2020年01月27日 18:32 弁護士ドットコム
2017年5月、兵庫県神戸市の児童館で、小学2年の男児が20代女性職員の首をバットで殴る事件が起きた。被害にあった女性は、久保田紋加さん(仮名)。今も頸部の痛みなど後遺症に悩まされており、病院に通いながら小学校の非常勤講師をしている。
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「子どもが加害者で大人が被害者だと、なぜケアが受けられないのか」。
久保田さんは1月27日、参議院議員会館で開いた集会で、実態調査と教育・児童福祉関係者が安心して働ける環境づくりを求める3万2699筆のオンライン署名を厚生労働省の担当者に手渡した。
事件が起こったのは、2017年5月24日。当時大学院に在学しており、児童館でのアルバイトをはじめたばかりだった。久保田さんが注意したことをきっかけに、小学2年の男児から突然後ろからバットで首を殴られ、約2週間入院した。「まさか7歳から殺されそうになるなんて」と振り返る。
2017年6月、兵庫県警に被害届を提出し、県警は男児を児童相談所に通告した。労災も申請したが、2019年10月に「業務による強い心理的負荷が認められない」などとして、不支給決定となった。現在不服を申し立てている。
久保田さんが勤務した児童館は、市が管理運営を民間事業者に代行させる「指定管理者制度」をとっていた。事故を受け、神戸市に対応を求めたが、応じてくれなかった。また、指定管理者からは「児童館の共済制度に入っていないため、労災申請をしてほしい」と言われた。
事件から2年以上が経過した今も、法的措置や賠償のめどは全く立っていない。
一方で、同じ「指定管理者制度」によって運営されている児童館でのトラブルで、神戸市がすぐに対応した事例もある。
2019年5月、神戸市の児童館で小学2年の女児が、学童保育中に複数の男児に脅され体を触られる被害にあった。市は指定管理者に運営の改善を指導し、全ての市立学童保育施設に通知を出している。
なぜ、ここまで対応が異なるのだろうか。
名古屋大学大学院の内田良准教授は「子どもから職員への暴力があると、子どもが悪いではなく、職員の指導力不足として片付けられる」と児童福祉に根付く文化を指摘。
「暴れる子どもたちを理解しなければいけないという聖職的な考え方があり、被害が見えてこない。先生に指導できないことがあるという前提で考えていかなければならない」と話した。
子どもから教職員への暴力事件は、小中高校を対象に毎年「問題行動調査」が行われているが、児童館や学童保育所など児童福祉施設での実態調査は行われていない。久保田さんは「小中高校以外では暴力が起こらない、何もないかのようにされている」と訴える。
久保田さんの元にはSNS やオンライン署名を通じて、子どもと接する仕事につく人から「似たような経験がある」、「ハサミで切りつけられた」との声が集まっている。
久保田さんは匿名で活動し、現在の職場でも事件の被害者であることを明かしていない。後遺症があることは伝えているが、その原因は伏せたまま仕事をしている。
「生き残った自分には、現状を変える使命がある。加害者が誰であろうと、被害者が誰であろうと泣き寝入りする社会であってはならない」