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『伝説のお母さん』“モブ夫”に非難殺到! 憎めない愛嬌を漂わせる玉置玲央の表現の幅

2020年02月08日 07:21  リアルサウンド

リアルサウンド

玉置玲央(写真提供=NHK)

「ああああああああ モブすげえムカつくううううううう」
「モブ夫むかつく。お口パッカン開けてゲームする横面張り倒したい」
「モブ夫、無能すぎ」
「取り敢えずモブくんにお亡くなりいただこう」
「魔王よりモブくんやっつけたい…と言うお母さん多いのではw」


【写真】『伝説のお母さん』で“保育士勇者”役の杉浦太陽


 これらは、2月1日にスタートした『伝説のお母さん』(NHK総合)で、前田敦子演じる「伝説の魔法使い」メイの夫・モブ(玉置玲央)に向けられたTwitter上でのつぶやきだ。おそらく今クールのドラマで、女性視聴者たちを最もイラつかせるキャラではないだろうか。


 同作は、かねもと原作の同名コミックのドラマ化で、待機児童やワンオペ育児など、“無理ゲー”な問題が山積する子育てを「ファンタジーなのにリアル」に描くという、ロールプレイング子育てストーリー。


 第1話では、8カ月の赤ちゃんを抱えるメイのもとに魔王討伐の依頼がきたものの、保育所に空きはなく、実家の母は遠方で頼ることができず、悩んでいると、突然モブが会社をクビになり……という展開が描かれた。


 一見、渡りに船の状況だが、「俺が専業主夫になれば良いってことだろ?」「育メンとか、今流行ってるし、なんかカッコいいじゃん。俺に任せろって」と笑顔で快諾するモブの安請け合いぶりには、嫌な予感しかしない。


 そして、メイが赤ちゃんをモブに預け、伝説のパーティ再結成のために少し留守にしていた間に、案の定、赤ちゃんは大泣き。モブときたら、「作り方わかんねえ」「むずくない?」という理由で離乳食もあげず、「おしっこならまだいいけど、うんちのオムツ替えるの、男にはハードルたけえだろ?」という理由でオムツも替えず、ヘッドフォンをしたままゲームをしているのみで、挙句、「子育てとか、無理でしょ。俺、向いてない」と言ってのける。さらに、トドメはこのセリフだ。


「やっぱ考えたんだけどさー、仕事はお前じゃなくても良いじゃん。でもさ、子育てはさ、絶対に男親じゃなくて、母親のほうが良いと思うんだよ。母親のかわりは、誰にもできないだろ?」


 なぜか「良いこと言った」感を出した後、すぐさま口をポカーンとあけてゲームを続行する姿には、激しい怒りを覚えた女性が多かったことだろう。その一方で、呆れと疲れで脱力し、思わず渇いた笑いを放った女性もいたのではないか。


 このクズ夫のモブを愛嬌たっぷりに演じる玉置玲央が、とにかく巧い。決して暴力的だったり高圧的だったりするわけではなく、態度は明るく軽く、実にソフトなのだ。赤ちゃんのことも可愛くないわけではないのだろうが、ただちょっと頼りなくて、調子が良くて、自分本位で、おこちゃまなだけ……というのが、いざ子どもを持ってみると、一番タチが悪いというリアルを、痛烈に感じさせる。


 なぜなら、言動はいちいち腹立たしいが、そこに悪意はなさそうに見えるし、背を丸めて両膝の間に手をはさんで喋る姿を見ると、怒りづらい気もするし、無邪気にゲームをする姿は、うっかりすると愛らしくも見えてしまう。おそらく子どもを持つ前、あるいは結婚する前だったら、こうした子供っぽさや自分勝手さも、女性にとって可愛く見えることがあるだろう。そして、世に数多いる、何もできない・やらない夫のことを「うちの大きな長男」などと呼んで許してしまう女性たちの心理も、ここにある気がする。


 そして、そうしたどこか憎めない愛嬌を漂わせることで、単なる「頼りない、無能な夫」で終わらせないところが、玉置玲央の表現の幅であり、それが地上波ドラマで観られる贅沢さを噛み締めずにはいられない。


 というのも、玉置玲央といえば、劇団「柿喰う客」に所属し、劇団ユニット「カスガイ」を主宰する俳優・演出家で、もともとは舞台を中心に活躍してきた人だからだ。


 本当のところ、これまでも朝ドラ『花子とアン』(NHK総合)で帝大生・宮本(中島歩)の友人・田中役や、『真田丸』(NHK総合)の織田信忠など、多数のテレビドラマで彼の顔は見てきていた。しかし、色白美肌+切れ長の目で、低体温そうな整った塩顔は、それぞれ「玉置玲央」という俳優の名前には結びついていなかった。


 彼が映像の世界で一躍注目されたきっけかは、大杉漣の最後の主演映画で、エグゼクティブプロデューサーも務めた『教誨師』。映画初出演だった玉置は、本作で大量殺人を犯しながら、自らを正当化し、教誨師を翻弄する死刑囚・高宮を演じた。


 大杉漣演じる教誨師を前に、自分の罪をまるで他人事のように置き捨て、薄ら笑いで死刑制度について講釈をたれる高宮の表情・語り口はセンセーショナルで、二人の掛け合いは息を飲む緊迫感があった。おそらくこの作品で、「すごい役者が現れた」と強く認識した人も少なくないだろう。その演技は高く評価され、第73回毎日映画コンクール・スポニチグランプリ新人賞も受賞している。


 さらに昨年7月期には、『TWO WEEKS』(カンテレ・フジテレビ系)で柴崎(高嶋政伸)の手下・ホンダを演じ、同時期8月末からは『サギデカ』(NHK総合)では、すぐに同一人物と気づかないほど別人の表情を見せた。彼が演じたのは、詐欺アジトの「店長」。登場時は当然「悪人」に見えるだが、振り込め詐欺のかけ子・加地(高杉真宙)とのやりとりの中から、ふとしたときに、人懐こい笑顔や、弱さ、悲しさが見えてくる。そんな「店長」が見せた多面性に、「死亡フラグ」を確信した視聴者は多かったろう。そして、そうした店長の存在が、加地の混乱や焦燥感、暴走のきっかけともなった。


 ちなみに、特筆すべきは、彼の身体能力の高さ。特技はバク転や宙返りだが、『サギデカ』で見せた、お遊びでやってみて華麗にできてしまったポールダンス、全裸で水死体となっていたときの水際の位置取りの確かさからもそれはうかがえる(ちなみに、近年、ドラマで見せた美尻としては、『仮面ライダー響鬼』の斬鬼/松田賢二以来ではないだろうか)。


 また、今年は『半沢直樹II エピソードゼロ 狙われた半沢直樹のパスワード』(TBS系)でワールドビッグデータの社員で、尾形直人演じる城崎と共謀し、何百億もの金を盗み取ろうとする来栖を演じていたし、NHK大河ドラマ『麒麟がくる』では、鉄砲づくりの名手・伊平次として出演する(第6話のキーマンになりそうだ)。


 清潔感と同時にある種のユルさ・チャラさを持ち、繊細さと不敵さ、冷たさと優しさ、色気と愛らしさを併せ持つ玉置玲央。「どこかで見たことある顔」を一度認識してしまうと、どうにも気になり、その姿を常に目で追ってしまう。


 『伝説のお母さん』では、ある意味、クズ夫のモブの成長が裏テーマになるようだし、今後、映像の世界でますます活躍していく役者の一人だろう。


(田幸和歌子)