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外国人児童の「日本語教育」はどうなっているの? 横浜市在住のフィリピン人親子に聞く

2020年02月24日 10:32  弁護士ドットコム

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全国の学校で、日本語の特別な教育が必要な「外国につながる児童」が増えている。文部科学省の公開した「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査(2018年度)」によると、全国の公立学校(小、中、高等学校、特別支援学校など)に在籍する外国人児童ら、日本語指導が必要な児童生徒数は5万759人。その数は10年間で1.5倍と急増している。


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「日本語指導が必要な児童生徒」は外国籍だけに限らない。近年は日本国籍者であっても、国際結婚の家庭の子供や、海外から帰国した子供などに対し、日本語指導をおこなうケースもあるという。



自治体や学校現場において、外国人児童の支援体制を整えるため、文科省は日本語指導を要する児童に対応した教員数の配置や、指導者の育成研修、日本語の初期指導から教科指導につながる段階のカリキュラム開発といった対策を推進している。



しかし、外国人児童の就学・教育の対応については、それぞれの行政に委ねられており、自治体によってバラつきがある。全国的にも外国人児童生徒数の多い横浜市のケースを紹介したい。(ライター・伊藤結)



●フィリピンから来日した親子

横浜市は、外国人の人口が10万人を超える。市立の小中学校に、外国籍など外国につながる児童生徒が1万103人(2019年5月)在籍しており、その数はここ10年以上増加。そのうち日本語指導が必要な児童生徒は2705人在籍する。



横浜市の学校では国籍に関わらず、「日本語指導が必要なすべての児童生徒」に対応すべく、さまざまな支援策をおこなっているという。



たとえば、日本語指導を必要とする児童が、1校あたり5人以上いる場合、教員が加配されて、校内に「国際教室」が設置される。そのほか、母語による初期適応学習支援、保護者に対して入学時の説明会や、個人面談などの場に通訳ボランティアの派遣をおこなう。



具体的にどのようなサポートを受けているのか。



市立小学校に通うソフィア・マニュエルさん(小学5年生)は2019年4月、フィリピンから来日した。大手建設会社でエンジニアとして働くソフィアさんの母、アナ・マニュエルさんは、その1年前の2018年から来日している。



シングルマザーのアナさんは、2010年~2013年の間も母国にソフィアさんを残し、日本で働いていたが、いったん帰国したという経緯がある。念願叶い、昨年からようやく母子2人で日本での暮らしをスタートさせることができた。今後も、日本での生活を続けたいという。



フィリピンでは、公用語として英語が使われており、親子の普段の会話も英語だ。特別な準備をせずに来日したソフィアさんだったが、来日から10カ月ほど経つ現在、簡単な日本語の質問を理解し、返答できるくらい上達している。



一方、母親のアナさんの場合は、勤務先でも英語で会話するため、日本語はほとんどできない。



●通訳やサイトなどのサポートが充実している

日本の学校で使うものは、外国人にとって馴染みのない場合が多い。たとえば、「上履き」「防災頭巾」など、初めて見聞きするのもあるだろう。日本語が読めず・話せずの状態で、公立の小学校に入学するのは、さぞかし準備が大変だったのではないかと想像した。



しかし、アナさんいわく、書類の記載や、学校で必要なものを備えるなど、入学準備についてはさまざまなサポートを利用したため、スムーズにおこなえたそうだ。



「入学前の学校説明会には、横浜市が通訳の人を派遣してくれました。その通訳の人はすべてボランティアで、2時間まで来てくれます。学校で必要なものについては、1つのウェブサイトで確認できます。提出する書類などは日本語で書かれているんですが、ウェブサイト上では英語訳を見ることもできるんですよ」(アナさん)



入学時の説明会や個人面談、家庭訪問といった場面では、学校側が依頼したボランティアの通訳者が派遣される。通訳者は保護者懇談会でも依頼することができるため、コミュニケーションの面で非常に助かっているという。



また、横浜市では、日本の学校に通う保護者に向けて「ようこそ横浜の学校へ」という資料を配布している。市教育委員会のウェブサイト上で誰でも閲覧でき、言語は「やさしい日本語」をはじめ、7カ国語から選択することができる。



「ようこそ横浜の学校へ」には、学校に入る手続きから、運動会や文化祭といった行事についての説明、何かあった時に相談できる機関の連絡先、簡単な学校用語やよく使う日常会話など、学校生活で必要となる事柄がくわしく記載されている。



学校で必要な物については、写真入りのページで紹介されているので、何を用意すればいいのか、ひと目でわかるようになっている。アナさんも、この資料があったため、スムーズに入学の準備が進められたという。





●「国際交流ラウンジ」で日本語を学んでいる

ソフィアさんに入学当初の学校生活について聞いてみると、次のように語っていた。



「学校の授業でも、外国人生徒の担当をしている先生が、通訳のサポートをしてくれるのと、日本語を学ぶサポートもしてくれます。最初の1カ月間は、授業中にその先生がいてくれて、すべての授業の通訳をしてくれました。



2カ月目からは、1日の間に45分間だけクラスを離れて、別室でその先生が日本語の授業をしてくれています。たぶん、卒業するまでずっとそのサポートは変わらないと思います」(ソフィアさん)



ソフィアさんの学校は、ほかにも数名の外国人児童がいるが、「国際教室」を設置する人数には達していない。代りに、日本語指導の教員が1名配置されている。その教員がクラス担任から保護者に重要な連絡事項がある際には、間に立ってコミュニケーションの橋渡しをおこなうという。



ソフィアさんは、学校の入学と同じタイミングで、区の国際交流ラウンジが運営する「日本語教室」に入り、週1回通っている。日本語教室では日常会話や、ひらがな・カタカナ・初歩的な漢字といった文字指導などを学ぶ。



国際教室のない小学校に通う児童の場合、55回まで授業を受けることができる(国際教室のある学校の生徒は25回まで)。ソフィアさんはここに通うことで、同じように日本語を学ぶ他校の友だちもできたという。



●当初は「戸惑い」も

これまで、日本の学校生活で大きな困りごとを感じたことはないと話す親子だが、もちろん来日当初は、学校生活で戸惑いもあったという。



「フィリピンでは、かならず親が子どもを学校まで送っていきます。日本の小学校では、子どもたちが自分で歩いて学校に行くことに驚きました。娘の学校では小さい子たちがまとまって学校に行っています。最初のころは、私が学校に送っていってたけど、近所に同じ学校の6年生の女の子2人が一緒に行っているのを見て、娘も一緒に行かせてもらえるようにお願いしました」(アナさん)



「フィリピンだと、体育の授業はダンスとかだけど、日本は跳び箱とか器具を使うことにびっくりしました。私は得意だし、好きだからよかったけど。できない子は戸惑うだろうし、つらいかもしれません。あと、ランチがフィリピンは自分でお弁当を持っていくか食堂で食べるのだけど、日本は給食を自分たちで配膳することや、学校で生徒たちが掃除をしているのもびっくりしました」(ソフィアさん)



登校班や給食など、日本の独特な学校の文化に驚きつつも、今では慣れることができたという2人。自治体や学校の支援だけでなく、アナさんの周りに日本の事情についてくわしく、相談できる同僚や友人がいることや、ソフィアさんの勉強熱心で明るい性格なども、学校生活に馴染む上でプラスに働いたのだろう。





しかし、なかには、周りに相談できる知り合いもなく、日本の学校への入学を不安に感じている保護者や児童もいるという。



こうした状況から、市教育委員会は2017年、中区にある横浜吉田中学校第二校舎に日本語支援拠点施設「ひまわり」を開設した。



保護者や児童に日本の学校のルールや慣習について多言語で説明する「学校ガイダンス」や、集中的な初期日本語指導、児童が学校生活を体験できる「プレクラス」、新小学1年生を対象とした就学前教室「さくら教室」などの支援をおこなっている。



「学校ガイダンス」では、学校の準備物、学校生活や学校行事、「入学式」での服装マナーといった慣習などを説明してくれるほか、編入手続き書類への記入支援もするという。また、ガイダンスに参加した児童の日本語レベルや母国での学習状況の確認をおこなうことで、入学先と情報を共有し、円滑な受け入れをはかる狙いもある。



「プレクラス」は市内の学校に入学直後の児童が、出席扱いで最初の1カ月、週3日通うことができるクラスだ。しかし、こうした入学直後の日本語支援や学校生活支援をする拠点は、市内に「ひまわり」の1カ所のみである。小学生の場合は保護者の送迎が必須なため、通えない児童もいる。



●課題も少なくない

学校や市教委、国際交流ラウンジなどが連携し、外国人児童の教育支援をおこなう横浜市だが、市教委の事務局「学校教育企画部小中学校企画課」の担当者によると、取り組まなければならない課題は少なくないという。



・1校あたりに在籍する児童生徒の集住化・散在化



同担当者によると、現在、市立小・中・義務教育学校488カ所のうち、142校に「国際教室」を設置(2019年)。



学校によって、児童生徒の数に偏りがあり、集住している学校では、より人数が増える一方、初めて外国人の児童生徒を受け入れるという学校も出てきており、それぞれに対応が求められている。



各校への教員の加配人数は、当該児童生徒の数によって決まるため、実質的な児童生徒一人ひとりの日本語能力や学力のレベルは加味されていない。児童生徒によって発達の段階や、母国での学習状況が大きく異なるため、初期の日本語指導だけでなく、継続的な学習面や生活面での指導、支援が必要な場合もある。



一概に、在籍数だけで加配を決めるシステムでは、現場のニーズに追いついていないケースもあるだろう。



・担当する指導者について



同市では国籍に関わらず「日本語指導が必要な児童生徒」はすべて支援の対象で、1校あたり5人いれば国際教室を設置する。また、国際教室のない学校でも、日本語教室での授業回数を多くするなど、できる限り平等に教育を受けられるように考慮している。これらは市独自の施策で、日本語指導の教員加配や母語ボランティアの派遣など、さまざまな取り組みをおこなっている。



しかし、なかには、国際教室のない学校で、クラス担任や教科授業の担当者が、通常の授業の中で、当該児童生徒を個別に指導しなければならないなど、負担が増大する場合もあるという。



また、加配される日本語指導等の担当教員は、かならずしも専門的な知見を持っているわけではなく、研修を受けていない状況で担当させられる場合も少なくない。



指導者の経験不足といった問題に市教委では、日本語指導が必要な児童生徒への対応策や指導法については、専門の養成プログラムや研修をおこなうほか、初任者研修などでも、学べる場を作るようにしているという。



●地域ぐるみで柔軟に連携すること

日本で働く外国人や、国際結婚の増加などで、外国籍に限らず日本語指導を必要とする児童生徒数は今後も増え、学校はますます多様な背景を持った子どもたちが学ぶ場になっていく。



学校現場だけでなく、教育委員会や国際交流協会、NPO、民間企業など地域ぐるみで柔軟に連携することが大切だ。



また、これまでは、外国につながる子どもたちが「日本で生活するために必要な能力を確保する」という視点で「初期の日本語指導」が教育現場で最重視されてきたが、日本語の会話ができても、授業や教科書の内容までしっかり理解できているとは限らない。



個人の習熟度に合わせたきめ細かな支援や、児童生徒が自信を失わずに学習へのモチベーションを保てるような方法が求められている。彼らのルーツやアイデンティティを尊重した、多様性ある「学び」についても検討する必要があるだろう。