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『テラスハウス』東京編、なぜカップル誕生しない? “何者かであろう”とするメンバーの特色を軸に考察

2020年02月15日 07:02  リアルサウンド

リアルサウンド

『TERRACE HOUSE TOKYO 2019-2020』(c)フジテレビ/イースト・エンタテインメント

 昨年5月にスタートした『テラスハウス』東京編こと『テラスハウス TOKYO 2019-2020』。現在も放送中の同シーズンだが、終了が予定されている2020年に突入したものの、昨年から続く“カップル誕生”不在も未だ継続中だ。


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 東京編は現在、初期メンバーがテラスハウスを去り、追加メンバーを中心に日々の記録は更新中だが、シーズンを通して、1番のモテ男だったバスケットボール選手の田渡凌がまさかの卒業。しかも、積極的に彼に対し、恋愛感情を向けていたビビと一時、ついにカップル誕生か? と思わせる一幕があったにも関わらず、結果的にはその想いに応えることはせず。自身の“目的”をある程度果たしての卒業となっただけに、視聴者としては「なんだかな」という気分になったことは否めない。しかし、この「テラハ史上、最もカップルが誕生しないシーズン」の特徴もまた、そこに表れているように思えてならない。


 端的に言って、同シーズンは、スタジオメンバーの山里亮太(南海キャンディーズ)がこれまで度々指摘してきたように、テラスハウスメンバーの好感度を気にする姿勢がどうしてもチラついてしまう。番組はすでに長寿番組化しており、これまでに数々のリアリティーショー出身のスターを輩出してきた。それだけに出演者側からしても、ここでなんらかの爪痕を残すことで、その後のキャリアに影響を与えるということは事実として理解しているはずだ。


 その点に関して、メンバーの中に全くの素人がほとんどいないということも大きいように思う。東京編の新旧メンバーは、芸能活動なりなんらかのエンタメ分野に関わる活動をしている者が多く、それだけに映像を通して映し出される自身の姿を全く気にかけないというのもなかなか難しい話である。あくまで邪推だと前置きした上で話を進めさせていただくが、これまでの東京編を見ていると、視聴者側としても住人のそういう姿勢はある程度、感じ取ってきたはずだ。


 初期メンバーを例にしてみると、俳優、イラストレーター、ミュージシャンなどエンタメ分野の住人が多く、中には一定の範囲では有名な、“知る人ぞ知る人物”も含まれていた。それだけに山里が指摘した“好感度”を意識した振る舞い方と捉えられるような言動は、どうしても目立ったように感じる。このようなクリエイター気質で、エンタメ界の一員というバックグラウンドからか、東京編では、“まだ何者でもない人物たちが何者かになろう”という気概のほうが、恋愛よりも優っていたように思えてならない。


 その意味で、おしゃれな東京の若者が夢に向かって日々、葛藤しながら成功を目指す姿を記録し続けた初期メンバー期が終わったあとのメンバー入れ替え時には、ある種のテラハ名物である“恋愛からのカップル誕生の期待”が高まったのも事実だ。


 実際にプロのバスケットボール選手として活躍し、メンバーの中でも年長組に入る凌は、一時は女子メンバー全員の恋愛感情を掻き立てた。散らかった共有スペースの整理整頓をほかのメンバーに促すなど、大人として締めるところは締めるだけでなく、女子大生・愛華の「ザギンでシースー」にも気前よく応じるなど、凌は他のメンバーとは違い、すでに何者かになった成熟した“大人の男”のスタンスを示す。そこにスポーツマンらしい雄々しさもあわさるのだから、恋愛において向かう所敵なし状態だった。しかし、そんな彼もまた後々メンバーから、テラスハウスでは“バスケットボールの普及や“自分の夢の実現”という名目のもと、“横浜ビー・コルセアーズのキャプテン田渡凌”を演じているに過ぎない、と指摘されてしまう。


 こういった“何者かであろう”とするスタンスは、自分に対して恋愛の矢印を向けてきた人物の想いに勝るものである。結果的には31th WEEKのタイトルに「Publicity Stunt」という“売名行為”を指す言葉を冠するまでになり、女子メンバーたちはおろか、一定の視聴者の期待を見事に裏切ったことは間違いない。


 また凌が卒業を告げた32nd WEEKには、さらに“何者かであろう”とすることに関して別の出来事も起こっている。同エピソードでは、先述の“ザギンでシースー”事件をOAで見た愛華が、スタジオと世間からのバッシングに耐えられず、思わず号泣するシーンが映し出される。その時に彼女が口にした「『テラスハウス』に出る人間ではなかった。覚悟が足りなかった」という言葉は、ある意味で、『テラスハウス』出演をきっかけに、何者かになろうとする人物が揃ったこれまでの東京編の本質を表していたように思える。


 現代のようにSNSで不特定多数の人間が好き勝手に発言できる時代において、リアリティーショーは諸刃の剣だ。なんらかの爪痕を残せた場合は、その後のキャリアを著しく上昇させるきっかけになるが、一度判断を間違うと好感度は際限なく落ち込む。振り返ってみると、そこを理解した言動が、これまでのメンバーには多く見られた。だが、それが露骨に画面から伝わってきたことは、これまでのシーズンと比べて東京編が異質だった部分ではないだろうか。


 彼らがテラスハウスを通して、何者かになることを意識し、自分の人生に“確変”を起こすためにセルフブランディングに終始してきた感は否めない。それが原因で、カップルが誕生しない異例のテラスハウスが延々と記録されていくという結果を生み出してきたはずだ。


 恋愛とは当然のことながら、自分よりも相手のことを思いやる気持ちがないと成立しない。その意味で今後は、何者かになろうとする者にストレートに想いをぶつけてきた花やビビのようなメンバーが、苦い経験を糧に、慎重に自分のパートナーとなり得る人物を選ぶことができたなら、待望のカップル誕生も近い将来あり得るのかもしれない。少なくとも現時点で花や愛華には好感度よりも相手を気遣い、距離を詰めてきてくれるメンバーがいる。彼女たちが彼らをどのように受け入れていくかが、今後のカップル誕生の鍵になるはずだ。(文=Jun Fukunaga)