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『テラスハウス』東京編:29~32話ーー“物事を単純化する危うさ”が浮き彫りに?

2020年02月11日 07:01  リアルサウンド

リアルサウンド

『TERRACE HOUSE TOKYO 2019-2020』(c)フジテレビ/イースト・エンタテインメント

 29th WEEK~32nd WEEKは、『テラスハウス』がもつ“危うさ”が前景化した4週間だった。快がスタンダップコメディの舞台で日本のサラリーマンを風刺するかのようなネタを披露した際にビビが指摘した「(あのサラリーマンのネタは)言い過ぎだと思う。あんまりおもしろくなかった」という言葉を借りたくなるような状態が、ずっと画面の向こうに広がっていたからだ。


(関連:凌、なぜビビの告白に中途半端な答えを出した? 『テラスハウス』第31話未公開映像


 言うまでもないかもしれないが、スタジオメンバーの止まらない辛辣なコメントについてである。いや、これまでももちろん山ちゃん(山里亮太/南海キャンディーズ)を筆頭に住人への鋭い指摘や厳しい批判はあったし、副音声も含めたそうした声があるからこそ生まれる番組の深みというものがあった。しかしやはり、山ちゃんが“ツッコミの非難”であれば徳井さん(徳井義実/チュートリアル)が“ボケを交えた受け皿”的役割を果たしていたことなども鑑みると、ある時期を境にスタジオのバランスが崩れはじめたような印象は拭えない。


 物事はいつだって“複雑”なものなのに、スタジオメンバーがこぞって“単純化”しようとしてしまう様。その危険な構造も含めた『テラスハウス』というコンテンツの魅力について、改めて考え直す機会としてみたい。


■住人たちが見せる“複雑さ”という魅力
 29th WEEK。徳井さんが抜けた穴を埋めるゲストとして登場したブルゾンちえみさんは、『テラスハウス』の好きな場面やメンバーについて聞かれた際に「流佳の英語の発表で泣いちゃいました」と答えていた。そうだよな、ときには泣けることもあるくらいおもしろい番組なのだよな、と再認識させられる、個人的には非常に印象に残るコメントだった。


 そこで「なぜテラスハウスは“泣ける”のか?」と考えてみると、そのひとつには「人間がもつ多様な側面が映像のなかに刻まれているから」と仮定することができるだろう。ここでは「ほんとうに“リアル”なのか」という横槍は(真偽の判断が下せないので)一旦無視するとして、ドラマにも映画にもない“リアリティショー”という形態だからこそ見える人間の本質が映っているからこそ、『テラスハウス』は“泣ける”コンテンツなのだ、とひとまずは(勝手ながら)結論づけることができる。


 “多様な側面”とはすなわち、人間がもつ“複雑さ”とも言い換え可能なもの。そして他人のもつ複雑さは、個人が簡単に理解できるものではない。たとえば、「(凌がテラスハウスに入居した理由は)売名って思ってる」と言った愛華が、凌の卒業を聞いたときには号泣し、またその数時間後には凌のどっちつかずな行動を非難する。それを山ちゃんは「情緒のビッグウェーブがすごい」と一蹴するが、実際のところ愛華がなぜそこまで態度をコロコロ変えるのか、私たちには“わかり得ない”。複雑なものは複雑なままでありつづける。


 あれだけ世のサラリーマンを侮辱したようなネタを披露した快にしても、だからといって冷たい男なのかというとそうではなく、恋に破れそうになり自信をなくす花に「花は可愛くて面白くて、すべてを持ってるよ」とサラッと言えてしまえる温かさがある。「物事をはっきりさせたい」と言うビビも、凌という夢中の相手に出会ってしまうとアメリカで活躍する夢を忘れてしまう、意外な芯のグラつきを見せた。その凌はビビに興味がないわけではないしキスされたらあえて拒むことはないけれど、「夢を捨ててほしくない」と変に律儀な姿勢をとってビビを振ってしまう。この一見して自己矛盾を抱えているような性格のすべてがその人の“複雑さ”を形作っていて、それこそが人間という生き物の大きな魅力でもある。


 31th WEEKにおいて、「もしかして凌と愛華は裏で関係を結んでるんじゃないか」とスタジオメンバーが言い出したとき(そして誰も反対意見を述べなかったとき)、正直ゾッとするほど怖かった。おそらく以前にもテラスハウスにそういうことがあったからこその発言なのだろうけど、あまりにも憶測と飛躍が行き過ぎているにも関わらず、その意見が全体の声として出てしまっているからだ。6人の住人に対して6人のスタジオメンバーを配したならば、多くて6つ、少なくとも2つ以上の意見が交わされてくれないと、『テラスハウス』は偏見とレッテル貼りが目立つコンテンツになりかねない。


■住人とスタジオメンバーの“幸福な関係性”について
 スタジオメンバーがテラスハウスに入ってきた住人を“単純化”し、彼らが複雑な性格を垣間見せるとひとたび非難を始める。思えばそれはこれまでにも起きていたことだった。軽井沢編の優衣がわかりやすい例だろう。だけど愛華のように、それが明確な原因で卒業したいと思うメンバーが出てきたいま、住人とスタジオメンバーの“幸福な関係性”について、改めて問い直してみる必要があるのではないだろうか。


 ただ、『テラスハウス』が孕む前述の“危うさ”を前提とした上でも、やっぱりこの番組は他にはない魅力で満ちあふれているのは確かだ。何度も言うけれど、(これはスタジオメンバーのブレやすい意見も含めて)“人間の複雑さ”がこれほど表に出る番組は他に類を見ない。それを非難されるだけでは、いささかもったいないと言わざるを得ないので、この4週の素敵な場面を2つあげて本稿を締めたいと思います。


■「やっと出てきたね」(愛華)
 29th WEEKにて。花が凌をごはんに誘ったものの、電話越しに「親友とごはんに行くことになっちゃったから、今日はごめん」と断られてしまう場面。失意の花を「めっちゃかわいいね、メイク」とビビが慰めると「かわいいけどデートはできないの」と花は寂しげに答える。そこで「わかる。アイス買って『タイタニック』観ようぜ」と励ますビビの明るさにも救われながら、ついに堪えきれず泣いてしまった花を胸で受け止め、「やっと(涙)出てきたね」とささやく愛華の優しさにこちらまで泣けてきてしまった。


■「泣きそうだなぁと思った。だけど泣きたくない」(ビビ)
 32nd WEEKで、ついにビビが凌を諦めるしかない状況に置かれる場面。初めて一緒に聴いた音楽を再び流し、キスをし、「夢に向かってがんばってね」とお互いに言葉を交わす。そこでビビは不意に泣きそうになってしまうものの、「だけど泣きたくない。あなたの前では泣きたくない」と吐露する。“泣きそうだけど泣かない”というのはこれも自己矛盾、複雑さの現れであり、また、恋をする儚さと美しさに満ち満ちた尊い瞬間だった。(文=原航平)