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Mega Shinnosuke、yonawo、クボタカイ、Rin音……福岡発の注目株 メロウな音楽がトレンドに

2020年02月29日 06:01  リアルサウンド

リアルサウンド

Mega Shinnosuke『東京熱帯雨林気候』

 ここ数年のサブスクリションサービスやSNSの発達により、ローカルで生まれた音楽が全国に届く機会は格段に増えた。筆者の在住する福岡県は、個性的なライブハウスや街中でのフリーイベントなど、以前から音楽家を育む環境は豊かであったがここ2年ほど、急速に全国区で話題になるアーティストが増えた印象だ。本稿ではそんな福岡発の注目株を紹介したい。


(関連:Mega Shinnosukeに聞く、“何でも聴ける時代”のセンスとスタイルの磨き方


■Mega Shinnosuke
 2017年秋の高校2年生時から楽曲制作を開始し、2019年にはすでに2枚のEPを全国流通させる驚異のスピードで注目を浴びているのがMega Shinnosukeだ。福岡でのDTMアーティストの台頭は、彼の活躍が起点と言っても過言ではないだろう。2020年も早速1月24日に新曲「Japan」をリリースするなど、活動ペースは緩まない。


 名を広めるきっかけとなった「O.W.A.」を始めとして、彼の楽曲には軽快なダンスを誘うファンクネスの要素を持つものが多い。しかし、それは彼の魅力の一端でしかない。これまでにリリースされている楽曲だけでもパンク、シューゲイザー、ギターロックなどを1曲ごとにかわるがわる取り入れながら、グッドメロディのポップスに昇華している。サブスクリプションサービスを用いてあらゆる音楽にアクセスし、現在の流行にも過去の名作にもフラットに影響を受けたからこそ成せる、底知れないアウトプットこそ彼の強みだ。


 歌詞も、時に同世代に発破をかける挑発的な言葉を放ち、時に内省的でロマンチックな恋の歌を綴るなどその手数は多い。一方、どの楽曲でも自身の感情を嘘なく描く点は徹底されており、彼の音楽の核を担っているように聴こえる。また、歌声は良い意味で力の抜けたソフトさがあり、どんなサウンドでもしっかりメロディを聴かせるのに適した普遍性がある。


 近いジャンルを揃えてリスナーの好みにチューニングを合わせることはせず、自分が良いと思える音楽を追求する姿勢を貫きながら、これほど支持を集める状況はとても頼もしい。個性的なファッションや自らも積極的に参加するアートワークなど、彼を中心として新たなカルチャーが芽生えていく予兆もある。


■yonawo
 荒谷翔大(Vo/Key)、田中慧(Ba)、斉藤雄哉(Gt)、野元喬文(Dr)から成る2018年結成の4ピース・yonawo。結成1年でメジャーデビューし、今年の要注目バンドとして名を馳せつつある。


 心地よいリズムとまろやかなギター、鍵盤が溶け合う穏やかな楽曲たちは聴いているだけで忙しない日常からエスケープできる気がしてくる。日本語と英語をナチュラルに行き来しながら、色っぽく歌いあげる荒谷の歌声は甘美さを湛えており、とても優雅だ。


 端正なサウンドは気品があるが、趣味の合う友人同士が集まったバンドゆえ、気軽でオープンなムードも漂う。メジャーデビュー曲「ミルクチョコ」では終盤に賑やかな合唱を取り入れ、続く「Mademoiselle」ではラフな音合わせまでパッケージされており、遊び心も満載だ。


 『MUSIC CITY TENJIN』や『Sunset Live』といった福岡のイベントで鑑賞した際も、初見の観客たちをするりと自分たちのペースに引き込むライブを行なっており、その楽曲がリーチできる層の広さを思い知った。2020年3月からはアメリカで開催される『SXSW』への参加も決定しており、その音楽をより大きく響かせてくれるはずだ。


■クボタカイ
 若手ラッパーの活躍も目覚ましい昨今の福岡。1999年生まれのクボタカイは2017年よりMCバトルでキャリアをスタートし、フリースタイルと楽曲制作を並行してきた。歌モノとしても成立するメロディアスなフロウ、繊細な心情を捉えたリリックなど楽曲の随所に瑞々しい感性が光っている。


 2月5日にリリースした「パジャマ記念日」では同世代の女性シンガー・kojikojiをフィーチャーし、そのメロウネスを際立たせている。生活感の中に詩情を通わせた描写とクールなトラックが織り成す、手触りのリアルなラブソングだ。彼の飾らない言葉が綴られたナンバーの数々は、等身大の心境の代弁者として多くの若者に支持され得るだろう。


■Rin音
 1998年生まれのRin音もまた若手ラッパーの注目株だ。2019年夏に配信されたデビューEP『film drip』が、去る1月22日にCDとしてリリースされたばかり。チルアウトにはうってつけの温もりに浸れる作品だ。


 ピアノの音色が印象的な「820」や「甘ったるいタルト」、ギターサウンドを強調した「Summer Film’s」など、彩り豊かなトラックを滑らかに乗りこなした楽曲たち。軽やかな声質もよく馴染み、夜の世界をゆったり泳いでいく気分になれる。2月19日リリースの「snow jam」もそんな心地を引き継ぎながら、この季節にぴったりの切なさを薫らせた1曲だ。


 福岡ではうっとりとした聴き心地のメロウな音楽が1つのトレンドだ。歌が主軸のDeep Sea Diving Club、nape’s、bearstapeといったバンド、ヒップホップ志向のMADE IN HEPBURN、New Oil Deals、週末CITY PLAY BOYZといったバンドやクルーなど、形態を問わずムーブメントは起こっている。この潮流がどのように成熟していくのか、これからも福岡の地で見届けていきたい。(月の人)