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Uru、「あなたがいることで」はなぜドラマ『テセウスの船』との強い結びつきを感じさせるのか

2020年02月09日 19:01  リアルサウンド

リアルサウンド

Uru

 謎多きシンガーとして注目を浴びるUruが、現在放送中の日曜劇場『テセウスの船』(TBS系/21時~)の主題歌として新曲「あなたがいることで」を歌唱している。すでに3話が放送され、視聴者からは「この歌を聞くだけで、シーンが浮かんできて泣ける」「ドラマの世界観にぴったり」と絶賛の声が絶えない中、いよいよ同曲を自身初のデジタルシングルとして2月9日にリリース。これまでも『中学聖日記』では「プロローグ」、『コウノドリ』では「奇蹟」など、多くのドラマや映画の主題歌/挿入歌を手がけ、その度に大反響を巻き起こしてきたUruにとって、またひとつ長く聴き継がれる代表曲が生まれたと言えよう。


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 『テセウスの船』は東元俊哉の同名コミックを原作にしたヒューマンミステリー。主人公の青年・田村心が、父が犯したとされる殺人事件の真相を追って過去にタイムスリップし、事件を食い止めるため奮闘する姿を描く。現在と過去が交錯する物語とあって、Uruが楽曲のテーマに据えたのは「過去と未来を繋ぐ“今”」。大切な人と過ごすかけがえのない時間を綴った歌詞が胸に迫る。冒頭から〈どんな言葉で 今あなたに伝えられるだろう 不器用な僕だけど ちゃんとあなたに届くように〉と語りかけるようにはじまり、サビでは〈あの日僕にくれたあなたの笑顔が生きる力と勇気をくれたんだ 星が見えない 孤独な夜でも あなたがいる ただそれだけで強くなれる〉と真っ直ぐに想いをぶつける。さながら、主人公の田村が父に贈るメッセージのようだ。依頼を受けた際、原作を読んでどんな楽曲が似合うのか、ひたすら考え、「もしも私だったら」と自分に置き換えて曲を書き上げたと語るUruは「この曲が、誰かの家族や恋人、友人など、関係を問わず大切な人を幸せにしたい、守りたいという強い気持ちを代弁するような楽曲になってくれたら嬉しいです」とコメントを寄せている。思えば、Uruは『中学聖日記』に提供した「プロローグ」でも、「もしも私だったら」と、自身の感情と照らし合わせながらの楽曲制作だったことを明かしていた。ドラマの中に描かれる複雑な心境や人間関係を主題歌に取り込もうとするとき、自身と“共鳴”する部分を探すところから始めるのが、どうやら彼女のスタイルらしい。Uruの手がける主題歌が、作品との親和性を感じさせる理由もここにあるのではないだろうか。


 また、「あなたがいることで」では、編曲に初タッグとなる小林武史を迎えたこともトピックのひとつ。本作はUruの真骨頂とも言える美しいメロディラインが印象的な楽曲だが、特にストリングスに彩られ盛り上がりを見せるサビには力強ささえ感じられる。これまで数多の女性アーティストのプロデュースに携わった小林も、「久々にオーセンティックな真のバラードの名曲ができたのではないか、と自負しています」と太鼓判を押すほど、切なく心にしみる王道のバラードだ。


 Uruの楽曲を聴いていて感じるのは、何より衒いのなさだろう。繊細な情景や人々の心の中の複雑な感情を描きながら、歌詞やアレンジ、そして歌唱スタイルは驚くほどシンプル。無駄なものをそぎ落とし、身ひとつでそこに立っているような凛とした佇まいがある。やや硬質でクリアな歌声は耳に心地よく、まさに水のようにスルスルと体の中に浸透していくよう。それでいてしなやかな強さも感じさせるあたり、まさに“奇蹟の歌声”と呼ぶにふさわしい。自身で手がける詞は決して多くを語らない。それも言葉を重ねるより、歌で伝える術を知っているからだろう。


 「あなたがいることで」は、そんなUruの持つシンガーとしての強みを凝縮したような1曲。さらにアレンジに小林武史を迎えたことでスケール感を増し、各話のラストシーンで流れるたびに圧倒的な存在感で耳を奪う。『テセウスの船』のプロデューサーを務める渡辺良介氏による「ストーリーが進むにつれ、楽曲の新たな感じ方をして頂けるはず」とのコメントからは、今後の展開が一層主題歌とリンクしていくことも予感させる。まずはドラマの結末に想いを馳せつつ、Uruの歌声に酔いしれたい。(渡部あきこ)