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『コタキ兄弟と四苦八苦』で独特な存在感を発揮 リアリティのある古舘寛治の巧みな演技

2020年03月06日 08:01  リアルサウンド

リアルサウンド

古舘寛治(c)「コタキ兄弟と四苦八苦」製作委員会

 数々の映画やドラマにバイプレイヤーとして出演している古舘寛治。『コタキ兄弟と四苦八苦』(テレビ東京系)では主演として、「レンタルおやじ」を始めた無職の兄弟の長男・一路を演じ、巧みな演技と独特な存在感を発揮している。


 古舘はニューヨークで演技を学び、帰国後、平田オリザ主宰の劇団「青年団」に入団、舞台を中心に活躍した。古舘の自然体な演技は、登場人物同士の関係性を、すんなりと意識させる。


【写真】さっちゃん役の芳根京子


 例えば、記憶に新しい、大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』(NHK総合)で古舘が演じたのが可児徳だった。大日本体育協会初代理事長・嘉納治五郎(役所広司)に振り回される役柄だが、コミカルなやりとりの中に嘉納と可児の信頼関係を感じさせた。『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)では古田新太演じる沼田の行きつけのバーのマスター・山さんを、『リーガルハイ』(フジテレビ系)では堺雅人演じる古美門のライバル法律事務所の弁護士・磯貝を、NHKの朝ドラ『ごちそうさん』や『あまちゃん』にも出演し、脇役として主役を引き立たせながらも、その特徴的なキャラクター像を視聴者の心に残している。


 そんな古舘が今作で演じる一路は、滝藤賢一演じる二路の兄で、無職で独身、真面目すぎてうまく生きられないキャラクター。その真面目さは、褒められるタイプというよりも融通が効かないタイプであり、ちゃらんぽらんな二路や喫茶シャバダバの看板娘・さっちゃん(芳根京子)から意見を押し切られることもある。だが「レンタルおやじ」の無茶な依頼に“四苦八苦”しながらも、彼なりに依頼に応えようとする、不器用だが優しい姿はとても魅力的。また、一路の真面目すぎる言動の至る所から、8年前に勘当した弟・二路に文句を言いつつも突き放さないといった、人の良さが滲み出ているように感じる。


 一路が魅力的なのは、「普通のおじさん」に見えるからかもしれない。古舘の演技は、ニューヨークで学んだ演技メソッドをアレンジした“古舘メソッド”と呼ばれ、リアリティを追求した「演技しているように見えない演技」が、フィクションの世界にいるキャラクターがその世界で「生きている」ことを感じさせる。


 また、古舘と滝藤の入れ替わり演技が話題になっていた第8話「八、五蘊盛苦」では、コタキ兄弟だけでなくさっちゃんも入れ替わってしまうのだが、相手のクセや特徴をとことん再現した演技は見事なものだった。弟を演じる滝藤はじめ、共演者ととことん演技について向き合ってきたことがうかがえる。SNSでは「キレキレの入れ替わり演技が観れて大満足」「入れ替わってお互いの喋り方や仕草完コピしてんの凄い」などの声が挙がっていた。


 『バイプレイヤーズ ~もしも6人の名脇役がシェアハウスで暮らしたら~』(テレビ東京系)を筆頭に、名バイプレイヤーたちにスポットを当てたドラマは度々放送されている。本作はそんなドラマの中でも、オフビートな作風の山下敦弘演出とユーモアを交えた会話劇を描く野木亜紀子脚本、古舘と滝藤の演技が見事にマッチし、好評を得ていると言っても過言ではない。


 そして、古舘が表現するリアリティによって、本作が描く切なくも優しい世界が視聴者の心により強く響いているのだろう。


※古舘寛治の「舘」は、舎に官が正式表記


(片山香帆)