変わり者の部分があるんです。そんな不思議な雰囲気を持つキャラクターが自然に出来上がっているのも、僕のこれまでの活動を見てくれている水橋先生だからこそだと感じます。最初にお話をいただいた際、内田制作統括から、「『スカーレット』の最終幕は死をテーマにしたものではなく、“生きる”ことをテーマにしたい」という言葉をいただきました。その思いは大崎先生を演じる上でも核の部分として意識しています。喜美子と武志を支える医師として、生きる希望を与える医師として、物語の中に存在することができればと思っています。


ーーこれまで稲垣さんが演じてきた役を振り返ると、誰かを包み込む、支えるという役回りは意外にも初めてのような気がします。


稲垣:確かにそうかもしれませんね。変わり者と言いますか、自分が一心不乱に没入することで周りの助けにもなる、そんな少し特殊な役柄が多かったような気がします。今回、こうして支える役柄をオファーしていただけたのも、年齢を重ねたこと、環境が変わりいろんな経験をしたことが大きかったのかもしれません。


ーーオファーがあったときは稲垣さんも驚いたと聞きました。現場に途中参加する難しさはありましたか?


稲垣:僕もいち視聴者として『スカーレット』を観ていたので、お話をいただいたときはびっくりしました。でも、それと同時に本当にたくさんの方が観ている、生活の一部になっている朝ドラに、約30年ぶりに出演させていただけることは本当にうれしかったです。喜美子を演じる戸田さんをはじめ、現場は初共演の方々ばかり。なので、転校生のような心持ちでした。最近は映画や舞台のお仕事をさせていただいていましたが、改めてドラマ、しかも“朝ドラ”の現場のテンポの速さには驚かされました。でも、こうしてまた新鮮な経験をさせていただけることが非常に楽しいです。


ーーここまでで印象に残っているシーンは?


稲垣:喜美子に武志の病名の告知、余命の宣告をするシーンです。あくまで医者として冷静に病気に向き合わないといけない。でも、医者である前に1人の人間でもあるので、辛い気持ちにもなってしまう。その狭間でゆれる大崎先生の感情を表現するのはすごく難しかったです。『スカーレット』の舞台となっている1980年代は病名を患者さんに告知をすることが決して多くなかったそうなんです。それでも大崎先生が伝えたのは、病気と戦ってほしい、生きてほしいと思っていたから。当時は白血病の特効薬もなければ骨髄移植も難しい時代でしたが、いまは医学が著しく進歩して、白血病も不治の病ではなくなりました。それも今日まで世界中の研究者・医者の方々、骨髄バンクを設立した方々がいたからこそです。そういった皆さんにも敬意を払いながら大崎先生を演じさせていただいております。


ーー武志、喜美子との共演シーンが中心だと思いますが、伊藤さん、戸田さんの印象を教えてください。


稲垣:伊藤さんは、映画『クソ野郎と美しき世界』に出演してくださったのですが、同じシーンはなかったので今回こうして向き合って共演できることを楽しみにしていました。こんなことを言うとおじさんみたいですが、自分が伊藤さんの年齢のときにはこんなにしっかりお芝居できなかったなと感じました。伊藤さんが作陶をしているシーンも本当に見事なんです。武志にしか見えないですし、また別作品でも共演してみたいですね。戸田さんは、本当に自分の芯がしっかりあって、それでいて周りを受け止める包容力もある。まさに「喜美ちゃん」そのものです。連続ドラマの主演は僕も経験させていただいたことがありますが、座長にしかわからない大変さがあるんです。その中でも約1年間撮影し続ける朝ドラヒロインは本当に大変だったと思います。


●SNSを通して届いたファンの“リアルサウンド”


ーー喜美子と武志にとって大崎先生が支えとなっていくわけですが、稲垣さんご自身の精神的な支えは?


稲垣:精神的な支えは「ヒロくん」(※半同棲していると語ったことがある稲垣の友人)です。


ーー:(笑)。


稲垣:ややウケですね(笑)。半分冗談、半分本気ですがヒロくんをはじめ、友人、家族、一緒に仕事をしている仲間、たくさんいます。意外に思われるのですが、僕は1人で抱え込むタイプではなく、すぐに回りに相談するタイプなんです。喜美子や武志とは逆です。2人は心配をかけたくないと自分で頑張ろうとしますが、僕はすぐに人に頼ってしまいます(笑)。


ーー『スカーレット』のテーマのひとつとして、さまざまな「出会い」が描かれてきました。稲垣さんは「新しい地図」として、新しい出会いは何かありましたか?


稲垣:環境が変わって失ったものもあれば得たものも大きいですね。特にSNSは大きな出会いでした。これまでもファンの方々の応援は届いていたのですが、SNSを通してまさに“リアルサウンド”な声が届くようになって(笑)。


ーーありがとうございます(笑)。


稲垣:そんな声を実感として知ることができたことは本当に大きいことでした。『スカーレット』も毎日Twitterのトレンドにあがっていますし、僕の出演が決まったときも皆さんが話題にしてくださっていて。演じること、それは僕にとって一番の軸になっているものなので、こんなに多くの方々が観ている作品に出演できることは本当に大きなことです。もちろん、地上波だけではなく、さまざまなステージがあることを知ったので、いろんな場所で、新たな地図を広げていくことができたらと思っています。才能の塊が競いあう世界の中でもあるので、また新たなステージでもっともっと成長して、皆さんに面白がってもらえたらなと思います。


ーー約30年ぶりの出演となった“朝ドラ”は今後の活動にどう活かされていくかと感じていますか。


稲垣:まだ何もわからない14歳の頃に“朝ドラ”に出演させていただいて、また環境が変わってリセットされたタイミングでこうして“朝ドラ”に出演させていただくことにすごく縁を感じております。俳優の仕事は何歳がピークというのはないと思うんです。歳に応じた役柄が必ずありますから。そのときそのときでさまざまな役柄に起用していただけるように、自分を磨いていきたいなと感じております。


 先日、草なぎ剛君が出演した舞台『アルトゥロ・ウイの興隆』を観に行きました。何十年間も一番近くで見てきた仲間である剛くんなのに、見たことのない彼の表情、姿があったんです。それにはすごく感動しました。ただ、彼の新作を観たらまたきっと違う表情が見れると思っています。常に自分を更新し続けているんです。それは僕も見習わないといけないなと。僕のことをずっと応援してくださっている方の中には、「稲垣吾郎」というイメージが出来上がっていると思うのですが、それをどんどんアップデートし続けて、常に新しい稲垣吾郎を見ていただけるようにしたいと思っています。


取材・文=石井達也