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ゴーン問題、法務省「Q&A」はツッコミどころ満載「実態が伴わない制度説明ばかり」

2020年01月23日 18:12  弁護士ドットコム

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日産自動車前会長、カルロス・ゴーン被告人が国外逃亡する前に長期勾留されていたことが、国際的な批判にさらされていることを受けて、法務省は1月21日、「Q&A」で反論する解説をホームページに掲載した。


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この「Q&A」で、全部で14ある。たとえば「日本の刑事司法は『人質司法』ではないですか」という質問に対して、「日本の刑事司法制度は、身柄拘束によって自白を強要するものとはなっておらず、『人質司法』との批判は当たりません」としている。



この「Q&A」をどう見るのか。刑事事件にくわしい神尾尊礼弁護士に聞いた。



●「制度」の説明がメインで「実態」の説明になっていない部分も

今回の「Q&A」は、一言でいえば「刑事司法『制度』の説明」がメインになっており、「刑事司法の『実態』の説明」にはなっていないところが散見されます。「人質司法」との批判に対して、いくら制度が整っていると主張したところで、実態が伴っていなければ反論になりません。



そこで、実態としてどうなのかという点について、刑事手続きの流れ(事件が起きる→捜査する→裁判所に起訴する→裁判を開く→判決が出る)に沿って、説明していきます。



●捜査段階:逮捕に関する裁判官の審査は「形式的」

Q1:日本では逮捕・勾留に当たり、どのような要件があり、誰が判断するのですか。(以下、太字はすべて「Q&A」より)





捜査段階で、犯人と疑われている人を拘束する制度が逮捕であり、(被疑者)勾留です。法務省の回答にあるとおり、拘束できるか判断するのは裁判官ですし、拘束できる要件も限定されています(「Q&A(以下略)」A1)。



ただ実際は、逮捕に関する裁判官の審査は形式的といわざるを得ません。ほぼフリーパスで逮捕が認められているのが現状です。



当番弁護や被疑者段階での国選弁護の拡大で、勾留段階では一定の歯止めが効きつつありますが、それでも勾留は広範に認められています。



特に否認事件(捜査機関がそうだと疑っているものと言い分が一部でも食い違いがある事件と考えていただくのが正確です)では、この傾向は顕著です。逃亡や証拠隠滅をしそうだと簡単に判断され、身柄拘束が安易に認められるケースが散見されます。



●捜査段階:否認事件における「身柄拘束の期間」は長くなりやすい

Q4:日本では、長期の身柄拘束が行われているのではないですか。





勾留される期間は10日で、例外的に延長される仕組みになっています(A1、A4)。



ただ、むしろ20日間が原則ではないかと思うほど延長されやすく、その傾向は否認事件でより顕著です。罪を認めれば、延長されず早く出られるかもしれないということが「自白」の1つの動機になることさえあります。



また、事件を細切れにされて勾留を繰り返す(20日間が何クールもある)こともあります。



Q5:「無罪推定の原則」とはどのような意味ですか。逮捕や勾留を繰り返して長期間にわたり身柄拘束をすることは、この原則に反するのではないですか。





逮捕勾留を繰り返すことは「無罪推定の原則」には反しないとされています(A5)。これは、無罪推定の原則は裁判段階にのみ適用されるので無関係という「定義」の問題で片付けているに過ぎません。



「逮捕勾留が繰り返されることがあること」が、最大20日(23日)と決めた法の建前とどう整合的に理解できるかを真正面から論じるべきでしょう。



●捜査段階:メリットがあるために「自白」してしまうケースもある

Q6:日本では、不当に自白が重視されているのではないですか。捜査機関が、長時間にわたる被疑者の取調べをしたり、自白するよう被疑者に強要したりすることは、どのように防止されるのですか。





たしかに、法務省が回答するとおり、取調べにおいては黙秘権等があり、一部の事件では録音録画もされています(A6)。



ただ実際は、取調室で取調べを受ける「義務」があるとされています。しゃべりたくないと言っても、何時間も質問を受け続けることもあります。



「自白」することのメリットが大きいために、客観的には「自発的に」自白してしまうケースがあることも看過できません。「自白」すれば逮捕されない、早く出られる、起訴されない、罰金で終わるなどの情報があれば、天秤にかけて「自白」してしまうこともあるのです。



全過程の録画も、全ての事件で導入されているわけではありません。取調べ状況の事後的な検証が困難なケースも少なくありません。



●捜査段階:弁護人が取調べに立ち会う権利はない

Q7:日本では、なぜ被疑者の取調べに弁護人の立会いが認められないのですか。





日本では、弁護人が取調べに立ち会う権利がありません。実際に取調室に入れたというケースはごくまれに聞く程度で、ほとんど実現していません。



これについて、法務省の回答では、立会いにより「被疑者から十分な供述を得られなくなる」などの理由が挙げられています(A7)。これは、供述(自白)獲得のためのものと考えているといえます。



実際、いわゆる供述調書は、取調べの終わりに読み上げられ、間違っていないか尋ねられ、サインをします。しかし、一字一句聞き取れているかは分からないばかりか、実際の裁判ではちょっとしたニュアンスが有罪・無罪の分かれ目になることもあります。



弁護人が立ち会っていないと、供述調書をチェックすることができず、裁判で逆転するのは非常に難しくなっていきます。



●起訴・裁判段階:否認事件での保釈は「狭き門」

Q11:日本では、保釈されても家族に会えない場合があるのですか。 Q12:日本では、自白しないと保釈が認められないのですか。





起訴されると、20日間の勾留が自動延長され、原則裁判が終わるまで身柄拘束されることになります。起訴される前はそもそも保釈制度自体がないのですが、起訴されてようやく保釈を求めることができるようになります。



このとき、否認や黙秘をしていることは、保釈を認めるかどうかの1つの考慮要素に過ぎません(A11)。ですので、建前としては、否認していようが保釈は認められることになります。



ただ実際には、否認事件での保釈は非常に狭い門です。結果として、早く出たいから自白するという動機になってしまっています。



●外国人は不利に扱われることも…「公正」と言い切ることに疑問

Q9:外国人の場合、日本で公正な取調べ、裁判を受けられますか。日本人よりも起訴されやすい、有罪になりやすいのではないのですか。





法務省は、外国人だからといって起訴されやすい、有罪にされやすいということはないとしています(A9)。これはそのとおりだろうと思います。



ただ、実際は、身柄拘束の場面などで不利に扱われることが少なくありません。同様の事件であっても、勾留されやすいですし、保釈も通りにくいです。ただ、これは外国人の特性もあるので致し方ない面もあるとはいえます。



もっとも、起訴率や有罪率といった違いのない側面のみ切り出して「公正」と言い切るのはミスリードだろうと考えます。特殊性に鑑みて適切に運用されているかを検討すべきです。



●「国内外の指摘」に応えるのであれば、実態にも踏み込むべき

はじめに述べたように、「Q&A」はこのように制度面の話がほとんどで、実際の取調べの状況や否認した場合の不利益といった実態面への言及が乏しいといえます。



「人質司法の定義がこうだから違う」といった言葉遊びで終わることなく、制度の説明で終わることなく、実際にどう拘束されているのか、どの程度弁護人が関与できているのか、自白した場合と否認した場合とで取扱いがどのくらい違うのかを検討し、法律の理念に則ったものになっているのか検討する必要があると考えます。



残念ながら今回の「Q&A」は、こういった検討の前段階である制度説明で終わっている印象です。「国内外の指摘」に本当に応えるのであれば、実態にも踏み込まなければ不十分なのではないでしょうか。




【取材協力弁護士】
神尾 尊礼(かみお・たかひろ)弁護士
東京大学法学部・法科大学院卒。2007年弁護士登録。埼玉弁護士会。刑事事件から家事事件、一般民事事件や企業法務まで幅広く担当し、「何かあったら何でもとりあえず相談できる」弁護士を目指している。
事務所名:弁護士法人ルミナス法律事務所
事務所URL:https://www.sainomachi-lo.com