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新型コロナ、イベント中止で安倍首相「補償できない」 保険もおりず、主催者に痛手

2020年03月04日 10:11  弁護士ドットコム

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新型コロナウイルスの感染拡大を受け、全国で次々にイベントが中止・延期になっています。


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これを受けて、3月2日の参院予算委で、国民民主党の浜口誠議員が「イベントが中止になって、チケットの払い戻しなど実損が出ている。政府の要請に応えた民間企業に対し、補償はないのか」と安倍首相に質問しました。



安倍首相の答えは、「政府としては個別の損害を補償することはできない。資金繰りについては思い切った支援をしていきたい」というものでした。



イベント中止が進むきっかけになったのは、安倍首相が2月26日に行なった要請。全国的なスポーツ、文化イベントについて、今後2週間は中止や延期、規模縮小などの対応をしてほしいと求めていました。



●安倍首相「保険に入っている方もいる」→新型コロナは適用外の可能性

安倍首相は答弁で「損害について、保険に入っている方もおられる」とも話しました。



確かに、公演の中止や延期による損害を補償する「興行中止保険」(イベント中止保険)というものも存在します。しかし、新型コロナウイルスで中止した場合、保険がおりない可能性が指摘されています。



大手保険会社・損保ジャパン日本興亜の「興行中止保険」パンフレットを見ると、感染症予防法第6条に規定する感染症の発生または発生するおそれに起因する損害の場合、保険金の支払いができないと明記されています。



また、東京海上日動HPの「興行中止保険」に関するページでは、イベントの出演予定者以外の人が、感染症にかかること、かかっている疑いがあることまたはかかるおそれがある場合は、やはり保険金の支払いができないと書かれていました。



政府の自粛要請があっても、イベント主催者には保険金が入らないのでしょうか。今井俊裕弁護士に聞きました。



●中止や延期を決めるのは主催者

ーーイベント主催者は、為す術なしでしょうか



結論から言うと、中止や延期にともなって生じた損失について、保険金を支払ってもらうのは難しいのではないかと思います。今回の政府による要請はあくまで法令上に根拠のある強制ではなく、あくまで自粛を求めているに過ぎません。中止や延期を決めるのは主催者であるからです。



ーー不測の事態ですが、それでもダメなのでしょうか



イベントなどの興業が中止や延期になった場合に備えて、主催者はそれによって被った損失について保険金でまかなうために興業保険に入っていることが通常です。



しかし、多くの損害保険には、保険会社が保険金などを支払わなければならない責任から免れる「免責事由」が約款などで定められています。



興業保険の内容はオーダーメイドであることが多いようですが、感染症にかかるおそれ、などがある場合の興業中止や延期については、保険会社は免責されるという定めがあることが多いでしょう。



ーーなぜ、免責事由が定められているのでしょうか



大規模な事変が起これば、その保険金の支払額が莫大となってしまうからです。例えば、火災保険の場合で考えてみます。



利用者の失火や第三者による放火など、個々の原因に基づく損失ならば、普通は保険金が下りるでしょう。しかし、一度の機会で広範囲に及ぶ大規模な損失が生じる場合、保険金は下りないことが通常です。例えば、地震や津波、戦争などは、免責事由とされています。



興業保険でいえば、感染症のおそれによる中止や延期など、それこそ全国レベルに及ぶ原因による損失となると、通常の保険料では収支が合わなくなってしまいます。




【取材協力弁護士】
今井 俊裕(いまい・としひろ)弁護士
1999年弁護士登録。労働(使用者側)、会社法、不動産関連事件の取扱い多数。具体的かつ戦略的な方針提示がモットー。行政における、開発審査会の委員、感染症診査協議会の委員を歴任。
事務所名:今井法律事務所
事務所URL:http://www.imai-lawoffice.jp/index.html