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岩田剛典、『AI崩壊』で役者としての存在感を発揮! 笑顔を封印した冷徹キャラで光る資質

2020年02月12日 06:01  リアルサウンド

リアルサウンド

(c)2019映画「AI崩壊」製作委員会

 2030年の日本を舞台に、AIによって人々の健康が管理されている社会が、その暴走によって一気にパニックに陥るという映画『AI崩壊』は、公開初週、国内映画ランキング(全国週末興行成績・興行通信社提供)の1位に躍り出た。


参考:岩田剛典、インタビュー撮り下ろしカット


 この映画の中で、警察庁の天才理事官・桜庭誠を演じているのがEXILE/三代目J SOUL BROTHERSのパフォーマーでもある岩田剛典だ。


 岩田と言えば、『ろくでなしBLUES』(2011年/日本テレビ系)で俳優デビューを飾ると、映画『クローズEXPLODE』(2014年)で存在感を発揮し、『ディア・シスター』(2014年/フジテレビ系)のヒロインを思う優しい幼なじみ役、映画『植物図鑑 運命の恋、ひろいました』(2016年)のひょんなことからヒロインの家にころがりこむ謎の青年という、子犬路線で人気を拡大。やわらかい笑顔が彼の持ち味としてフィーチャーされた。


 その後は、『HiGH&LOW』(2015年~)シリーズのコブラとしても知られることとなり、近年は『崖っぷちホテル!』(2018年/日本テレビ系)での主演、『シャーロック』(2019年/フジテレビ系)のディーン・フジオカとの名コンビなど、幅広い役柄を好演している。


 『ディア・シスター』や『植物図鑑』の、優しく笑顔でいつでも隣にいる男の子のイメージがかなり強かったが、その存在感の裏に、謎めいたものや、不穏な空気を隠し持った役も多く、そんな魅力は『砂の塔~知りすぎた隣人』(2016年/TBS系)や映画『去年の冬、きみと別れ』(2018年)、『炎上弁護人』(2018年/NHK総合)でも発揮されていた。意外にも笑顔の役より不穏さを醸し出している役のほうが多いと言っても過言ではない。


 『AI崩壊』の岩田が演じた桜庭誠という役も、この『砂の塔』『去年の冬』『炎上弁護人』の流れを汲む役と言ってもいいだろう。


 桜庭は、MITで博士号を取得し、警察庁の理事官に上り詰めたという天才。常に表情はクールで、感情の変化を見せるときも、口元の筋肉が少し緊張する、目の表情が変わるくらいの、微細な動きに留めていて、それだけで何か心が動いたのだとわかるようになっていた。


 こうした表情は、彼が入念な役作りをしたからこそ出てきた演技だとわかる。しかし、本人にその気がなくとも、『AI崩壊』のインタビュー(年齢を重ねていく岩田剛典のいま「どんな作品の中にいるかが大事」)で、桜庭と自分に似たところはないと語っていても、どこか彼を起用する側には、クールで冷徹でキレ者の姿を演じられる核があると見抜き、求めるところはあったのではないだろうか。それくらい、桜庭という役がぴたりとハマってみえた。


 桜庭には経歴以外に生い立ちなどの背景は描かれておらず、決して情報は多くない。それでも、彼がこれまでの人生で、敗北を感じたことがなく、AIの「のぞみ」を管理するHOPE社の社長・西村悟(賀来賢人)に協力を要請するも断られたことで、かなりプライドも傷つけられているのではないか、その高すぎるプライド故に、そのことをまっすぐに受け止められない自分もいるのではないかと、いろいろ見ているこちら側に想像させることに成功していた。


 結局、桜庭はこの物語の最後の最後まで、考えは一貫していて、変化することはない。ただ、その変わらなさに、見ているこちらは怖さを感じたし、しかもそこには、彼には彼なりの理があるのだろうなと思えてしまった。


 その彼なりの理を生んだのも、頭がよく、常に最適解を求めて生きてきた彼が、AIとどう共存していくのか、社会をどう動かしていくかを、かなり上からの目線で考えた結果なのだろうと思わされた。桜庭のような考えに至る人は現実社会に確かに存在しているし、彼のようなことを声高に語る人はこれからも出てくるだろう。そういう存在を岩田剛典が演じ切っていたからこそ、いろいろ気づくところが大きかったと思う。


 桜庭が登場するラストのカット、伏し目がちだった桜庭が、こちら側を見つめ、問いかけをするシーンは、映画の中だけにとどまる話ではなく、観ている観客にも問いかけるようなまっすぐさがあり、この映画の中で、もっとも忘れられないシーンになっていた。(西森路代)