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伊藤健太郎、作り手に求められる俳優に 『スカーレット』武志役で見せる“理想の息子像”

2020年02月11日 06:01  リアルサウンド

リアルサウンド

『スカーレット』写真提供=NHK

 連続テレビ小説『スカーレット』(NHK総合)第105話から、ヒロインの喜美子(戸田恵梨香)の息子・武志役で伊藤健太郎が登場し、話題を集めている。


参考:【場面写真】数年ぶりに川原家に訪れた八郎(松下洸平)


 喜美子が夫である八郎(松下洸平)の反対を押し切り、借金をしてまで没頭した穴窯での作品づくり。7回目の挑戦で成功させ、陶芸家として名声を手に入れてからの7年の時の流れが、伊藤健太郎の繊細な演技によって浮き彫りになった。これまで歩んできた喜美子の波乱万丈な物語を武志の新たな視点から見つめ直すことで、ものづくりへの情熱と家族への愛の強さ、その葛藤が迫ってくるシーンが印象的だった。


 武志は、高校2年生になって進路の壁にぶつかることで、初めて自分の中だけにためてきた、父親・八郎への思いを喜美子に伝えた。子どもだった武志が欲しがっていたテレビジョンが川原家に来た日。「来たで、武志。やっと来たで」と喜美子に起された武志は、やっとお父ちゃんが帰って来たのだと勘違いしたこと。


 「お母ちゃんは陶芸家としてやりたいことをやって成功した代わりに、大事なものを失ったんや」と思わず吐き出した言葉に素直な気持ちがこめられていた。


 高校卒業後の進路で悩み、母である喜美子に「陶芸家になりたいんか」と聞かれ、陶芸が好きだからといって簡単に陶芸家になれるほど甘い世界でないと理解しているだけでなく、大切なものを失ってまで陶芸をやっていけるのか、自分にその覚悟があるのかがわからないと正直な心情を伝える。


 優しい性格に育った武志は、家族を不用意に傷つけたり、心配をかけたりすることを避けてきただけでなく、陶芸と真剣に向き合ってきたからこそ、離れてしまった両親に対する尊敬の気持ちをずっと持ち続けてきたということ。幼なじみの前ではおどけて、お母ちゃんに青臭いことを言ってしまったと後悔していた武志だが、そんな青臭さや思春期特有の憂いが見る者の心に刺さる。


 同年代には強い共感を呼び、過去に思春期を過ごした大人たちは甘酸っぱい追想にふけるなど、武志を演じる伊藤健太郎のまっすぐで強い眼差しは、大人になる一歩手前の心の揺れを細やかに映し出している。


 また、「以前、出演した土曜時代ドラマ『アシガール』のチームが作っているドラマということもあって、僕自身、『アシガール』への思いもすごく強いので、また参加させていただけるのが光栄ですし、頑張りたいなと思いました」と出演発表の際にコメントしていた通り、演出チームとの相性が抜群なことが画面からも伝わってくる。『アシガール』(NHK総合)で演じた若君・忠清役で見せた誠実で凛々しい佇まいは幅広い世代の女性の心をガッチリ掴んでいたように、本作の武志もまた、“理想の息子・理想の孫”になっているに違いない。祖母・マツ役の富田靖子とのやりとりも微笑ましく、健やかに成長していく姿を見たいと思わせるところも魅力だ。


 第19週「春は出会いの季節」では故郷の信楽を離れ、武志は京都の美大に進学する。本格的に陶芸を学び、大人になっていく姿を見られるのは楽しみだ。俳優としても初の朝ドラ出演をきっかけに大きく飛躍するに違いない。


 2020年には『のぼる小寺さん』(6月5日公開)、『とんかつDJアゲ太郎』(6月19日公開)、『今日から俺は!!劇場版』(7月17日公開)、そして『弱虫ペダル』(8月14日公開)と4本の映画出演。さらに、29年ぶりにドラマ化される『東京ラブストーリー』(FODにて春配信予定)では、主人公の永尾完治役を演じる。7月31日から開催される舞台『巌流島』にも出演が決定。映画・ドラマ・舞台と、今最もクリエイターに必要とされている俳優と言っても過言ではないだいろう。豊かな才能をどんどん開花させていくその姿、目が離せそうにない。(池沢奈々見)