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雪上で本領発揮? 日産「スカイライン」の性能を試した

2020年02月13日 11:32  マイナビニュース

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画像提供:マイナビニュース
ハンズオフ走行が可能な運転支援技術「プロパイロット2.0」を搭載したことで話題を呼んだ日産自動車の「スカイライン」。その先進性と性能の高さで常に話題を呼んできた日産のアイコン的なクルマだが、現行型の基本性能はどうなのか。雪の上で試した。

○「スカイライン」のルーツは?

日産の「スカイライン」は、現行車が2014年に発売されているので、すでに6年という長いモデル期間となっている。それでも2019年には、「ハンズオフ走行」を可能にする運転支援機能「プロパイロット2.0」を日産車として初めて搭載するなど、進化を止めていない。

そもそもスカイラインは、プリンス自動車工業というメーカーが1957年(昭和32年)に生み出したクルマである。帝国陸軍の偵察機や戦闘機を製造してきた立川飛行機の出身者たちが立ち上げた東京電気自動車と、やはり帝国陸軍とつながりを持った中島飛行機から富士精密工業となった企業が合併して誕生したのが、プリンスという自動車メーカーだ。

日本の航空機産業出身の技術者たちが英知を結集し、プリンスならではの技術に凝ったクルマとして作り上げたのがスカイラインであった。当時としては新しい車体形式やサスペンション構造を備え、エンジンは競合のトヨタ自動車や日産を上回る出力を出していた。

1966年(昭和41年)に日産とプリンスが合併した後も、「GT-R」を生み出すなど、スカイラインは常に、新技術や高性能で消費者を魅了する車種として継承されてきている。

13代目となる現行のスカイラインは、世界で初めて「ステアリング・バイ・ワイヤー」を採用して登場した。通常のクルマでは、ハンドル操作を直接、金属のシャフトや歯車でタイヤに伝達して方向を変えるが、ステアリング・バイ・ワイヤーはハンドルの回転を信号に替え、それに応じてタイヤ側にあるモーターを回転させて、タイヤの向きを変える仕組みだ。ここでいう「ワイヤー」とは「配線」を意味する。運転者のハンドル操作を電気信号に変換し、配線によってタイヤ側に伝えるという意味で使われているのだ。

このバイ・ワイヤー(電気信号で操作する)技術は、すでにアクセルやブレーキでは一般化されている。そこに、ハンドル操作も加えたのが現行スカイラインだった。この技術は今なお、ほかの自動車メーカーには採用されていない。ステアリング・バイ・ワイヤーは、ハンズオフを可能としたプロパイロット2.0の導入にもつながっている。

以上のように、スカイラインは常に技術の先端にあり、また、GT-Rが示しているように、走行性能の高さでも期待される車種である。
○高出力で後輪駆動! 雪の上でもまともに走る?

今回は「日産自動車雪上試乗会」というイベントに参加し、現行型スカイラインを雪の上で存分に試すことができた。乗ったのは「スカイライン GT」と「スカイライン 400R」の2車種だ。ともにV型6気筒のガソリンエンジン車で、いずれも後輪で駆動する(ちなみに、「NISSAN GT-R」は4輪駆動だ)。

スカイラインGTはエンジン排気量3.0Lのガソリンターボで、最高出力は304馬力である。これを後輪の2輪で受け止める。1輪あたりの負担は150馬力以上だ。NISSAN GT-Rのエンジンはより高性能で570馬力に達するが、4輪駆動なので1輪あたりが受け持つ出力は約140馬力に分散することができる。その点、スカイラインGTには、相当な高出力を手なずけるだけの走行性能が求められるはずだ。

さらに400Rともなると、最高出力は405馬力に達する。これを雪上で、後輪2輪の駆動で走行するということで、試乗前にはやや緊張を伴った。

実際に乗ってみて、どんな感覚を得たか。結論を先にいえば、より高出力の400Rの方が、GTに比べ、より雪上で運転しやすいという印象だった。

400Rのエンジンがより高性能であるのは間違いないが、それは数値的な潜在能力が高いということであって、それを人が運転するためには、精緻な制御が行われているはずである。実際、雪上でのアクセル操作に対し、ターボエンジンであるにもかかわらず、400Rの方が駆動に対する応答の遅れが少なく、自分の思い通り、狙い通りに走れたという安心と喜びがあった。

さらに操縦安定性においても、的確な動きにより突発的な挙動が出ず、たとえタイヤが多少滑っても運転操作で補えたのである。

もちろん、雪上で無暗にアクセルペダルを深く踏み込むような発進をしたら、後ろのタイヤがこらえきれず横滑りを起こす。だが、それでも制御不能になるような不安はなく、すぐアクセル調整をするとともに、逆ハンドルの操作で姿勢を整えると直進性を取り戻し、そのまま加速を始めるのであった。

減速でも、あえて急ブレーキを踏んでみたが、荷重の減った後輪がやや横滑りを起こす程度で、これも逆ハンドルの運転操作で姿勢は落ち着き、そのまま横滑りしてスピンに至るようなことはなかった。

スラロームでは、エンジンの応答が速く的確であることにより、進路をズレず、狙い通りに左右へと向きを変えていく。やや速度を上げて、後輪が滑り出すのを利用しながら向きを変えていくこともできなくはない。しかも、滑りすぎてスピンしてしまうような心配も感じなかった。

もちろん、雑な運転操作を続ければ姿勢を崩すことはあるだろうが、試乗前に心配したほど制御の難しいクルマではないことが分かった。逆に、後輪駆動であることの楽しさを、雪上でさえ味わうことができたのである。

GTも基本的には同様だが、エンジンの応答が400Rに比べやや遅く、ターボラグ(ターボチャージャーが作動するまでの時間差)を感じ、「自在に」というクルマとの一体感を400Rほどは得られなかった。

スポーティーなクルマやスポーツカーは「速い」と考えられがちだが、雪の上ではタイヤに限界があるので、そこまでの速度は出せない。ただ、路面が滑りやすいことにより、舗装路ほど性能差が出にくい状況においては、人の操作に対する応答性や的確さの面で、高性能なクルマは運転しやすく、より安全でもあり得ることを、スカイラインは教えてくれた。人の操作に対して繊細かつ精緻な反応を返してくるのが、高性能なクルマなのである。何百万円という高価な車両価格は、単に高い性能のためだけでなく、より安全で安心なクルマの価値とも通じるということが分かった。

ことにスカイラインというクルマの背景には、かつて航空機を作った技術者たちが、戦争という時代に高性能を競い合いながら、「無事に帰ってこられる安全性」を何よりも大切にした志があるのではないだろうか。クルマの価値は、単に性能諸元や形式で測れるものではなく、込められた作り手の心によって左右されるものなのである。

○著者情報:御堀直嗣(ミホリ・ナオツグ)
1955年東京都出身。玉川大学工学部機械工学科を卒業後、「FL500」「FJ1600」などのレース参戦を経て、モータージャーナリストに。自動車の技術面から社会との関わりまで、幅広く執筆している。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。電気自動車の普及を考える市民団体「日本EVクラブ」副代表を務める。著書に「スバル デザイン」「マツダスカイアクティブエンジンの開発」など。(御堀直嗣)