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BAD HOP、横浜アリーナ無観客ライブが熱狂を生んだ理由とは? リスクを背負って踏み出せる野心

2020年03月02日 19:21  リアルサウンド

リアルサウンド

BAD HOP『Lift Off』

 3月1日にBAD HOPが横浜アリーナにて無観客ライブ『BAD HOP WORLD 2020』を開催、YouTubeにて生配信した。当初は通常のワンマンライブとして行われる予定であったが、新型コロナウイルスによる公演自粛要請が政府から発表されたことで急遽開催中止に。しかしBAD HOPは、「楽しみにしてくれていたファンやもうすでに宿泊先や交通手段を用意してくれていたファンもいる中、ただ中止を発表したくない 自分達がいくら借金を負ってでも、無観客でもいいからライブを届けたい」という思いから、1億円以上の負債を負うことを覚悟した上で、本番同様のステージセット、音響、内容で“無観客ライブ”を行うことを決意したという。


(関連:BAD HOP WORLD 2020 IN 横浜アリーナ 生配信ライブ


 また、本公演では圧倒的な熱量と緊迫感溢れるパフォーマンスを展開。SNS上ではBAD HOPに熱狂する声が多数みられた(本公演の模様はYouTubeのBAD HOPのオフィシャルチャンネルにて本日3月2日23時59分まで視聴可能)。こうしたBAD HOPの動きについて、ヒップホップに詳しいライター・斎井直史氏はどのように感じたのだろうか。同氏はこのように語る。


「無観客ライブをしてさらに負担を増やすという決断に驚く反面、BAD HOPらしいとも思います。桁が違いますが、過去にもZepp Tokyoでステージに二階建てを建てて赤字になったり、武道館公演もまた儲けがあまり望めないながらも開催していました。勝負時には危ない橋でも渡ろうとする、ワイルドさは彼らの魅力だと思うんです。今回の決断をT-Pablowが終盤のMCで「俺らが特殊で中止が正しい判断」と語っていましたが、そのように客観視できた上での挑戦だからこそ、一回り近く年上の自分でも彼らに憧れてしまいます。少し意味がズレますが、「音楽で稼ぐのではなく、お金は後から付いてくる」と語るYZERRのインタビューもこの時に思い出しましたね。また、「1億の負債」はシンプルなインパクトがあるので、単なる博打ではなく彼らの存在を広めるための広告にもなる。名画を買ったりする某社長を思い出しましたし、実際「BAD HOP知ってるんだ!?︎」と思うような著名人たちからもSNSで応援の声が挙がっていました。リスクを背負って踏み出せる野心は、起業家のマインドのそれなんでしょう。個人的には“リアリティ”が彼らの音楽を裏で支えていると思うのでCAMPFIREで買えるドキュメンタリーを楽しみにしています」


 また、同氏は本公演のステージやSNS上での視聴者のリアクションについても、以下のように述べる。


「中盤(1時間40分くらい)のYZERRのMCが良かったです。「18歳の時に横浜アリーナに来た時は、アーティストとして立つのは無理だと感じたけど、辿り着くことができました。しかし、負債を負って立つとは思っていませんでした」と語る彼を観る時点での僕は、自身を当然のようにファンとして観ていました。しかし「俺は本気でヒップホップが大好きで、この国で流行らせたいという情熱は誰にも負けないと思っています。本気でそう思って毎日生きています。みんなはどうですか? 」と、突如こちらを試してくるような質問に、背筋が伸びる思いになりました。彼らの音楽は彼らの覚悟の産物であり、聴く側にも劣らない覚悟を持つことを望んでいるのではないかと思ってしまいます。会場の熱気の中にいたら、また違って感じたでしょう。距離感があるが故の、観る・観られる立場が逆転したような緊張感もあるんですね。全体的にタイトなショウの最後をT-Pablowが熱っぽいMCで引き締めた後、誰かの気の抜けた「おねがいしまーす」の声で一気に笑いがおきた瞬間、BAD HOPのメンバーたちが川崎のお兄ちゃんたちになる瞬間も良かったです(笑)。


 しかし、今回のライブで気になったところもありました。時折、カメラが引きになる場面があり、リハーサルを見ているような気持ちになったことです。あと楽曲の間に長い沈黙が入るシーンもありました。客席の声が無い分、これもリハーサルを見ている気持ちになってしまいます。おそらく仕方のない事情があるのかと思うのですが、その2点は盛り上がった高揚感を冷ます瞬間でもありました。


 とはいえ、歓声が無くてもSNSの賑わいをチェックしながらライブ映像を観るのは、観客たちの脳内の声が聞こえるようで新鮮でした。様々な見方にリアルタイムで気がつけるのはSNSの良いところだと思います。引き合いに挙げるには異なる部分もありますが、L’Arc-en-Cielのファンたちが同じ横アリで中止された公演を、あたかも公演されたかのようにツイートする#エアMMXXも話題となりました。#エアMMXXでは、本人たちも乗ったことでSNS上が大いに盛り上がり、ライブは存在しないのにタイムライン上に会場が出来、生のライブ体験とはタイプの違う楽しみ方でした。ネット上で楽しむのと、現場で楽しむのでは、どちらが好きか決めるのは個人の自由だと思うので、今後もネットでのライブ中継が一般化するといいなと思います」


 同氏が述べていたように、BAD HOPの「勝負時には危ない橋でも渡ろうとする」覚悟は見る人に強い憧れを抱かせることだろう。また、彼らのリリックに重みを感じるのは、そんな彼らのリアリティを実際にリスナーも目の当たりにしているからなのかもしれない。いくつかの懸念点もあったにせよ、本公演はこれから活躍するであろう次世代のラッパーやアーティストに大きな影響を与えるライブであったことは間違いない。


 現在BAD HOPはクラウドファンディングおよび投げ銭を実施中。すでに3000万円以上の支援が集まっているようだ。いくつもの伝説を残してきたBAD HOP。彼らの今後の動向も随時追っていきたい。(北村奈都樹)