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東京の地下遺構訪問「京成電鉄 旧博物館動物園駅」

2020年02月15日 07:02  おたくま経済新聞

おたくま経済新聞

東京の地下遺構訪問「京成電鉄 旧博物館動物園駅」

 東京の地下には多くの遺跡や遺構が眠っているという……それはなにも大昔の歴史的建造物だけとは限らない。今回はフォトグラファーの四葉さんから、東京に残る地下遺構のステキな写真を見せていただいたのでご紹介しよう。
 
 新しいビルが並ぶ東京の地下には、近代に使われていた施設や構造物が閉鎖され、そのままの形で残されたものが多く点在している。普段、目にすることのない地下空間には、私たちの知らない世界(東京アンダーグラウンド)が広がっているのだ。


【さらに詳しい元の記事はこちら】


■京成電鉄旧博物館動物園駅

 東京の地下遺構には廃墟や地下通路、隧道(ずいどう=トンネル)と様々あるが、今回ご紹介するのは鉄道の廃駅。京成電鉄本線の「旧博物館動物園駅」である。



 新橋駅の「幻のホーム(旧東京高速鉄道・新橋駅)」や、秋葉原の万世橋交差点直下にある「萬世橋駅(仮駅)」と共に、鉄道ファンの間では有名な廃駅の遺構だ。


 旧博物館動物園駅は東京国立博物館や上野動物園、東京藝術大学の最寄駅として1933年(昭和8年)12月開業。しかしホーム長が4両分しかなく、京成電鉄の列車編成が長くなって以降は停車できる列車が限られるようになったこともあり、利用客の減少とともに1997年に営業休止。2004年に廃止となった。


 しかし、2018年(平成30年)4月に「東京都景観条例」に基づいて、出入り口建屋のひとつが鉄道施設としては初めての「東京都選定歴史的建造物」に指定。文化財指定ではないものの、歴史的に重要な景観として保護されることになった駅舎である。


 この際、隣接する東京藝術大学の協力を得て入り口の灯具を再現。また、扉も東京藝術大学美術学部長を務める現代美術家、日比野克彦氏による意匠を凝らされたデザインのものに交換され、2018年11月にリニューアルした姿となった。東京藝術大学と京成電鉄は、上野にキャンパスを構えるその立地(この駅舎隣接して東京藝術大学の校地がある)から2017年に「国立大学法人東京藝術大学と京成電鉄株式会社との連携・協力に関する包括協定書」を締結しており、リニューアルへの協力もそういった経緯によるものだ。


 リニューアル後の2018年11月23日から2019年2月24日にかけての毎週金・土・日曜日には、営業休止以来21年ぶりに駅舎内部を公開。2020年も「京成リアルミュージアム」の会場として、2月の土・日・祝日のみの期間限定で公開されることになった。


 ミュージアムとして、駅舎内部には「スカイライナー(2代目AE形) 1/2スケールカットモデル」を中心に、京成電鉄の記念乗車券や、かつて使われていた特急のヘッドマークなどのほか、京成電鉄110年の歴史を紹介するパネルを展示。現在のスカイライナー(2代目AE)形は、ファッションデザイナーの山本寛斎さんがデザインしたことでも知られる。


 敷地が代々皇室の所有する「世伝御料地」だったこともあり、駅開設にあたっては御前会議で天皇(昭和天皇)の勅許を得ないといけない、という事情があった旧博物館動物園駅。そのためか、地下への出入り口にすぎない駅舎であるが、一歩入って見上げると、すばらしい装飾のドーム天井。アカンサス文様が取り囲む中心に4つの穴が開いているが、これはかつてシャンデリアが取り付けられていた名残だ。


 出入り口部分の外観は、重厚感を感じさせるギリシャ・ローマ建築風のオーダーに、アカンサス文様があしらわれたパラペット、屋根のデザインは国会議事堂を思わせるもの(こちらの方が完成は早い)。設計は中川俊二によるものと伝えられ、文化や芸術の中心地であり、世伝御料地に建つ駅として品位に欠けたものであってはならないと、各所に様々な意匠が凝らされたのが分かる。


 朽ちかけた鉄の窓枠や、色褪せてシミの目立つコンクリート壁も、ライトアップされていて美しい。壁と天井との境にも装飾が施されており、建設当時の左官による細やかな仕事が見てとれる。


 照明の効果もあってか、廃墟的な美しさに魅了される。階段を下った奥には切符売り場と、木製の改札が残る。博物館動物園駅では1997年の営業休止まで、切符は駅員による手売りだった。普通列車の6両編成化が始まった1981(昭和56)年以降、この駅に停車できる4両編成の列車本数が減ったため、自動券売機を設置する必要のないくらい乗降客が少なかった(営業休止前年の1996年時点で1日あたりの乗車人員は249名)ことが分かる。


 切符売り場と改札口には、床に刺さっている巨大なウサギの像が展示されているが、これは2018年11月~2019年2月の公開時に実施された羊屋白玉氏演出のインスタレーション「アナウサギを追いかけて」で制作された、サカタアキコ氏による「地中にもぐるアナウサギ」のオブジェである。インスタレーション開催当時は駅舎に入ってすぐ、階段の手前の空間に展示されていたものだ。


 改札口は今も列車が行き交うホームへ直結しているので、そこへ向かう階段の途中から先は安全上の理由でガラスで仕切られ、立ち入ることができない。見学中は時折、列車が通過するゴーという音や風が感じられた。ミュージアム開催期間中は改札口がライトアップされているので、もしかしたら列車の車窓からチラリと改札を見ることができるかも知れない。


 壁面には、営業当時に書かれたと思われる落書きも残されている。駅の営業休止(1997年4月1日付)を目前に控えた時期のものだろうか、上野公園の夜桜を見た後に書いたとおぼしき落書きには「さみしいけどいつか絶対再開して下さい!」という言葉があった。


 京成電鉄「旧博物館動物園駅」へは上野駅から徒歩12分。公開の期間は2月の土・日・祝日だけと短いが、都内で安全に見ることのできる貴重な遺構である。廃墟や遺構に興味がある方は、週末に足を運んでみてはいかがだろうか。


<イベント概要>
京成リアルミュージアム(入場無料)
日時:2020年2月(土・日・祝日)
2/8・9・11・15・16・22・23・24
各日10時~15時30分(最終入場15時)
会場:京成電鉄 旧博物館動物園駅
(東京都台東区上野公園13-23)


<撮影協力>
フォトグラファー 四葉(@76Stratocaster


(和泉宗吾)