2020年03月03日 11:41 弁護士ドットコム
これも新型コロナウイルスの余波なのか。飲食店やコンビニなどのトイレからトイレットペーパーが盗まれたという報告が相次いでいます。
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盗難防止のためなのか、ペーパーに鎖を巻きつけるなど自衛策をこうじる店もあるようです。
都内飲食店の店長も「個室トイレのペーパーホルダーからトイレットペーパーが盗まれた」と明かします。「トイレットペーパーが入手できないのに、これ以上盗まれてしまうと営業にも支障が出る。個室の中に防犯カメラを設置したい」と、怒り心頭です。
そこで「盗撮にならないように」注意した上で、個室内のペーパーホルダーだけが映るようにカメラを設置したいと考えているそうです。具体的には「お客さんが用を足す姿の撮影はしない」「トイレを使う人に向けてドアに『ペーパーホルダーを撮影・録画しています』と張り紙をして知らせる」という方法です。
また、誰が出入りしたのか把握するために、トイレのドアの外にもカメラを設置して顔が映るようにします。これなら「盗まれた後でも撮影時間から誰が盗んだのかわかる」と考えているとのこと。
盗難被害を防ぐための、トイレ使用者に告知をしたうえでの撮影。法的に問題はあるのでし ょうか? 小林正啓弁護士に聞きました。
未使用のトイレットペーパーを外して持ち去る行為は窃盗罪に該当しますし、防犯カメラを店内のどこに設置するかは、原則として施設管理権者であるオーナーの権限で決めることができます。
とはいえ、いかに防犯目的だとしても、侵害される客のプライバシーが重大である場合には、店舗内といえども、防犯カメラの設置が制限される場合がありえます。
店舗内のトイレの個室はその典型です。防犯目的とはいえ、トイレの個室に防犯カメラを設置することは、違法と考えます。
ペーパーホルダーのみが撮影・録画されるように設置すればよい、との意見もありえます が、2つの問題があります。
1つ目は、本当にペーパーホルダーのみを撮影し、利用者を一切撮影しないようなカメラの設置が可能か?という点です。2つ目は、仮にそのような設置方法が可能であるとしても、それで防犯効果があるのか?という点です。
なぜなら、利用者を一切撮影しないということは、トイレットペーパーが盗まれても、防犯カメラに写るのはせいぜい客の手だけであり、盗んだ人を特定できないということですから。
防犯カメラの設置が、プライバシーを多少侵害しても適法とされるためには、設置目的が防犯という正当性を有するだけではなく、カメラの設置と、防犯という設置目的の間に、合理的な因果関係があることが必要です。
カメラを設置しても、防犯という設置目的が達成できないのであれば、プライバシーを侵害してまで防犯カメラを設置する理由がありません。
店長の怒りはごもっともですが、トイレットペーパーの盗難を防止するのであれば、カメラ以外のセンサーをペーパーホルダー部分に設置して、トイレットペーパーがホルダーごと外された場合には警報が鳴るようにするなど、他の方法を検討されることをおすすめします。
【取材協力弁護士】
小林 正啓(こばやし・まさひろ)弁護士
1992年弁護士登録。ヒューマノイドロボットの安全性の問題と、ネットワークロボットや防犯カメラ・監視カメラとプライバシー権との調整問題に取り組む。
事務所名:花水木法律事務所
事務所URL:http://www.hanamizukilaw.jp/