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生活保護の返還めぐり「ウソをつかれた」「なかなか渡してもらえない」受給女性が杉並区を提訴

2020年02月21日 15:12  弁護士ドットコム

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福祉事務所の担当者からウソの説明をされたり、生活保護費の返還を強要されたりして、精神的苦痛を受けたとして、東京都杉並区の女性(68)が2月21日、区を相手取り、慰謝料100万円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした。


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原告の女性は生活保護を不正受給したとして、杉並区から受給済みの保護費の返還請求をされている。その不服申し立てを求めて審査請求したが、結果が出る前に担当者から「棄却された」とウソの説明を受けて返還するとの書面にサイン。以後は毎月、保護費をもらいに行くと、同じサインを求められ、支給を渋られるようになったという。



●生活保護費をめぐる杉並区との争いの経緯

女性は精神疾患で働けなくなったことなどを原因として、2015年11月27日から生活保護を受給している。2016年10月、所有マンションを売却し、約366万円が預金口座に振り込まれた。



同年11月2日、女性は住宅ローン返済を支援してくれていた親族らに、口座から計約363万円を送金した。2017年11月21日、杉並区は保護費約78万を不正受給として徴収を決定した。



女性は2017年2月16日、これを不服とし、東京都に対して審査請求し、徴収決定処分の取り消しを求めた。2019年2月5日、東京都行政不服審査会に諮問したという通知が女性に届き、添付の審理員意見書に「本件審査請求については、棄却すべきである」との意見があった。



2019年8月19日、審査請求を棄却するとの裁決がなされた。同年2月7日、女性はこれを不服として、処分の取り消しを求めて東京地裁に提訴している。



●1時間以上「サインするまで保護費を渡さない」と繰り返す担当者

上記のような経緯のさなかに、女性は福祉事務所の担当者から虚偽の説明を受け、保護費の返還を強要されたと主張している。



訴状によると、福祉事務所の担当ケースワーカーのA氏は、当時審査請求の審査中であり、裁決がなされていなかったにもかかわらず、女性に対して2019年4月26日および同年5月8日、「本件審査請求が棄却された」と嘘をつき、生活保護費返還金債務承認及び納付誓約書にサインするように迫ったとされる。



また、A氏は、裁決後の2019年9月5日、保護費の受け取りのため、福祉事務所を訪れた女性に対し、保護費充当申立書(その日に受け取る保護費から一部を天引きし、徴収予定の78万円に充当させる)へのサインを求めた。女性は当時、処分取り消し訴訟を検討中のため、サインすると訴訟を含むその後の対応において不利益になることを懸念し、サインを拒否した。



しかし、A氏はサインするまで保護費を渡さないという発言を1時間以上にわたって繰り返し、抵抗するのが困難な状況に追い込み、サインさせたとされる。



●原告女性「保護費を長時間渡してもらえないことがつらい」

提訴後に会見した女性は「保護費をもらいにいくと、長時間渡してもらえない。書かなければ渡せないと毎月、毎月言われて、それが本当につらいことです」と語った。



原告代理人の岩重佳治弁護士も、区役所での保護費受給の場に立ち会っている。そのたびに「保護費の受給とサインは別問題です」と担当者に説明しているという。



女性とA氏との間のやりとりは録音されており、会見で流された。



岩重弁護士は「生活保護の現場の最前線で従事するケースワーカーの行為は悪質。生活保護受給者の生存権を脅かす違法性の高い行為だ。福祉事務所のやり方は地域のやり方を反映していると思う」として、杉並区への全面的な是正を求めていくと述べた。