2020年02月29日 10:41 弁護士ドットコム
コロナウイルスの感染拡大を受け、在宅勤務を認める企業が増えている。東日本大震災などをきっかけに、従来からテレワーク、在宅勤務制度を導入してきた企業はともかく、今回の新型コロナによって、なし崩し的に実施した企業では「勤務時間の定義をするのがやっと」(メディア企業、40代社員)という声も聞かれる。
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そのため、急遽、導入を始めた企業では、必要経費の負担について不満を抱える社員も出始めている。
都内の通信系企業の女性(30代)は、一人暮らしの自宅で在宅勤務中だ。
「移動の時間もないので、集中して作業ができて良いです。元々テレワークは社をあげて実施していたこともあり、問題ありません。ただ、いつまで続くのかわかりませんが、期間が長ければ光熱費の負担が痛いです」と話す。
女性が在宅勤務を始めた当初は暖かい日が続いたが、この数日は東京の気温も10度前後。陽の当たらない部屋のため、日中でも照明、暖房が必要だ。数千円程度の出費増が見込まれる。
都内のIT系企業に勤務する男性(30代)は、在宅勤務が認められても「出社しなければ、仕事にならない」と話す。男性は小学生と幼稚園に通う2児がいる。
「早ければ昼過ぎには帰ってきてしまうし、幼稚園や小学校の休校も決まりそうで、これではいつもの休日と家庭の中の状況は変わりません。子どもたちには、いくら『仕事中』といっても、何かと中断されるため、仕事になりません。妻は専業主婦ですが、この状況下で子どもを出歩かせて感染リスクを高めるわけにもいかない。
かといって自宅近くのカフェもセキュリティ面からいっても無理。結局、通勤して会社で作業するのが一番なのですが、会社が在宅勤務制度のスタートとともに交通費の支給を止めたため、自腹です」
大企業が動き出したこともあり、制度が整わない状況下でバタバタと導入を始めた企業は多い。
労働問題について詳しい甲斐田沙織弁護士は「裁判で白黒つけるかたちではなく、労使交渉が有効だ。厚労省のガイドライン(「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」)を踏まえ、今回の労使ともに準備期間が少ないという特殊性を前提に解決を考える必要がある」と話す。
「在宅勤務の場合、私用と業務の割合を明確に出すのも難しい。ただ、交通費や会社の光熱費の削減により、企業にとってはメリットもあったはず。従業員の負担の上に成り立つのではなく、労使でフェアな解決をとって欲しい。
今回、在宅勤務は組合のある大企業が率先して実践している。組合が統計をとって、従業員がどれだけの負担をしているのか数字で提示するなどして、企業と交渉してみることが有効だ」(甲斐田弁護士)
大企業の対応を注視する中小企業は多いだろう。今回の新型コロナ騒動を契機に、労働組合の役割への期待も高まっている。
【参考資料】厚労省のガイドライン(「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」)
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/shigoto/guideline.html