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薬剤師は単なる「袋詰め職人」か 居酒屋と同じ顧客満足が求められる現実と「真の役割」

2020年02月23日 09:41  弁護士ドットコム

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薬剤師に関して、ネット上では、「棚から薬取り出して袋に詰めるだけの簡単なお仕事」「何か質問しても『医師に聞いて下さい』と言われる」「なぜ、病院で説明した話を、また薬局でもしないといけないのか」など、その役割を疑問視する声が見受けられます。現職の勤務薬剤師として、薬剤師の実態を解説します。(ライター・見習い師)


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●「それは医師に聞いてください」としか回答しない薬剤師も

薬剤師の業務で、棚から薬を取り出して袋に詰める作業もあるのは事実ですが、業務全体の分量から見ると、3~7割程度です。その他にも、下記のような業務があります。



・1000~3000種類ほどある薬の在庫管理
・患者さんとの話の要点を記録する「薬歴」
・患者さんの自宅に薬を届ける「在宅医療」
・医師、看護師、ケアマネージャーとの情報共有



その他、管理薬剤師であれば、薬局管理・マネジメント業務も加わります。長時間労働で疲弊している薬剤師は少なくないです。



何を聞かれても、「それは医師に聞いてください」、「次回、医師にお伝えください」としか回答しない薬剤師が存在するのは確かです。実感として、薬局では、6~8割の薬剤師はそのような対応をしています。ですから、多くの患者さんを残念な気分にさせてしまっているのでしょう。



●なぜ患者は医師に説明したことを薬剤師にも説明しないといけないのか

病院で医師に説明したことを、再度薬剤師から聞かれた経験のある人も多いでしょうが、それにはいくつかの理由があります。



薬剤師法25条の2にて、薬剤師が調剤する時には、患者さんから必要な情報を聴取し、適切な薬学的指導をすることが義務付けられています。ですから、薬剤師は、患者さんから必要な情報を聴取しないといけないのです。ただし、患者さんには、薬剤師に聞かれたことを答えなければいけない義務はないので、難しいところです。



薬によっては、複数の疾患に使われる薬がありますが、処方せんには、病名は書いてありません。患者さんから話を聞かないと、適切な指導ができないことがあります。



●現場では「速く患者さんに渡して枚数をこなせ」と急かされる

薬剤師になるためには、薬剤師国家試験に合格しなければならなりません。薬剤師国家試験の受験資格は、薬学部で6年勉強して卒業することです。国家試験合格率は、低い大学で3割、高い大学で9割です。薬学部を目指す受験生は、志望大学の国家試験合格率を調べてから入学するようにしてください。薬学部は、入学難易度も比較的高いですが、卒業することも大変です。



毎年多くの学生が留年します。筆者の通っていた大学では、毎年5~10%くらい留年していました。勉強しなければいけないことが多いのです。



しかし、実際の薬剤師の業務において、薬学知識と連動していません。



薬局では、「とにかく速く棚から集めろ」、「速く患者さんに渡して枚数をこなせ」と言われます。医師と薬剤師の伝統的な力関係もあり、医師からのクレームが来る可能性のある「余計な事」は言うな、と言われます。筆者は、患者さんの目の前で先輩から怒られたことがあります。





●CS研修で「アパレル店員や居酒屋の顧客満足と変わらない」と言われ…

また、筆者の勤務している会社では、CS(顧客満足)研修にも力を入れておりますが、CSと薬学知識は全く別の研修にて学びます。そのため、薬学知識を活かしてCS向上させる方法は学びません。



CS研修の講師からは、「薬剤師のCSも、アパレル店員や居酒屋のCSも変わらない」と言われました。大切なのは、笑顔と、顧客の期待に応えること。顧客が速く薬をもらうことを望むなら、速く渡すようにと学びます。



その結果、速く集めて速く渡し、ニコニコしているだけの薬剤師が大量生産されます。とにかく速く渡すことばかり考え、別に急いでいなさそうな患者さんに対しても、「同じ薬なので、薬が間違っていないかの確認だけしてください」と言い、何も指導しない新人薬剤師もいます。そのような薬剤師に対しては、患者さんも相談しづらいでしょう。



●一緒に解決方法を考えてくれる薬剤師を探そう

ただし、きちんとやっている薬剤師もいます。



子どもの粉薬の処方量が適切か確認しています。筆者は、実際に、10倍量処方や、逆に1/100量処方を見たことがあり、医師に問い合わせて薬の量を変えてもらいました。



高齢者で、とにかく薬の量の多い方に対しては、続けた方が良い薬、やめても良い薬、可能であればやめた方が良い薬を考え、医師へ中止提案の手紙を出すことがあります。



患者さんは、飲んだ瞬間に起きるものだけが副作用だと思っていることが多いようです。何十年も飲んでいる薬で副作用が起きるわけないと思っていることがあります。しかし、薬は何十年も変わらなくても、患者さんは何十年もすれば変わります。



今の患者さんに、今の薬が処方されているのが適切なのか確認し、医師、ケアマネージャーなど他の職種と情報共有するのが、これからの薬剤師の仕事です。



これからは、単に病院のそばにあるだけでなく、きちんとした薬局を選ぶようにしましょう。質問に対し、単に「医師に聞いて」ではなく、きちんと回答してくれる、他の薬局でもらった薬との飲み合わせを教えてくれる、不安な時は一緒に解決方法を考えてくれるような薬剤師を探してみてください。



東京都なら、「t-薬局いんふぉ」(東京都薬局機能情報提供システム)にて、薬局が在宅医療を行っているか、外国語に対応しているか、どのくらい薬の在庫があるか、年に何枚の処方せんを受け付けたか、など確認できます。