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cero、最新作『Fdf』で示した2020年のモードとは 1stアルバム『WORLD RECORD』から現在に至るまでの音楽変遷を追う

2020年02月29日 06:01  リアルサウンド

リアルサウンド

cero『Fdf』

 ceroというバンドは、アフリカ音楽への積極的なアプローチを行い、同時にリズムを強く意識してきた。


(関連:ceroとフィッシュマンズの現代にも繋がる“折衷性”とは? 『闘魂』での共演を機に考察


 たとえば2011年の1stアルバム『WORLD RECORD』に収録された「outdoors」の中盤からは、突然ブラジルのサンバが挿入され、それはブラジル北東部のフォホーをも連想させる。とはいえ、今『WORLD RECORD』を聴いてみると、この時代はまだまだアイデア重視。「ワールドレコード」では、The Beatlesの「Strawberry Fields Forever」のフレーズの上でラップし、「入曽」は、はっぴいえんどのようだ。随所でスティールパンが響いているのもこの作品の特徴である。


 大きな転換点となったのは、2012年の『My Lost City』だ。タイトルナンバーの「マイ・ロスト・シティー」ではアフロとジャズが交錯しており、その後のceroならではのアフロサウンドへの萌芽がここにはある。「大洪水時代」の終盤ではフリージャズへと突入。「Contemporary Tokyo Cruise」の昂揚感も忘れがたい。かと思うと、アルバムの最後を飾る「わたしのすがた」はヒップホップだ。


 2013年10月27日、私は京都で開催された『ボロフェスタ2013』でceroのライブを見たのだが、演奏のフィジカルさに気圧されたほどだった。


 そんなceroがさらに歩を進めた傑作が2015年の『Obscure Ride』だった。幕開けの「C.E.R.O」からして、リズムを重視したバンドアンサンブルを展開し、それは続く「Yellow Magus(Obscure)」でも同様だ。本作でもっとも衝撃的だったのは、ナイジェリアのアフロビートを展開する「Elephant Ghost」だが、そこには同時代のヒップホップのリズムへの視点も明確にあった。「Wayang Park Banquet」のリズムもまたアフロだ。また、アルバム全体としてはソウルミュージック色も濃い。


 2016年には、ceroは『SMAP×SMAP』(フジテレビ系)に出演することになるが、それはceroが細かい理屈を抜きにしても心地良いポピュラーミュージックを生みだすことに成功した結果だった。


 それでもceroは変化を止めない。2018年の『POLY LIFE MULTI SOUL』では、アフロビートの「魚の骨 鳥の羽根」のような楽曲もあるが、全体としてはジャズへの接近を強めていた。「夜になると鮭は」のようなアブストラクトなトラックがあるのも特徴的だ。この時期のceroは、アート・リンゼイやジェームス・ブラッド・ウルマーなどからの影響を語っている。


 そして、2020年2月5日にリリースされたシングルが『Fdf』だ。面食らった。これまで以上にJ-POPの枠組みから大きく外れているからだ。前知識がなかったら、これがどこの国の音楽かを正確に判断するのは難しいだろう。アフロなリズム、管楽器の響き、メロウなメロディ、そして女性コーラスなどから構成され、全体的にはミニマルなフレーズの反復が耳に残る。ceroが2020年のモードとして提示してきたのは、そんな音楽だった。


 Spotifyでは、ceroの荒内佑が選曲したプレイリスト「Punch drunk flight」が公開されており、そこにceroの「Fdf」も入っている。2曲が収録されているアーティストは、スフィアン・スティーヴンスとフランク・ザッパ。ともにオーケストラ編成の楽曲も収録されているのは興味深い。「Fdf」で木管楽器が使われていることとも共通している。また、「Fdf」の冒頭の電子音は、フランク・ザッパの「Intro」の途中で鳴っている音に似ている。


 プレイリストには、冨田勲の「月の光」やDOOPEESの「LOVE SONGS (LOVE IS A MANY-RAZOR BLADED THING) 」も収録されており、特に気になったのは後者だ。DOOPEESは、ヤン富田がプロデュースして1995年にデビューしたユニットで、実験性とポップさをあわせもっていた。「LOVE」と歌われるフレーズを多数の楽曲からサンプリングしたのが「LOVE SONGS (LOVE IS A MANY-RAZOR BLADED THING) 」で、それに続いてプレイリストで流れだすのはceroの「Fdf」なのだが、続けて聴くとまったく違和感がない。それは、ceroがよりエクスペリメンタルな方向へ歩みだしたかのようなのだ。


 なお、プレイリストの最後に収録されているトラックは12分以上ある。アーティスト名はNasa Voyager Golden Record、タイトルは「The Sounds of Earth」。要は、1977年に打ちあげられたボイジャー探査機に載せられていたレコードに収録されていた自然音である。


 ceroに内在する音楽的な飛距離は相当なもののはずだ。今後、彼らがどこまでの冒険に踏みだすのかを楽しみにしたい。次のアルバムは、これまで以上にとんでもないことになる予感がするのだ。(宗像明将)