2020年01月24日 11:02 弁護士ドットコム
「【朗報】令和2年4月1日より養育費を支払わず逃げた場合6ヶ月以下の懲役、50万円以下の罰金となります」。養育費に関するこんなツイートが約5万回リツイートされ、話題となっています。
【関連記事:「16歳の私が、性欲の対象にされるなんて」 高校時代の性被害、断れなかった理由】
これは2019年4月1日から、養育費を強制的に回収するときの民事執行の手続きを定める「改正民事執行法」が施行されることによるものです。
ツイートは、全くの間違いというわけではないのですが、養育費を払わなかった人が必ず罰せられるわけではありません。どのような条件があるのか、林正和弁護士の解説とともに、ポイントをまとめました。
養育費を支払わない人に対しては、「財産開示手続き」を行うことができます。これは相手を裁判所に呼び出して、自分の財産について開示してもらうものです。
これまでは、「財産開示手続き」を無視したり、虚偽の回答をしたりした場合、30万円以下の過料の行政罰に処せられることになっていましたが、改正法でこの制裁が強化され、6月以下の懲役または50万円以下の罰金の刑事罰になります。刑事罰のため、前科となります。
これまでは30万以下の過料ということで、実効性に乏しく、利用実績も年間800件前後でした。林弁護士は「損得勘定だけで言えば、財産を隠し持っている人は、財産開示手続に応じず、そのまま隠し通した方が得だと感じてしまう」と指摘します。
今後はこの手続きを利用する人が増えるかもしれません。
ただ、養育費の支払いを求めるために財産開示手続きを利用するには、養育費について調停調書や判決、公正証書などで取り決めされている必要があります。
協議離婚がおよそ9割の日本では、養育費の取り決めについても、そもそもなかったり口約束であったりすることが大半。そのため、養育費を払わなかったからといって、刑事罰の対象になる例はあまり多くないとみられます。
他にも、「改正民事執行法」により、第三者から相手の財産に関する情報を取得する制度が新設されました。裁判所が相手の銀行口座や勤務先の情報を提供するよう命じるようになるため、財産を差し押さえやすくなります。
これまでの財産開示手続きでは、先ほども書いた通り、30万円以下の過料という制裁があったものの、相手が自ら情報を開示するかどうかにかかっていました。
例えば、銀行支店などがわからない場合、どこの支店か予測して差し押さえの申し立てをするしかありませんでした。林弁護士は「相手の利用している銀行口座や勤務先を調査することは簡単ではなく、興信所などに頼むと多額の費用が掛かってしまいました」と言います。
今後は裁判所に申し出ることで銀行本店に情報の照会をかけることができるので、相手の財産をより把握しやすくなることが期待されます。
また、相手が不動産を所有している場合は、法務局に照会ができるようになりました。住民税を徴収する市町村や厚生年金を徴収する年金機構に対しても、情報の照会をかけられるようになり、相手の勤務先が分かるようになります。
では、離婚したときに公正証書や調停、判決などで養育費を決めていない人は、4月からの新制度を利用できないのでしょうか。
林弁護士は「養育費は、離婚後でも家庭裁判所に調停・審判を申し立てることができるため、離婚時に養育費の定めをしていない場合には、速やかに、調停・審判を申し立てるのが良い」と話します。
「基本的には、離婚する際に養育費を定めた方がよいと思いますが、最初に公正証書や調停、判決など『債務名義』というものを作る必要があるかは、ケースバイケースです。
例えば、どうしても離婚を急ぐ必要がある場合には、離婚だけ成立させて、離婚後に養育費の支払いを求める調停を申立てるということもできます」(林弁護士)
国の調査では、母子家庭の54.2%、父子家庭の74.4%が「養育費の取り決めをしていない」と回答しています(平成28年度全国ひとり親世帯等調査)。何も取り決めをせずに離婚をした人は、まず、きちんと養育費を定めることが必要です。
【取材協力弁護士】
林 正和(はやし・まさかず)弁護士
早稲田大学大学院法務研究科修了。離婚、慰謝料請求、養育費減額請求など、家事分野全般の案件を幅広く担当。
事務所名:弁護士法人丸の内ソレイユ法律事務所
事務所URL:http://www.maru-soleil.jp