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モデル実在なら「CG」でも児童ポルノにあたる…「最高裁」はどんな決定をしたのか?

2020年02月03日 10:32  弁護士ドットコム

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写真を参考に、コンピューターグラフィックス(CG)で、裸の女の子をリアルに描いた画像が、「児童ポルノ」にあたるかどうか争われた裁判で、最高裁判所は1月27日、CGを作成したグラフィックデザイナーの上告を退ける決定を下しました。これによって、罰金30万円の有罪が確定することになりました。はたして、今回の最高裁決定は、どんな影響があるのでしょうか。


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●どんな裁判だったのか

この裁判では、少女が衣服をまったく身に付けず、寝転んでいる姿を撮影した写真(1982年~1984年に刊行された写真集に掲載)を参考に作成されたCG画像集(『聖少女伝説』『聖少女伝説2』)におさめられたCG34点(『聖少女伝説』18点、『聖少女伝説2』16点)が、『児童ポルノ』にあたるかどうかが争われました。



1審の東京地裁は2016年3月、CG34点のうち、31点(『聖少女伝説』18点、『聖少女伝説2』13点)について、児童ポルノ性を否定したうえで、残りのCG3点(『聖少女伝説2』)について、児童ポルノ性を認めて、グラフィックデザイナーに懲役1年・罰金30万円(執行猶予3年)の有罪判決を言い渡しました。



控訴審の東京高裁は2017年1月、1審と同様に3点のCG画像について「児童ポルノにあたる」と判断しました。一方で、「違法性の高い悪質な行為とまでは言えない」として、罰金刑のみに刑を変更しました。さらに、児童ポルノが含まれていない『聖少女伝説』の提供行為については無罪としていました。



今回の最高裁決定によって、罰金30万円の有罪判決が確定することになりました。どのような影響があるのでしょうか。グラフィックデザイナーの弁護人の1人をつとめた奥村徹弁護士に聞きました。



●具体的な争点はなんだったのか

まず、『保護法益』(その法規制によって保護される利益)として、描写された児童の権利侵害(個人的法益)を重視するのか、それとも、将来にわたる性的搾取および性的虐待を防止するという利益(社会的法益)を重視するのかが争われました。



弁護団は、CGの製造行為時点では、被写体の女性が『現在は児童ではない』ことが明らかだったため、製造時点で児童ではないから、『児童ポルノにあたらない』と主張していました。



控訴審の判決は、児童ポルノ罪の保護法益について、個人的法益だけではなく、社会的法益も含むとして、今回の製造行為時点で児童でなかったとしても『児童ポルノとして児童の権利が侵害されたことはないものの、児童を性欲の対象とする風潮を助長し、児童の性的搾取及び性的虐待につながる危険性を有するという点では同様である』として、社会的法益を加味し、すでに児童でなくなっていても、児童ポルノ製造罪が成立するとしました。



上告審でも、この点を最初の上告理由としましたが、児童であったときに撮影された写真集を素材にしていることから、特に保護法益について判示することなく、控訴審判決を追認して『当該物に描写されている人物がその製造時点において18歳未満であることを要しないというべきである』とされました。



ただし、最高裁は「『児童ポルノ』とは、写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物であって、同項各号のいずれかに掲げる実在する児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものをいい、実在しない児童の姿態を描写したものは含まないものと解すべきである」と初めて明確に判示しています。



つまり、基本的には『個人的法益』に対する罪であることを明らかにしています。



この点、山口厚判事の補足意見は『児童ポルノ製造罪は、このような性的搾取の対象とされないという利益の侵害を処罰の直接の根拠としており、上記利益は、描写された児童本人が児童である間にだけ認められるものではなく、本人がたとえ18歳になったとしても、引き続き、同等の保護に値するものである』として、被写体の権利のみから、この結論を説明しようとするものであり、最高裁も個人的法益を重視しようとする姿勢が垣間見えます。



これによって、児童のように見えるが、人物が実在しない場合や、実在児童の顔に想像で裸体(実在しない姿態)を付け加えた場合には、児童ポルノに該当しないことが明らかになりました。



●児童の認定方法(タナー法)について

被写体の生年月日が特定できない場合、国内では、専門家が外観の乳房・陰毛の発育状況から、年齢を推定するという立証方法(いわゆるタナー法)が用いられることが多く、今回のケースでも、当初、34画像がタナー法による立証で、児童ポルノとして起訴されました。



しかし、実際に診察しないで年齢を推定するというのは、もともと信用性が低く、1審でもその点を論難されるなどして、3画像だけが児童ポルノと認定されたという経緯があります。控訴審・上告審でも、タナー法には全面的に信用性がない、3画像についても児童性が立証されていないと主張しましたが、最高裁決定では、判断されませんでした。



実は、タナー博士(イギリスの小児科医、タナー法の提案者)自身もこのような使われ方には反対したという手紙(Misuse of Tanner Puberty Stages to Estimate Chronologic Age)が公表されています。欧米の刑事訴訟では、タナー法が重視されていないようです。



関係する論文が、今回の控訴審でも採用されていますが、遅すぎたようです。児童性の事実認定における今後の宿題となりました。



●児童ポルノ提供罪の『罪数処理』の問題も

少しマニアックな争点ですが、1審判決は、数回の提供行為を『包括一罪』としたため、34画像中31画像が児童ポルノではないと認定されたにもかかわらず、主文では、一部無罪としませんでした。



控訴審では、数回の提供行為を併合罪としたため、非児童ポルノ画像だけで構成される写真集の提供行為については、1審判決を破棄したうえで主文で無罪としました。その結果、量刑も再審査されて、控訴審では罰金30万円に減軽されています。



このように、提供罪の罪数処理は難しい問題で、古い高裁判例では『包括一罪』としたものもあるため、『判例違反』の上告理由としましたが、最高裁決定は取り上げませんでした。



●モデルが実在しない場合は「児童ポルノ」にならない

実は、1999年の児童ポルノ法制定当時から、CGなどによる児童ポルノが危惧されていましたが、自撮りなど、実写の児童ポルノ供給がおとろえないため、今回のケースまで、CGが問題になることはありませんでした。



今回も、実写の写真集を素材として、実写と見紛うレベルの写実であったために検挙されたものと思われ、今後は注意すべきだと思います。



なお、今回の決定は『CG児童ポルノ有罪』などと報道されて、まるでCGによる創作がすべて犯罪になるかのような誤解があるようです。



しかし、「『児童ポルノ』とは、写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物であって、同項各号のいずれかに掲げる実在する児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものをいい、実在しない児童の姿態を描写したものは含まないものと解すべきである」という判示からもわかるように、モデルが実在しない場合には、児童ポルノとなることはありません。



今回の決定や今後の解説を参考にして、無用に萎縮しないことを望みます。




【取材協力弁護士】
奥村 徹(おくむら・とおる)弁護士
大阪弁護士会。大阪弁護士会刑事弁護委員。日本刑法学会、法とコンピューター学会、情報ネットワーク法学会、安心ネットづくり促進協議会特別会員。
事務所名:奥村&田中法律事務所
事務所URL:http://okumuraosaka.hatenadiary.jp/