1月19日から放映スタートとなった『麒麟がくる』。僕もリアルタイムで視聴したが初回は拡大版ということもあって、ちょっとした映画みたいになっていた。これまでの大河ドラマに比べて衣装が鮮やか過ぎる印象があったが、その煌びやかさもそこまで嫌悪をもたらすものではない。
ドラマ部分も締めるところは締め、緩む部分で緩むという緩急がしっかりしているので面白かった。今回はこの『麒麟がくる』について、ちょっと色々と現状で思うところを書いていきたい。(文:松本ミゾレ)
沢尻ロスと五輪のために話数短縮、それを押しのけての上々の滑り出しでは?
とにかくこのドラマは船出から困難に直面していた。帰蝶(濃姫)役としてキャスト発表されていた女優の沢尻エリカが逮捕されてからというもの、NHKの大河班は心身両面でかなりの苦労を強いられたに違いない。帰蝶と言えば織田信長と切っても切れない重要人物であるので絶対に登場させねばならない。
結局、当初放映開始予定からずれ込んでの19日放映スタート。代役として急きょ抜擢された川口春奈の奮闘もあってなんとか漕ぎ出したが、この不祥事と、今年開催される東京オリンピックもあって、本大河ドラマは全44話と決定した。従来であれば47話で描かれる戦国群像劇が、今年に至ってはやや短い。
困難なスタートを強いられた『麒麟がくる』だが、蓋を開けてみれば初回放映の視聴率は初回19.1%。第2話も17.9%とかなり好調である。前年度の『いだてん』が低視聴率に苦しんでばかりの印象であったが、決してあのドラマの内容は悪くなかった。なぜか数字がついてこないという有様だったけど、ひとまず『麒麟がくる』で大河ドラマの面目は保たれたこととなる。
登場人物の彩り豊か、群雄割拠の様相に目が離せない
僕はここ2年ばかし、戦国時代を舞台にした大河ドラマを待ち望んでいた。やっぱり戦国モノこそ大河って感じがする。
それだけに『麒麟がくる』が初回から、描こうとしていたビジョンが視聴者に分かりやすく提示されていたのは嬉しいところ。謎の多い明智光秀(演:長谷川博己)の前半生の一コマから物語がスタートし、美濃の置かれている状況が2話までに無理なく、押しつけがましくない描写でさらりと説明されている。
この時代、明智が仕えていた成り上がりの斉藤家には、のちに美濃の蝮と称される斉藤道山(演:本木雅弘)がおり、尾張の織田と敵対している。その織田方の頭領は織田信秀(演:高橋克典)。信長の父がまだ現役で国盗りに出向いているという時代だ。
さらに京には三好長慶(演:山路和弘)とその忠臣にして、戦国三大梟雄との悪名も高い松永久秀(演:吉田鋼太郎。久秀は最新の研究ではそこまで悪逆でもなかったし爆死もしていないらしい)も健在だ。駿河には当代最強勢力を擁する今川義元(演:片岡愛之助)もおり、足利将軍家もまたその勢力を伸ばさんとしている。
もちろん、豊臣家も徳川家もやがて台頭するので、戦国ファンとしては今から楽しみが多すぎる。
特に僕が個人的に注目しているのが、足利家13代将軍にして"剣聖"こと足利義輝(演:向井理)である。向井が演じ、武芸百般に通じるこの剣聖将軍義輝、とにかく大河映えする最期が待ち受けているので、今からとても楽しみだ。
まさにこの時代は成り上がりから権威ある将軍家、南蛮からの武具を重用する者に調略の天才などなど、各地に天下取りを狙う者がひしめいている。その時代に翻弄されることになる明智光秀の行方に、目が離せない。
さらに言えば、各国の武将たちもただただ勇猛であったり、残虐であるばかりの描写ではない。戦に敗れた織田信秀は家臣や親族の死を悔やみつつ「城に帰って、寝るかぁ」と声が裏返るほどに疲弊する様をコメディリリーフ的に見せてくれる。
第2話終盤で土岐頼純を謀殺した際に歌を披露していた斉藤道山は、冒頭でその歌を1人で練習している。主役の光秀だって要所要所で言動がおかしくなって抜けている面も見せてくれるし、その光秀と知り合い、有り金と引き換えに銃を送った松永久秀のキャラは、これまでの大河とはかなり異なっていた。
本作はもちろんドラマなので、必ずしも人物描写は史実に基づくものではない。だけども、それをさておいても魅力の多い登場人物だらけで、本当にみんなに観てもらいたいと感じる作品だ。
未見の方も是非、毎週日曜夜20時は、NHK総合にチャンネルを合わせてほしい。