2020年02月11日 09:02 弁護士ドットコム
山形市で創業320年の老舗デパート「大沼山形本店」が1月27日、山形地裁に自己破産を申請し、破産手続きの開始が決定したと報じられている。朝日新聞電子版(1月28日付)の報道によれば、デパート内の店舗で働く人に対しては従業員から「明日破産します」と伝えられたとのことだ。気になるのは、従業員の処遇だ。これについて、山形新聞は電子版(2月1日付)で、吉村美栄子知事が「突然解雇された従業員や家族の生活が安定するよう経済団体の支援と協力をお願いしたい」と県内の経済団体に要請したと報じている。
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勤務先が破産の申立てた場合、従業員たちはどんな処遇となるのか。山田長正弁護士に聞いた。
ーー今回のように会社が破産の申立てをした場合、従業員を解雇するのは通常なのか
会社が破産の申立てをする際は、社内の混乱を避けるため、申立て直前もしくは申立てと同時に全従業員を解雇するのが通例です。
労働基準法上、従業員を解雇するには少なくとも30日前に予告するか、それに代わる解雇予告手当を支払わなければなりません。
しかし、解雇予告手当を支払うだけの資力が破産会社に無い場合、従業員は破産した会社に対して解雇予告手当分の債権を有することになりますので、破産手続において債権者として扱われることになりますが、この場合回収は難しいことが多いでしょう。
ーー未払賃金については、回収することはできないのか
会社に対して未払賃金が存在する場合は、元従業員の生活保障のために、独立行政法人労働者健康安全機構(旧「労働者健康福祉機構」)の未払賃金の立替払制度を利用することができます。
本制度は、未払賃金の8割まで立替払いを受けることができ、残り2割の賃金は元従業員の労働債権として残ります。
未払賃金は、いわゆる「額面額」で計算し、対象者は、破産手続開始等の申立て日の6カ月前の日から2年の間に破産会社を退職した者で、アルバイトも本制度対象者となります。
ーー立替払制度では、どの範囲の未払賃金が保障されるのか
立替払いされる範囲としては、退職日の6カ月前から立替払請求日の前日までに支払期日が到来している未払賃金です。給与、退職金は本制度の対象となりますが、解雇予告手当、賞与、その他臨時に支払われる賃金、役員報酬は対象外となります。
また、元従業員の年齢に応じて立替払額に上限が定められていることや、未払額が2万円以下の場合、本制度の利用ができないといった点も注意が必要です。
ーー解雇には、普通解雇、整理解雇、懲戒解雇があるが、今回のようなケースは「整理解雇」となるのか
そうです。整理解雇とは、経営難等の理由で、従業員(余剰人員)を削減する目的で行う解雇を言います。通常、(1)会社における人員削減の必要性、(2)解雇回避の努力、(3)人選の合理性、(4)解雇手続の妥当性の4項目を総合考慮して、解雇の正当性の有無を判断します。
ーー会社の破産に際して解雇される場合、解雇の正当性はどう判断されるのか
しかし、今回のような会社の破産に際してなされる全従業員を解雇する場合では、上記4項目のうち、(2)と(3)は問題とならず、上記(1)と(4)を総合考慮した結果、解雇権の濫用として整理解雇が無効とされる場合があります。
ーー具体的にはどういった点が考慮されるのか
(1)については、会社がその事業を廃止することが合理的でやむを得ない措置であったか否か、という点です。
次に(4)ですが、様々な点が考えられます。例えば(a)労働組合又は従業員に対して解雇の必要性・合理性について納得を得るための説明等を行う努力を果たしたか、(b)解雇にあたって従業員に再就職等の準備を行うだけの時間的余裕を与えたか、(c)予想される従業員の収入源に対し経済的な手当を行う等その生活維持に対して配慮する措置を取ったか、(d)他社への就職を希望する従業員に対し、その就職活動を援助する措置を取ったか、といったことが検討されます(三陸ハーネス事件<仙台地決平成17年12月15日・労判915号152頁>参照)。
会社が破産する事案では、原則的に解雇が無効になりづらいものの、いずれにせよ会社としては、特に上記(4)の手続きを適正におこなって、従業員との間での紛争を避けることが肝要です。
【取材協力弁護士】
山田 長正(やまだ・ながまさ)弁護士
山田総合法律事務所 パートナー弁護士
企業法務を中心に、使用者側労働事件(労働審判を含む)を特に専門として取り扱っており、労働トラブルに関する講演・執筆も多数行っている。
事務所名:山田総合法律事務所
事務所URL:http://www.yamadasogo.jp/