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新型iPhone 12は環境に優しくない? 「携帯市場における持続可能性」問題の大きな分岐点となるか

2020年02月05日 12:02  リアルサウンド

リアルサウンド

Apple公式HPより

 ここ最近、iPhone 12の情報が次々とリークされている。一方で、Appleや業界全体が携帯電話をより環境に優しいものにすべく、根本的な再設計を行うべきだ、という議論もなされており、その矛先がiPhone 12へ向くことになりそうだ。


(参考:iPhone SE2の製造・出荷計画、コロナウイルスで大打撃? 工場閉鎖の可能性も


 先のダボス会議・世界経済フォーラムでは、スマートフォン等、電子廃棄物の問題について、議論が行われた。 E-waste CoalitionとWorld Business Council for Sustainable Developmentの共同調査によると、電子廃棄物の物質価値は世界全体で625億米ドル(約6兆8000億円)で、世界の銀鉱山の年間生産量の3倍にも達している(参考:https://www.forbes.com/sites/jeroenkraaijenbrink/2020/02/03/why-isnt-the-new-iphone-12-more-eco-friendly/#37b8358e27b3)。


 これを報じた『Forbes』は、「より環境に優しい電子機器の必要性」について強く訴えている。


 電子廃棄物(化学物質、プラスチック、スクリーン、鉱物等)は、世界で最も急速に増えている廃棄物のひとつだ。国連はそれを「電子廃棄物のツナミ」と呼び、深刻に捉えている。気候変動と経済的観点から対策の緊急性は明らかだが、携帯市場は成長分野であり、電子機器の需要の高まりから、鉱物やその他の天然資源が不足している現状。将来的には、スマートフォン生産に必要な天然資源は枯渇するとされている。


 エレクトロニクスの製造メーカーは、製品とプロセスを環境に優しいものにする必要があると見られる。例えば、『Rank a Brand』のブランド持続可能性・エレクトロニクス部門の格付けにおいて、Aには該当するメーカーがなく、Bも環境への影響を最小限に抑えて設計および製造されたスマートフォンの開発を目指すオランダの企業・Fairphoneのみ。AppleはCに格付けされている(参考:https://rankabrand.org/electronics)。


・なぜAppleに厳しい目が向けられるのか?
 同記事で『Forbes』は、なぜAppleに厳しい目を向けるべきなのか、次の5つのポイントを指摘している。


(1)Appleは企業として世界で2番目に高い時価総額(1兆4,000億米ドル・約153兆円)で、年間総利益は約1,000億米ドル(約10兆1,000億円)だった。


(2)「人はそれを提示するまで、何が欲しいか知らない」と故スティーブ・ジョブズ氏が言ったように、Appleは顧客に影響を与え新たな市場を創造することを目指している。


(3)Appleは、ソフトウェア、ハードウェア、コンテンツ等、バリューチェーンすべてを完全にコントロールできる。


(4)Appleは、かつて競合他社をはるかに上回っていたが、もはや遅れをとっている。再び業界のリーダーになるために、環境対策が必要だ。


(5)Appleは、iPhoneを分解するリサイクルロボットに投資することを1月に発表し、既に動きだしている。


 Appleの環境・ポリシー・社会的イニシアチブ担当バイス・プレジデントのリサ・ジャクソン氏は以前、持続可能な製品に対するAppleのコミットメントは明確だが、必ずしも完全に実現されているわけではないと述べている(参考:https://www.independent.co.uk/life-style/gadgets-and-tech/features/iphone-11-apple-lisa-jackson-interview-green-sustainable-environment-a9151341.html)。世界的な影響力も大きいうえ、現状を把握し、準備を進めているApple社には、各国から注目が向けられており、今回の指摘もそのひとつ、というわけだ。


・電子廃棄物を削減するための2つの戦略
 電子廃棄物への対策には「生産の削減」と「生産時の再利用」の2つの戦略がある。


 「生産の削減」は、消費者がより長く使えるように電子機器の寿命を延ばすことに焦点を当てるもので、オランダのFairphoneやドイツのShiftphone等が、この戦略を採用。EU(欧州連合)は、電子機器には修理をする権利があるとし、メーカーに10年間修理を義務付ける方針を示しており、米国でも同様の動きがある(参考:https://www.bbc.com/news/business-49884827)。


 携帯電話は5年か10年は使えるが、消費者は2年ごとに新機種を購入することを好んでいる。そのような購買行動が変わらない限り、FairphonesやShiftphonesを受け入れるのは、少数派に留まるだろう。


 一方、「生産時の再利用」戦略は、現在の消費行動に固執している限り、「電子機器を回収し、リサイクルすること」ができるくらいだろう。どちらにしても、根本的な変化が必要だ。


 携帯電話の進歩は日進月歩で、消費者がより高性能な機種を欲するのは理解できるものの、いまや世界中で利用されており、全体としてはかなりの環境負荷になっている。新機種する際は、こういった環境問題についても議論がなされることが当たり前になってほしい。


(Nagata Tombo)