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逮捕の男性「夕食なかったのは違法」→都に1万円の賠償命令 どうしてこうなった?

2020年02月05日 11:12  弁護士ドットコム

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脅迫容疑で警視庁に逮捕された男性が、食事を与えられなかったとして東京都を訴えていたが、東京高裁は1月15日、対応は違法だったとして約1万円の賠償を命じた。


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報道によると、男性は2018年3月2日午後4時半過ぎに逮捕された後、外部の病院を受診し、午後10時過ぎに留置場に収容された。この間、夕食は提供されず、翌朝に苦情を申し立てて、午前7時に朝食を提供されたという。



なぜ、東京都は敗訴したのだろうか。泉田健司弁護士に聞いた。



●午後4時に逮捕、午後10時に留置場へ…夕食に間に合わず

そもそも、容疑者は留置場で法的にどのような待遇を受けることが定められている?



「『刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律』という長い名前の法律があって、『刑事施設被収容者処遇法』と略されます。



この法律は、刑事施設に収容された人の処遇が定められていて、同法の40条1項2号は、収容者に食事や湯茶の支給を義務付けています。



そして、食事の時間については、朝食が午前6時30分から午前8時30分まで、昼食が午前11時から午後1時まで、夕食が午後4時から午後7時までの間で、刑事施設の長が定めるということになっています(法38条、同法施行規則12条1項1号)」





では、今回のケースは?



「今回の男性は、午後4時に逮捕されているので、本来は、留置場に到着後、夕食は食べられたはずでした。しかし、病院に行ったために、留置場についた午後10時過ぎには、すでに食事時間を過ぎていたため、次の朝食まで食事がとれませんでした。



そのため、この男性は、逮捕後、病院等で時間がかかって留置場の食事時間に間に合わないならば、警察は、別途食事を提供する義務があったと争っているのです。



一審の東京地裁は、逮捕はしているが留置場到着前だから、食事提供の義務はないと判断しています。ところが、東京高裁は、『逮捕されても生命・身体の維持に必要な活動を行うことは保証されなければならない』として、食事提供義務を肯定しています。



誤解を恐れずに簡単に説明すると、一審は、上記の食事の提供を義務づける法律はあくまで収容者のための法律で、留置場に到着する前の人は、たとえ逮捕されていても収容者ではないから適用されないと判断したわけです。



他方、東京高裁は、収容前だからといって、逮捕されて身体が拘束されている状態なのは同じだから、食事を提供しなければならなかったと判断したわけです。



たしかに、逮捕されている以上、自分で食べ物を買いに行けませんから、留置場に到着していないことを根拠に食事の提供義務はないとした地裁の判断は、形式的に過ぎる感じがしますね」



●「高裁判決は被疑者の権利を重視したもの」

判決の賠償命令「1万円」は妥当?



「『晩御飯抜き』はとてもつらいですが、としても、一晩の晩御飯抜きで約1万円というのは、首をかしげたくなります。ジャイアンはジャイアンのママを何回訴えられることでしょうか。



とはいえ、今回、高等裁判所が賠償を認めたのは、これが逮捕された人の身に起こったからです。ゴーン氏の逃亡事件から、日本の刑事司法のあれこれが問題視されていますが、今回の高裁判決は、被疑者の権利を重視したものとも解釈できます。



いろいろややこしく解説しましたが、私自身がどう思っているかというと、病院に時間がかかったのだから仕方ない部分があるし、人は一晩ご飯を食べなくても、特段、健康を害することもないでしょうから、都が賠償しなければならないような話ではないと思っています。



もちろん、食事を提供したほうがよかったとは思いますが、裁判官によっては請求棄却の可能性も十分あったと思います」




【取材協力弁護士】
泉田 健司(いずた・けんじ)弁護士
大阪弁護士会所属。大阪府堺市で事務所を構える。交通事故、離婚、相続等を中心に地域一番の正統派事務所を目指す。
事務所名:泉田法律事務所
事務所URL:http://izuta-law.com/