2020年02月01日 09:21 弁護士ドットコム
夫に死んで欲しいという願いを書きこむウェブサイト「旦那デスノート」。過激な書き込みも多くみられますが、そこに書かれた「復讐方法」が犯罪行為ではないかとツイッターで話題になりました。
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例えば、夫の歯ブラシを掃除に使うというのは、定番の「復讐方法」のようです。サイトには「あまりにも腹が立ったから、旦那の歯ブラシでトイレとお風呂の排水溝、洗面所の排水溝を掃除したよ♪」、「洗面所&便器の掃除、やってみました!いや~気分爽快っすね!」といった書き込みが相次いでいました。
他にも「飲み物に雑巾の絞り汁をたくさん入れる」、「コンタクトレンズケースにハイターを落とす」など様々な「復讐方法」がシェアされていました。
さすがに実際にはやっていないと信じたいですが、こうした行為は夫婦でも犯罪になるのでしょうか。坂野真一弁護士に聞きました。
ーー便器掃除をされた歯ブラシを使うと、体にも影響がありそうです。
そのようなことが実際にあれば非常に恐ろしいですね。
歯ブラシによる便器掃除により、細菌やウイルスが歯ブラシに付着し、その結果、夫の体調が悪化した場合には、傷害罪(刑法204条)に該当する行為と考えられます。法定刑は15年以下の懲役または50万円以下の罰金です。
傷害罪は通常、物理的な有形力(暴力など)によって生じますが、判例上は、例外的に無形的な行為による傷害罪も認められています(平成24年1月30日最高裁決定)
また、便器が清潔ではないことは妻の側も当然認識していますから、歯ブラシによる便器掃除が原因で夫に何らかの体調不良が生じることまでの認識・認容があるといえます。したがって、傷害罪の故意も認められるでしょう。
ーー体調に変化がなかった時は、どう考えられるのでしょうか。
体調不良の結果が生じない場合、傷害罪は成立しませんし、暴行罪にも該当しません。また、妻が夫の歯ブラシで便器掃除をしていることを証明することも、簡単ではありません。
現実的には犯罪に問われる可能性が高いとまでは言えませんが、夫が体調不良を起こした場合、夫の仕事に差し支えたり、看病の手間が余計にかかったりする可能性がありますので、実際に行うことは避けるべきでしょうね。
ーー自分の歯ブラシを掃除に使われたら、もう使いたくないですね。
歯ブラシで便器掃除を行った場合、社会通念に照らせば、事実上または感情上、歯ブラシとしての本来の使用目的で使うことはできなくなります。
器物損壊罪(刑法261条)でいう「損壊」とは、判例上、「物質的に器物そのものの形体を変更または滅尽させる場合だけでなく、事実上または感情上その物を本来の目的に供することができない状態にさせる場合を含む」とされています。
したがって、歯ブラシで便器掃除を行う行為は、器物損壊罪にも該当する行為といえます。
器物損壊罪の法定刑は3年以下の懲役または30万円以下の罰金もしくは科料です。なお、器物損壊罪は親告罪(刑法264条)ですので、告訴が必要となりますし、歯ブラシの経済的価値はわずかなので、実際に処罰される可能性は低いと思われます。
【取材協力弁護士】
坂野 真一(さかの・しんいち)弁護士
ウィン綜合法律事務所 代表弁護士。京都大学法学部卒。関西学院大学、同大学院法学研究科非常勤講師。著書(共著)「判例法理・経営判断原則」「判例法理・取締役の監視義務」(いずれも中央経済社)、「先生大変です!!」(EPIC社)、「弁護士13人が伝えたいこと~32例の失敗と成功」(日本加除出版)等。近時は相続案件、火災保険金未払事件にも注力。
事務所名:ウィン綜合法律事務所
事務所URL:http://www.win-law.jp/