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東海オンエアの“聖地巡礼”から考える、地域密着YouTuberと自治体の「理想的な関係性」

2020年02月27日 07:02  リアルサウンド

リアルサウンド

撮影=藤谷千明

 愛知県岡崎市に拠点を置く、6人組YouTuber・東海オンエア。いまやチャンネル登録者数は500万人に迫る勢い(※サブチャンネルの登録者は約240万人)で、株式会社BitStarの調査による「インフルエンサーパワーランキング2019」では1位を獲得。本日放送のバラエティ番組『ダウンタウンDX』(日本テレビ系列)に、しばゆー、てつや、りょうの3人が出演するなど、既存のYouTuberファン以外の間でも注目が高まっているようだ。


(参考:東海オンエア、政府広報提供の動画を公開 “過激派YouTuber”が公的機関にも重用される理由は?


 押しも押されもしない人気者の彼らだが、メンバー6人中5人は現在も愛知県岡崎市在住(※結婚により、しばゆーのみ関東在住とのこと)である。HIKAKIN・SEIKINは新潟県出身、はじめしゃちょーは静岡県在住、ヒカルはもともと兵庫県で動画活動をスタートするなど、ネットで発信するYouTuberは地理に依存しないこともあり、地方出身者・在住者が多いとされる(人気が高まると上京するのはどんなジャンルでも同じだが)。


 そのなかでも東海オンエアは、ズバ抜けて“地域密着型”であり、彼らの動画に出てくるラーメン屋や公園は“聖地”とされ、多くのファンが足を運んでいる。


 筆者も2度ほど岡崎市に“聖地巡礼”に行ったのだが、そこでロードサイドの家系ラーメン店『まんぷくや』に長蛇の列、しかも大半は若い女性という光景を目の当たりにし、彼らの人気の凄さを実感したのであった。


 そんな活動が岡崎市からも認められ、2016年8月から「岡崎観光伝道師」に任命されているのだ。著名人が地元の観光PR大使に任命されるのは、決して珍しいことではない。しかし、彼らは現在もそこに住んで、動画を撮影しているわけで、こんなに臨場感のある“聖地”は他にあるだろうか。


 そして、岡崎市の施策にも注目したい。動画撮影のロケに協力することはもちろんのこと、公用車を東海オンエア柄の“痛車”にしたり、メンバーの等身大パネルを作成し岡崎市の観光名所に設置したりと、YouTuberを“観光資源”として的確に利用しており、2018年には東海オンエアの動画にもよく出てくるラーメン店『キブサチ』と制作した「東海八丁台湾ラーメン」が、「全国ふるさと甲子園」グランプリを受賞するなど、様々な形で成果をあげている。


 ちなみに、岡崎市のホームページで“歳入”を確認したところ、この数年で右肩あがりとなっている。もちろん、東海オンエアの影響で観光客が増えた影響なのか、彼らの納める“税”なのか、それともまったく関係ない理由なのかはわかりませんけどね……。なお、岡崎市の「ふるさと納税」には、東海オンエアのグッズも返礼品として採用されている。これは納税せざるをえない。


 それだけではない。彼らの等身大パネルは、もはや観光名所となっているが、お披露目翌日にてつやのパネルが盗難に遭ってしまったのだ。(現在設置させているのは2代目の「弟」)しかし、それを逆手に取り、街中にてつや捜索ポスターが貼られ、またそれを見てファンが喜ぶという、転んでもタダでは起きない強さを感じる。また、いたずらにより首の折れた等身大パネルに「デュラハン」(名前~~~!)と名付け再利用したりと、いい意味でお役所仕事感がない……というか、「ここまでふざけて大丈夫なのか?」と、こっちが心配してしまうレベルなのだ。それも、単なる悪ふざけではなく、東海オンエアの良さを生かした観光PRとなることを理解してやっていることが伺える。


 そもそも東海オンエアが「岡崎観光伝道師」に任命されたのは、先述したとおり2016年のこと。当時は今よりもYouTuberに対して、世間の風当たりが強かったことは言うまでもない。そんな中、彼らを「観光伝道師」に任命したのは英断といえるだろう。そして、ここまで地域とYouTuberが協力体制を作ることができたのは、単に「有名YouTuberだから」ではない、彼らだからこその企画を作り、それを実現させた担当者の努力あってのことなのは間違いない。


 品行方正ではない下品な悪ノリも魅力である東海オンエアが、4年ものあいだ観光伝道師を続けられているのも、岡崎市の理解あってこそ。一昨年に任命式のてつやの態度が原因で軽く炎上するなど、小規模な物議を醸し出しているものの、これまで特に問題なく良好な関係は続いている。


 さらに、りょうは岡崎市に来るファンのためにカフェを作ると個人チャンネルにて宣言。ますます“聖地巡礼”は盛り上がりそうだ。


 地方創生が叫ばれる昨今、岡崎市と東海オンエアの取り組みには、他にも活かせるいくつものヒントがあるのはないだろうか。


(藤谷千明)